ナンセンス!
夏川 俊
第1話、未知との遭遇
宇宙人って、いると思う?
1秒で、地球を何週もしてしまう光が、何億年もかかって到達するほど広い、銀河系。 その向こうには、更に未知なる空間が広がる、無限な空間の大宇宙……
この広い宇宙に、地球と同じように知的生命体が存在する可能性は、充分にあると、僕は思う。
僕の名前は、『 星川 満 』。
都内の高校に通う、ドコにでもいるような、ごく普通の高校2年生だ。
別段、天文学には興味も無く、宇宙人の存在も、な~んとなく 「 いるかな? 」
くらいにしか、思っていなかった。
そう、あの日の朝までは……!
「 みちるぅ~? 起きなさ~い。 いつまで寝てんの? あんた 」
下の1階の方から、母の呼ぶ声がする。
( う~…… もう、起きる時間かよ… だり~ 今日は、日曜じゃないよな? 頼む、日曜であってくれ。 日曜、日曜、日曜、日曜…… のハズ、ないか )
渋々、ベッドから上半身だけ起き上がり、そのまま膝元の布団に、バフッと顔をうずめる。
( 何か… 今朝は、特に、だり~わ…… ホントに学校、休もうかな? )
ふと今日は、数学の課題の提出日だった事を、思い出す。
( くっそ~う…! ダメだ、休めん。 女子だったら、体調悪くて… なんつ~言い訳が、出来るのにな。 …でも毎月、ホントに、そんな体調の悪い日があるなんて、女子は大変だなあ…… )
そのままの体勢で、ウトウトと、15分ほどが過ぎてしまったようだ。
( イカン! マジ、電車に乗り遅れる! )
ガバッと起き上がり、ベッドから出る。 乱れた髪が、頬に掛かる。
( 随分、伸びたな。 そろそろ、切りに行くか )
妙に、後ろ髪も長くなったように感じる。
幼馴染みの健一のお袋さんが、自宅で美容室を経営していて、僕は小さい頃から、健一のお袋さんに髪を切ってもらっている。
健一のお袋さんは、ひょうきんな性格で、僕は好きなのだが、面白半分に髪を切るからイヤだ。 絶壁刈りとか、ウルトラマンヘアー( 想像に任せる )とか。
したがって、かなり伸びないと行かない。 そろそろ、さっぱりするかな……?
大あくびをし、そんな事を考えながら、1階の洗面所へ降りる。
コップに入れられた歯ブラシを取り、磨き粉を付ける。
口に歯ブラシを突っ込み、シャカシャカさせながら、ふと、横の壁にあった鏡を見た。
「 …… 」
女の人が、立っている。
僕と、同じようなジャージを着て、歯を磨いている。 しかも、コッチを向いて。
「 お… おふぁようごわいわふ 」
とりあえず、挨拶をする。
向こうも、同じように挨拶をした。
( 誰だ? この人……? 昨日、親戚かなんかの人が、泊まったのか? )
寝起きで頭が働かない僕は、ワケが分からなくなった。
じっと彼女も、僕を見ている。
「 …… 」
歯磨きを動かす、僕の手が止まった。
( ……オレじゃん…… )
そうだ。
鏡に映ってるってコトは、僕じゃないか……
は? ど~ゆ~コト? 何で僕、女の人になってんの?
これは、夢の続きを見ているのかもしれない。
僕は、ほっぺたをつねってみた。
……痛い。 夢じゃなさそうだ。
左手で、髪を引っ張ってみた。
「 …… 」
地毛だ。
セミロングより、やや短めであるが、間違いなく、僕の頭から生えている。 カツラかと思ったが、そうではない。
顔の輪郭も違う。 明らかに、他人の顔だ。
「 …… 」
僕は、僕であって、僕なのだ。
…でも、あなたは、誰ぁ~れ?
( もしかして、どっきりカメラか? )
僕は、慌てて、隠しカメラがないか、天井付近を探した。
…そんなコト、あるわけない。
僕は、タレントでもなければ、歌手でもない。 フツーの高校生だ。 ターゲットになる、いわれも可能性もない。
…じゃ、何で女の人になってんの?
僕は、胸に触ってみた。
…心臓に、稲妻が走った。
小さいながらも、胸が膨らんでいる。 しかも、めっちゃ軟らかい…!
当然、股間に、手をやる。
ブッと、歯磨き粉のアワを噴出す、僕。
…無いっ! 僕の大切な『 竿 』が無いっ!
まだ、1回も使ってないのに! そんなあァ~…!
