第28話、健康優良不良児たちの賛歌
「 おい、聞いたか? 中区2丁目で、何かイベントやってるらしいぞ? 」
「 高校生主宰のイベントらしいな。 模擬店なんかも、あるらしい 」
鬼龍会・仙道寺の合同ネットワークで流された緊急情報は、またたく間に広がった。
「 警備は、何と、あの鬼龍会だそうだ 」
「 鬼龍会が牛耳ってるんなら、ヤバそうな連中は来ないだろうな。 行くか? 」
「 同盟を締結した仙道寺が、運営を任されているらしいわ 」
「 アイツら、バイトでテキヤを経験した連中が多いからよ。 ケッコー、旨いモン、作るぜ? 」
近隣では、知らない者はいない『 有名校 』の主宰は、かなりのインパクトがあるらしい。
「 ねえ、ねえっ! かすみ様、ケーキ焼くそうよっ! 」
「 いやあァ~ん! あたし、食べたぁ~い! 」
かすみFCのネットワークも、負けていない。 情報は、予想以上に浸透していっているようだ。
開催は11時からの予定だったが、予想外に、早くから客が集まって来た。 半信半疑で来た連中も多いようだったが、実際に準備をしている姿を確認し、友人に携帯で連絡をつける姿が見受けられる。
「 これは一体、何の騒ぎかね? 」
道占許可を取っていなかった為、警察が来たが、鬼龍会 星野の冷静な説明で、パトカー2台による、監視のみで収まった。
「 みちる! 凄い人出ね…! 」
制服の上からエプロンを着たかすみが、出店準備の為にやって来た。 主宰本部のテント下で仮眠を取っていた僕は、目を擦りながら答えた。
「 おう、かすみか。 …昨日の夜から、電気配線やブース割りで、クタクタだよ。 おかげで、フロに入らなくても済んだがな 」
「 お疲れ様。 開催は、11時から? 」
僕は、腕時計を見ながら答えた。
「 そのつもりだけど…… 」
…おっと、この時計は美津子先生ので、女性用だ。 文字盤が手首側にある。
「 9時30分か。 ……何か、えらく人が集まってんな。 準備の情況次第では、早めるかもしれん 」
辺りの騒がしい雰囲気と、人の多さを確認しながら、僕は立ち上がった。
星野がやって来て、言った。
「 星… いや、美津子先生。 大通りまで、人が溢れてしまったぞ? 古着交換のブースだけでも、開催を早めたらどうだ? 」
出店は、ほとんどが古着や雑貨を扱うブースだ。
僕は言った。
「 よし、開催を早めよう! 10時から、営業開始許可だ 」
ロープで封鎖してあった、通りへの立ち入りを解除すると、物々交換用の荷物を持った客や見物人たちが、一斉に動き出した。
やはり、Tシャツや、ジーンズなどの古着交換の店に、人気が集中しているようだ。 マンガなどの古本も、盛況である。 因幡大学付属高・多岐学園のOBから、置き場所や処分に困り、出品された女子高の教科書は、驚くほど人気があり、あっという間に、全て無くなった。 マニアの考える価値観は、想像がつかん……
11時頃からは、かすみのケーキ屋も営業を開始した。 仙道寺のお好み焼きも、意外とイケるらしく、常に行列が出来ている。 バンド演奏も始まった。
高校生に混じり、大学生の姿も見える。 世界の飢餓地域の募金活動・発展途上国へのワクチン援助など、ボランティアブースも資料配布などを開始している。 この辺りは、かすみのネットワークによる呼びかけに呼応してくれた連中だ。 通り掛かった一般市民の姿も、かなり見受けられる。
「 奥の倉庫の中に、古いアウトレット商品があるが…… この際、放出しようかね? どうせ持っていても、商品にゃならん 」
休日なのに、わざわざ出て来てくれた店主たちの姿も見られた。
「 イナカから、送って来てくれたトウモロコシだ。 食い切れないんだよ。 コイツも焼いて食べてもらおう! 」
「 OK~! オッさん、醤油ないか? 切れちまったよ 」
「 よしきた、待っとれ! 」
店主と、ヤンキー高校生との交流も、意外とうまくいっているようだ。
