第10話 旅立ち

 まぁ試したことがあると大見えを切ったが、やることと言えば普通に思いつきそうなことだけだ。アイラは人間と魔族のハーフだと言っていた。ということは魔族の要素も人間の要素も存在するということわけで、じゃあ僕の能力で魔族の要素だけ封印したら、人間の部分だけ残せるのではないかという仮設を立てた。

 

「正直どうなるかわからないけど、やるだけやってみていい?」

「うん」


 いきなり魔族要素を全部封印するのはリスキーだと思ったので最初は10分の1くらいを封印してみる。


「んっ」


 アイラが少し苦しそうな息を吐く。


「大丈夫?」

「今のところは大丈夫だけど・・・」


 アイラはそう言ってくれるが10分の1で違和感を感じるなら、魔族部分の全部を封印したらどうなるのだろう。最悪呼吸とかできなくなるのではなかろうか。その危険を加味するとこれ以上試さないほうが良さそうだ。


 ということで次の案を試してみる。角や羽に反射する光を封印するというもの。人間の視覚というものは光の反射に頼ってるという事なので、光の反射だけを封印したならば普通の人には見えなくなる。


「じゅあやるよ」

「うん」


 僕は封印能力を使った。アイラの角と羽がスッと見えなくなる。


「どう?」

「見えないから変な感じだけど・・・別になんともない」


 ということだったのこの案を採用してみることにする。この方法は見えなくなるだけで存在しているので、歩いている人間にぶつかる可能性があるし、視覚以外の判別方法だと通用しないという欠点はある。その点をアイラには十分注意してもらえば大丈夫かとだと思う。まぁ見つかったら逃げればいいしね。ちなみにしっぽは体に巻きつけて服の下に隠してもらっている。


 ということで僕らは街に入った。門には警備兵が立っていたが、特に呼び止められることもなく問題なく街に入ることが出来たのでヒット一安心。


 街は美しい石畳と趣ある石造りの家が規則正しく並んでいる。どの家の前にも鉢植えの花が飾ってあり華やかで、通路には多くの人々が行き交い、とても活気がある。中央の道はひっきりなしに馬車が通り、道脇では多くの人々が世間話を行っている。


「とりあえず宿ね。この子達を休ませないと」


 僕はアイラの言うとおりにこの街で宿屋らしきものを探した。これだけ大きな街だ。宿屋はたくさんあるだろう。飛び込みで止めてもらえるかはわからないが、ダメだったら他の店を探せばいい。いつかは見つかるだろう。


 そう思いながら宿屋を探すと想像以上に早く見つかった。宿の主人の話では今は繁忙期ではないため宿は半分以上開いているだろうとのことだ。これは幸運だとばかりに子供たちを部屋に運び込んだ。宿の主人は疑いの目を向けていたが、特に何も言わず部屋に案内してくれた。


「じゃあとりあえず。この街を歩こう」


 僕はアイラにそう提案した。アイラは不安そうだったが、頷いてくれた。ひゃっほーデートだデート!こんなかわいい子とデートだなんてたまには死ぬのも悪くないなと表情に出さず喜んでいた。


「じゃあ、いこう?」


 アイラはもしもの為にローブを着込んだ。角や羽が見えなくても黒いワンピース姿の美少女が歩ているのは確かに目立つ。


 僕らは宿を出ると、まず広場の方に歩いていく。その広場には噴水があり、子供たちが元気に遊んでいる。広場の脇には屋台が立っており、そこでは平べったい雑穀パンにウインナーを挟んだ食べ物が売られている出店。あれはもしかしたら、この世界のホットドック?


