第16話、危機、再び……!

「 この会議は非公式です。 従って、資料も配布しませんし、作成も致しません。 各自、決定事項の記録は、文書として保存しないようにして下さい 」 

 朝倉が、そう言った。


 マサに龍二、朝倉と芹沢、それに僕と星野……

 まさに巨頭会談である。

 部員たちを一切入れず、部室の執務室で、会議は行われた。


「 明日、矢島が、女に会いに行く… か…… 」

 マサが、腕組みをしながら呟いた。

 星野が追伸した。

「 情報によると、護衛は3人。 女のマンションに、矢島がシケ込む時を狙って、イッキに襲うつもりらしいね。 クーデター発起は、26人。 約、常盤の半数に当たる人数が寝返る計算になる 」

 龍二が言った。

「 星野さん… でしたっけ? 姉御の、中学の同級だそうで…… この度は、お手数掛けますね。 …まずは、有力な情報、有難うございます。 そちらの身辺警護は、この件のカタが付くまで、ウチの風紀局員が責任を持って致しますので、ご心配なく 」

「 配慮、感謝を致します 」

 星野が一礼する。


 …元、部下の龍二に対して、ヘンな感覚である事だろう。 だが星野は、僕に成り切っていた。


 朝倉が提案した。

「 この件に関しては、涼子の風紀局だけで動いてもらった方が良いかと思います。 私と龍二は、いつものように日常業務をこなします。 次長と、幹事長が校内にいれば、まさかクーデターに参加しているとは、他校の監視も思わないでしょう。 マサだけは、万が一の為に、専任指揮として同行してもらうと言う事で… いかがですか? 会頭 」

 よきに計らえ。 余は、異議無し、じゃぞ?

 僕は、無言で頷いた。 

 朝倉は続ける。

「 子細は、芹沢と星野様の間で、ツメて頂きましょう。 細部まで知る人間は、少ない方が良いです。 敵を欺くには、まず味方から… と言いますし 」

 …う~ん、カッコいいよ、美智子ちゃん。 君は、孫子のようだね。 まさに、高級参謀だ。 …で、僕は、ナニをすればイイのかな?

 朝倉が言った。

「 会頭。 いかがされます? 矢島と、一戦された後の事なんですが、常盤の残党の処理です 」


 ……は? 一戦って、ナニ?


 朝倉が続ける。

「 残党狩りまでウチが関わると、新政権としての、彼らの顔がありません。 かと言って、全権を彼らに任せておいては、弱体である彼らでは、収拾が付かないのではないかと… ヘタをすれば内輪モメで、内戦も考えられます。 最悪は、分裂の危機も…… 」

 勝手に分裂させておけば、よろしい。 …それより、さっきの一戦って、ど~ゆ~コト? ねえ。

 芹沢が、朝倉に言った。

「 次長。 何なら、ウチの局員に常盤の制服を支給して参加させましょうか? 鬼頭副長や会頭もいらっしゃる事だし、矢島を片付けるのは早いかと思います。 ウチから協力戦力として参加したのは、会頭と鬼頭副長だけと思わせた方が、何かと都合が良いのでは? 」

 …僕、その戦力にプラス・ワン、ってならないと思う。 やっぱ、体育座りして、大人しく見ていたいんだケド…… ダメ?

 マサが言った。

「 涼子の案に賛成だ。 そうすれば、連中の顔も立つ。 あくまで、旧政権を打倒したのは、常盤の新勢力であるという事にしておいた方が良い。 ウチは、わずかな手数でそれに加勢しただけ、という事だ 」