通りの巡回は、鬼龍会 風紀部員が見回っており、一般客が投げ捨てたビニールゴミ等を拾って回収している。
「 通りの真ん中に、ポリバケツを用意しろ! 空き缶は、そこに入れるんだ。 ちゃんと、スチール・アルミ・ペットボトルに分けろ! 」
星野が指示する。
「 野郎共っ! 落ちている発砲スチールの皿や、串を拾え! 鬼龍会さんに、遅れを取るんじゃねえぞっ! 」
神岡も、負けてはいない。
警察も、運営状況を見定めしたのか、2台いたパトカーのうち、1台は帰って行った。 残った1台に乗っていた警官も、募金ブースの横で、引ったくり防止を呼びかけるチラシを配り始めた。
「 素晴らしいわ! 美津子さんっ! 休日に、こんなに大勢のお客さんが来てくれるなんて……! しかも、若い人たちばかりじゃない! 警察の方もいらっしゃるし…! 」
祥一と共に、会社前に来た母親は、声を上げた。 予想外の盛況ぶりに、信じられないような表情だ。
僕は言った。
「 既に、来週も出店したいと言う希望者が、多数います。中には、来月の予定を予約したい子たちも… 」
昨日の夜から、徹夜で手伝ってくれた商店街の会長も来て、嬉しそうに言った。
「 菱井さん! イケるよ、これは! いやあ~、この女先生のアイデアには、たまげたね!わしらにゃ、考えつかん 」
母親は、ニコニコ顔で応える。
「 そりゃあ、私の息子の彼女ですから。 …ね? 美津子さん 」
……ゲンキンな親だ。
とりあえず、笑顔を返す、僕。 祥一も嬉しそうだ。
星野が、神岡と共にやって来て、挨拶した。
「 武蔵野明陵 鬼龍会の星野と申します。 今回のイベントでは、警備と外渉を担当しています。 こちらは、出店・演出担当の仙道寺高校 神岡です 」
お辞儀して挨拶する2人に、母親は言った。
「 菱井です。 この度は、急な事で申し訳なかったわね。 それにしても凄いわ。 一晩で、ここまでやってしまうなんて……! やはり、若さね 」
星野が答えた。
「 こちらも、良い社会勉強になります。 美津子先生が言われる通り、コミニュケーションは、実践からだと思いますし 」
ニコニコ顔の、母親。
星野は、僕の方を向き直ると、言った。
「 美津子先生。 次回からは、簡単な、ブースの案内パンフを作っておいた方がいいと思います。 それと、タウン誌の無料広告に掲載し、集客を図ろうかと 」
僕は答えた。
「 いいわね! あなたたちで、自由に進めてくれない? 」
神岡も言った。
「 こんな面白れえイベント、仕切らせてもらって感謝するぜ、美津子先生! 星野会頭と共に、健全なシマを守るぜ! 」
……お前、どうしても言い回しが、ヤクザっぽいな。
母親が言った。
「 隣の通りの方たちにも、今日の成果を報告し、協力をしてもらうように提案するわ。 これから、少しづつ、ブースを増やして行きましょう! 」
星野が提案をする。
「 毎回、演出担当を、近隣の各学校持ち回りでやってみるのも良いかと…… 学校どうしの連携にも、つながりますしね。 …どうだ? 神岡。 その選択の主任、お前のところで仕切ってくれまいか? 」
「 是非、やらせてもらいますわ、星野会頭! 次回からは、海南や常盤の連中にも来させます。 連中、ヒマこいてますからね! 有り余った力を、有効に活用させますよ! 」
その時、後ろの、かすみのブースで、黄色い歓声が上がった。 どうやら、かすみとの撮影会が始まったらしい。 普段は、街角での2ショットを遠慮しているかすみだが、今日は解禁だ。 グルービーの女生徒たちに混じって、かなりの男子が殺到している。
神岡が、慌てて言った。
「 待て、お前らっ! 順番を守らんか! …こら! 野郎は、総長に触れるんじゃねえっ! 撮るだけだ! …コ、コージ、てめえっ! どっから、一眼レフなんぞ持って来た? まず、オレと総長の2ショットから写さんか! 」
イベントは、盛況のうちに進められていった……
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