「ねぇアイラ。お腹すいてない?何か買ってこようか?」

「うん。じゃあお願いしようかな」

「おっけー!じゃあちょっと待ってて」


 僕は盗賊から得たお金の一部をポケットに忍ばせてきた。街を歩くと言えば食べ歩きやウィンドウショッピングなどを行うと、前世で読んでいたモテ啓発本に書いてあった。


「へいらっしゃい!にーちゃんひとついかがかな?」


 僕が屋台に近づくと屋台のおっちゃんがそう話しかけてくる。


「じゃあ2つお願いします」

「まいどあり!」


 僕がそういうと屋台のおっちゃんは素早くお金を受け取り、ホットドックらしきものを作っていく。


「おじさん。僕らこの街に初めて来たんだけど、何かおすすめデートスポットはないですか?ちょっと彼女にいいとこ見せたくて」


 僕とアイラは付き合ってるわけではないけど、このぐらいの言い方の方が自然だろう。女子にいいところを見せたいという男の欲求はおそらく国が違えども、世界が違えども変わらないはず。


「へぇいいねぇ!じゃあマーケットに行ってみると良いよ」

「マーケット!いいね!もっと詳しく教えてください」

「お安い御用だ!マーケットはこの街で一番活気がある場所だ。農家が持ち込んだ新鮮な野菜とか行商人が持ってきた服やアクセサリーなんかもある。デートには最適だ」

「それはいい事聞いた。ありがとうございます」

「おう。楽しんできなよ!」


 そう言っておっちゃんはホットドックらしきものを二つ手渡してきた。僕は礼を言って受け取るとアイラの方へ走っていく。


「おかえり」


 アイラはホッとした表情で僕の帰りを迎えた。


「ただいま。おいしそうだよ」


 僕はそう言って先ほどのホットドックをアイラに渡した。


「ありがとう」


 アイラがホットドックを受け取る。そして僕らは広場にあるベンチに腰掛け、そのホットドックを食べる。


「おいしい!」


 僕がそういうと、アイラは微笑んだ。


「おいしいね」


 僕は子供のようにはしゃいでしまったと恥ずかしくなる。そんな僕を横目にアイラもホットドックを食べ進める。


「そういえばこの街にはマーケットがあるらしいよ。行ってみない?」

「うーん。人が多いところはさすがに・・・」


 そこで僕はアイラが魔物と人間のハーフだと思い出した。人間社会でその言葉ばれるとどんな目に合うかわからない。


「そうだよね!ごめんね!」

「ううん。いいの。こっちこそごめん」


 2人は無言になってしまった。僕としたことが一体何をはしゃいでたのか・・・。確かに死ぬ前は異性とのデートは一度もしたことがないどころか、幼馴染以外は女の子は話すのが怖いというレベルの非モテだった。だからといってかわいい女の子とのデートに舞い上がってたというのか!舞い上がってたんだなこれが!そのせいでえらい失敗をしまった。くそっ神様!挽回するチャンスをください!


「ねぇ、子供たちが気になるから、一回宿に戻らない?もう目を覚ましてるかも」


 アイラの言葉で僕はハッとした。この街に来た目的を忘れていた。そうだ。子供たちを家まで送り届けないと。


「そうだね。じゃあ食べ終わったら行こう」

「うん」


 そうして僕らは宿の方向へ歩き出す。来た道を戻り、もうすぐ宿に到着しようという時、宿屋に大人たちが出入りしている姿を見る。明らかに客ではない。


「なんだろう?」


 僕がそうつぶやくとアイラは耳に手を当てる。


「ちょっと待って。聴覚を強化するから」


 そんなの事ができるのか。さすが魔族。いや不思議な力がある世界。


「うーん。なんか宿の主人と話してる。子供たちを連れてきたのはどんな見た目をしていたかとか、怪しくなかったかとか」


 アイラが声を拾って僕に伝える。


「ダイレクトに僕らの事っぽいね」

「うん。どうやら私たちの事を盗賊団だと思ってる。あの子たちは拐われたと届け出があってたみたい」

「ということは警察か何か?」

「そうみたいね」

「そっか。じゃあ良かった。彼らに任せとけばあの子達も無事家に戻れるだろうし」 


 僕はホッとした。盗賊団が追ってきたのかと思った。


「でも私達の事を疑ってるみたいだから、あの宿に戻らないようが良さそうね」

「そうか。じゃあ早いけどこの街から出ようか」

「そうだね。門番に話が行く前に出たほうが良いかも」

「了解。じゃあ一緒に旅に出よう。アイラ」

「うん。よろしくね。夏人」


 そう言って僕らはこの街を後にする。

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