 僕は言った。

「 今回は、マサがいれば、問題ないんじゃないか? 別に、あたしがいなくても…… 」

 芹沢が答える。

「 会頭は、私たちの旗印ですよ? ご不在だなんて考えられません。 矢島を倒すのは会頭でなくては…! それでこそ、鬼龍会の存在が他校に示せれるんですから 」

 皆も、同意のようである。


 ……非常に困った。


 『 実情 』を知る星野だけが、僕の心情を察し、ニタニタしている。 ちくしょう、代われ、お前。

 星野は、僕の不安解消を配慮してか、僕の顔を見ながら言った。

「 まあ、風紀局と副長さんがいれば、会頭の出番は無いだろうね。 デンと、構えていればいい 」

 その言葉に、マサは、ニヤニヤし始める。 実験台となる哀れな連中に、今度は、どんなワザを掛けてやろうか… そんな顔だ。

 確かに、クーデターの先頭に立つ必要は無いだろうが、矢島と全く一戦を交えないワケにはいかないだろう。 やはり、最後のシメは僕の出番だ。 皆も、それを期待している。


 ……やっぱ、不安だ。


 てゆ~か、めちゃくちゃ不安である。

 海南の時とは違う。 あんなにウマく行くとは限らない。 もしかして、矢島が怪物のようなヤツだったら、どうすんだ……?

 星野も、もうち~と、現実を直視しろよ…! まがりなりにも、矢島は不良グループの頭なんだぞ? 僕は、真面目~な、一生徒なんだ。 平和で、ささやかな青春を謳歌させろ……!


 僕の不安とは関係なく、巨頭会談は、さり気なく進んでいった……



「 おい、どうすんだよ、星野! オレ、矢島となんか、対決出来ないぞっ…! 」

 巨頭会談が終わった後、再び、執務室に星野と2人だけになった僕は言った。 星野は、ニヤニヤしている。

「 お前、その髪型、イイじゃないか。 ブローしてるのか? 男にしては、センス良いな 」

「 カンケーない話しをすんな! 自分で、自分の容姿を誉めてどうすんだ。 危機なんだぞっ? もうち~と、心配せんか! 」

 星野は、パイプイスに座りながら答えた。

「 あたしも、どうしたら良いのか… 実のところ、具体的には分からない…… ただ、お前には、イザとなった時、驚くべき行動と洞察力がある。 ソコに期待してるよ 」

「 ……随分、楽観的なんだな。 ヘタすりゃ、ボロ負けするかもしれないんだぞ? ソッチの方が、はるかに確立は高いがな 」

「 そうなったら、そうなった時だ。 マサや涼子たちもいるんだ。 そうそうヘタは打たないだろう 」

 ……確かに、今更、格闘技術を伝授されても、所詮は付け焼刃だ。 大体、机上のレクチャーに、結果が付いて来る事を期待する方に無理がある。 星野のアドバイス通りかもしれない。 出た所勝負だ。


 ……でも、凄っげえ~不安……!


 星野は言った。

「 イザとなったら、マサが助けてくれる。 心配するな! 」

 助けてくれなかったら、どうなるの? 姉御、お楽しみ下さい、とか言って、高見の見物するとかさあ……!

 僕の心配はよそに、星野は、腕組みをしながら言った。

「 あたし、何か最近… お前が、好きになったよ 」

「 はああ……? ナニ言ってんだよ、星野 」

「 …ヘンな意味に、取るなよ? あたしは、男として、お前を評価してるんだ。 …海南の時の話しを聞いて思ったんだ…… 普通、いくら彼女を拉致されたからと言っても… 後先考えず、あそこまで無茶出来るヤツは、そうはいない。 イザとなった時のお前は、別人のようだな。 その点を評価してるのさ。 …男は、純情な方がいい。 不器用でもな 」

 僕は、呟くように言った。

「 ……とりあえず、礼は言うよ。 とにかく、早く元に戻りたい……! 」

「 戻れなかったら、どうする? 」

 そんな事、考えたくも無いわ。

( …星野は平気なのか? 男として、生きて行けるのか? とりあえず、かすみは返してもらうぞ )

「 このまま、女の体で生きて行くなんて、冗談じゃない! 」

 僕が言うと、星野は、しばらく考え、ブッ飛んだ事を言った。

「 もしそうなったら…… お前、あたしと結婚しろ。 それしか無いぞ? 」


 …ななな… なんですとぉ~っ!?