がっくりと、洗面所の流しに両手を突き、しばらく僕は、歯ブラシをくわえたまま、放心状態になった。
( 一体、何があったんだ? 何で、朝起きたら、女になってんだよ……! 昨日、何か変なモンでも食ったのか? …いや、食べ物なんかで性別が変わったら、学会がひっくり返るわ。 そんな単純な事じゃない。 どうしよう…… )
ちらりと、鏡を見る。
見覚えの無い女性の顔が、やはり、こちらを見ている。
( 落ち着け…! いいか、落ち着くんだ。 まず、体自体には… 異常は無いな。 手足もあるし、五体満足だ。 うん、ちゃんとツメも切ってあるようだし…… )
僕は、足先の指などを動かして、ちゃんと機能するか、確認し出した。
首も回る。 背中も大丈夫。 腕も動く。
( 異常なのは、性別が違うだけか )
…そこンところが一番重要なのだが、あまりに不具合無く、あまりに自然な為、どうもピンと来ない。
僕は、歯磨き粉を洗い流すと、改めて、鏡を見つめた。
…よく観察すると、年齢は、僕と同じくらいらしい。
涼しげな目元に、すっきりした小顔の、わりと美人である。 少々、キツイ性格の印象を受けるルックスだが、知的な顔立ちだ。
オバハンに変身してなくて、良かった……
( しかし、どうするよ? )
健一なんぞに見せたら、それこそ笑いの種だ。
ソッコーで写真を撮られ、携帯で、朝一番のスクープ映像が、友人に配信されるのは間違いない。 とりあえず、ヤツには今日、会わないでおくか……
ちなみに、僕には、交際1年になる『 河合 かすみ 』と言う彼女がいる。
( …これで、破綻が来るかもしれん。 ああ、どうしよう……! )
こういう時に限って、朝っぱらから携帯が掛かって来るものである。 僕は、試しに、声を出してみた。
「 あ~ 」
…女の声だ。
ご丁寧に、声質まで変わっているのか。 これじゃ、携帯にも出られない。
( とりあえず、留守電モードにしておくか )
タオルで顔を拭き、再び、鏡に映った自分の姿を、しばらくの間、呆然と見つめる。
ふと、ある事に気が付いた。
「 ……第1の難関が、この後、すぐにあるぞ……! 」
奥の台所からは、母が、新聞をめくる音がする。
……何と言って、説明すればいいのか?
朝起きたらこうなってたんだから、僕には、何の責任も無い。
しかし、どうやって切り出そうか……
「 こんなん、出ました 」
…イキナリこれでは、母の心臓が、停止する可能性がある。
「 どもども~! 」
…110番通報、するかもしれん。
「 初めまして。 満です 」
…精神病院に、電話するかもしれん。
実は、僕の母は、空手三段である。
不審者として、朝稽古の練習台にされる可能性が高い。 僕は、そっちの方が、心配だ。 勝気で、おっちょこちょいの母だからな。 だから、親父に愛想つかされて、離婚されるんだ。
離婚の話が出た当時… あれは確か、僕が、小学校5年の時だった。 親父が改まって、神妙な顔で離婚話しを持ち掛けたら、母は、「 あっそう、いいよ 」だったもんな……
まあ、ドロ沼の様相を呈するよりは、良かったケド。
( よし、ここは、ナニくわぬ顔で行こう! )
出た所勝負だ。
ヘタに小細工したって、事実は事実だ。 何か知らんが、朝起きたら、こうなってたんだから、仕方ないじゃないか。 僕のせいじゃない。
母は、テーブルの上に、新聞を広げて読んでいる。
テレビは、朝のニュースをやっていた。 いつも僕が座る場所に、味噌汁と、ご飯が用意してある。
僕は、スタスタとテーブルに行くと、いつものように、フツーに座った。
「 今日は、やけにゆっくりじゃん? 早く食べて、学校行きな 」
チラッと、僕を見た母は、そう言うと、また新聞を読み始めた。
気付かなかったのか……?
僕は、お椀を持ち、味噌汁を一口すすると、言った。
「 なあ…… 今日は、ナンか、体の調子が悪いんだよね 」
母は、新聞を1ページめくり、僕を見ると言った。
「 あんた、先週、終わったばかりだろ? 」
……ナニを言っとるんだ? この母は。
母は、続けた。
「 それと、あんまし物騒な連中とは、関わるんじゃないよ? 風紀向上だか、ナンだか知らないけど… いつも迎えに来るヤツ。 ありゃ、まんま、ヤーさんじゃないか。 とてもじゃないけど、高校生にゃ、見えんね 」
あの~… 母上?
あんた、なに言ってんの?
僕は、ワケが分からなくなり、味噌汁のお椀を持ったまま、固まっていた。
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