 ホンキか、星野! そんなの考えられん! マジかよ。

 唖然とする僕に、星野は続けた。

「 中身が、違うだけだろ? 生理学的には、何ら問題は無い。 …でも、ちょっと無理があるか。 あたし的には、別に構わんが? 」


 …すっげえ、問題あると思います。

 最大の関心…… そう、夜の営みの事です。


 僕… 僕に、ヤラれちゃうの……? イヤです。


 星野は言った。

「 裸を見られたら、その者の所へ嫁に行くのは、順当な定めだ 」

 見とらんっちゅ~にっ! …見たっけ… しかも、局部を……!

 僕は言った。

「 そんな古風な考え、天然記念物モンだぞ? 星野 」

「 何か、お前の、超平和的な生活環境に慣れて来たせいかな? こんな生活も、いいかな?って思うんだ 」


 …そりゃ、僕の生活だ。 はよ、返せ! かすみとデートさせろ!


 経験した事の無い生活に、星野はハマって来ているらしい。 こりゃ、一刻も早く戻らんと、エライ事になりそうだ。 元々、純情そうな性格の星野だけに、事態は急を要する。

 僕は言った。

「 サバラスは、その後、どうしてる? 僕の方には、丸1日、現れとらん 」

「 あたしの方にも、来て… 」

「 呼ばれて飛び出て、じゃじゃじゃじゃあぁ~ん♪ …あれ? また、ケンちゃんでごじゃるか? 」


 イキナリ、サバラスが机の上に出て来た。

 …今の、そのセリフ、年代的に、ダレも理解出来んぞ? 多分。


 サバラスは、威張って言った。

「 お待たせしたな、地球人共よ! 遂に、我らがコンピュータが復活した。 目覚めの時は近いぞ! 帆を張れ~! 」

 …ナニ、わけ分からん事をほざいてんだ、人形! 陶酔してんじゃねえ! 意味不明だわ。ノックしてやるぞ。

 サバラスは腕を後ろに組み、さも偉そうに、のたまわった。

「 元に、戻りたいか? 戻りたいのだろう? 分かるぞ、分かるぞぉ~…! 」

 …元に戻すのは、お前の義務だ。 立場、分かってんのか? てめえ~……!

 サバラスの演説にムカついていると、星野が言った。

「 本当に、戻れるんだな? 」

 サバラスが答える。

「 無論ですとも、星野様。 随分と、ご迷惑をお掛け致しました。 さぞや、ご苦労なさったと存じます。 申し訳ありませんでした 」

 僕が聞いた。

「 それで、いつ戻れるんだ? 」

「 ん~… もうちょっと待っとけや、な? 」


 …おいっ!

 星野と僕との会話と比べると、対応に、エライ格差があるじゃないかっ?

 ナンで星野の時は丁寧語で、僕の時は見下げてんだよっ、人形!


 サバラスは言った。

「 予定は、2日後! 時間は、未定! それじゃねえぇ~! ぐっど・らぁっく! 」

 言うだけ言って、サバラスは勝手に消えた。


「 …… 」


 延着理由を発表しないJRよりムカつく。

「 信じるか? 星野 」

 僕の問いに、星野が答えた。

「 信じるより他、無いだろう 」

 準備が出来たと言いながら、決行日が2日後ってのは、どういう事だ? 全く、信憑性が無い。 時間稼ぎに、デタラメ言ってんじゃないのか……?

 星野が言った。

「 とりあえず、明日のクーデターは、お前が代理するのは決定だな。 頑張れよ。 あたしの体に、キズを付けるなよな? 」


 ……鬼龍会の看板に、キズを付ける事になりそうです。 ごめんなさい。

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