第11話、挑戦状
「 何? 海南から、挑戦状? 」
「 はい。 トップ3が、今日の午後5時、城北公園にて、タイマン勝負だそうです 」
マサが答えた。
タイマン…… 何と、古風な連中だろう。 今時、タイマン勝負とは……
龍二が言った。
「 仙道寺の軍門に下るにゃ、明和女子以外に、手土産が要るんでしょう。 こりゃ、果たし状ですね 」
その手土産ってのが、我らが武蔵野明陵、ってワケか…… う~ん、エライ事になって来たぞ……
マサが言った。
「 とりあえず、海南には、了承の旨の返事をしておきました 」
…な、なんですとぉ~っ? 勝手に決めんなァッ!
僕も、出場せにゃならんのだろっ?
アンタらは良いだろうが、コッチは困るっ…!
マサは続けた。
「 海南のクズ共が… エラそうに、ウチにタイマン勝負とは、片腹痛いですな。 困ったモンだ 」
…ドコが、困ってんだよ? お前さん、ニタニタしおって… メッチャ、楽しみにしてそうな顔じゃないか。
龍二が補足した。
「 勝ち抜きですので、姉御の手を煩わせる事は無いかとは思いますが…… ま、とりあえず、おいで下さい 」
トーナメント制かよ。
しかし、僕が出場しなくても良い確立は、ゼロではない。 マサ君が急に、お腹痛いとか言って、トイレに駆け込んだらどうすんの?
いざとなったら、僕、奥の手を使うよ? 始まっちゃったの… とか言って、見学するの。 体育座りして。 ……ダメ?
運転しているサブが、コッチを振り返って言った。
「 姉御… いや、会頭の華麗なワザを見たい気もしますがねえ~…! 」
お前は、ちゃんと前を向いて運転してろ! また、センターライン、踏んでるだろうが。 対向車が、みんな避けて行くぞ?
龍二が言った。
「 向こうのメンツは、頭の阿南、副長の武村… あとは、一番組頭の斉木でしょう 」
マサが、ニヤつきながら言う。
「 阿南か…… また、延髄切りを食らいたいようだな。 懲りないヤツだ 」
昨日の朝、一発で、のされたヤツか……
龍二が言った。
「 副長の武村とは、やった事ないが、少林寺をやるらしい。 オレにやらせろ! 」
遠慮は、要りません。 1人でみんな、片付けちゃって下さい。 僕の為に、残しておく必要は、ないよ?
マサが答えた。
「 とりあえず、先鋒は、オレが出る…… 斉木 浩介って、ナイフ使いだろう? 始める前に、ボディーチェックの必要があるな。 ま、そんなモン、持っていても、何の役にも立たないがな……! 悪いが、龍二… 3人とも、オレが眠らせる可能性が大だ。 武村と、やりたけりゃ、昼頃、個人的にやれ 」
楽しそうだね、マサ君。 君は将来、一体、何になるのかな……?
とにかく、君たちだけが、頼りなんだからね。 お願いだから、無敗で宜しく。 急用とかで棄権したら、僕も帰るからね…? 塾、とか言って。
海南との決闘の話しは、学校中に広がっていた。 昼休みの時間には、友好関係にある桜ヶ丘高校と陽南高校の代表が、わざわざ部室へ挨拶に来た。
……君たち、午後からの授業は、どうするのかな?
「 星川会頭! お久し振りです。 陽南の藤川です! 」
グレーのブレザーを着た、茶髪の男だ。 イケ面っぽいツラをしており、夜の歌舞伎町辺りで、黒服を着ていそうな男である。
初対面だが、何とか対応しなくてはならない。
僕は言った。
「 久し振りだな、藤田 」
「 藤川っす 」
「 おう、すまん。 元気してたかい? 」
「 おかげさまで。 今日は、阿南とタイマンっすか? かったり~っスよねえ~ 」
全然、そんな事はない。
今から既に、心臓、バクバクもんだぞ。 代わるか? お前。
いかにも軽薄な、軽そ~な表情で、藤川は言った。
「 海南なんて、メじゃないっすよね、マジで。 ついでに仙道寺の神岡も、取ったって下さいよ、ねえ? 」
ナンパするみたいに、軽く流して言ってんじゃねえよ、お前。 何で、こんな軽薄な連中を守らにゃならんのだ?
藤川は、制服の内ポケットから厚い封筒を出すと、それを僕に渡しながら、小さく言った。
「 …今月の分は、これに…… いつも通り、鬼龍会の活動費に当てて下さい…… 」
なるほど、そういうワケか。
まあ、こちらから請求しているワケでは無さそうだ。
傍らにいた龍二が、鋭い視線で、チラッと封筒を見る。 …さすが幹事長だ。
僕は、すっと、その封筒を龍二に渡すと、龍二は、小さく頷きながら封筒を受け取り、奥の視聴覚室へと姿を消して行った。
あの顔で、カーテンを締め切った部室で金を数えている情景も、ひたすらブキミである……
桜ヶ丘高校の代表は、藤川とは対照的な運動会系の、がっしりした体格の男だった。
「 ちいっす、星川会頭! 桜ヶ丘の、有堂っス。 お疲れ様っス! 」
…また、話しを合わせなくてはならんようだ。 面倒くさい。
とりあえず、当り障りの無い挨拶を交わす。
「 有堂か。 元気そうだな 」
「 ういっす! 体を動かすしか、能がないっスから 」
そのようだね。
「 あたしの代わりに、タイマン… 出るか? 」
「 冗談、ポイですよ、会頭 」
冗談ではない。 半分以上ホンキだ、ゴリラ。
「 海南の斉木は、先週、稲辺第一高の龍川を刺して、大ケガ負わせたヤツですよ? そんなアブナイやつとタイマンなんて、出来るワケ、ないじゃないっスか 」
( げげっ…! )
「 オマケに、副長の武村は、少林寺の師範代ですよ? 実家は、かなり大きな道場を経営していましてね。 過去、何人も、大会へ輩出してます。 スタミナと怪力だけの自分なんて、足元にも及びませんよ 」
……僕、帰ろかな。 ダメ?
有堂は、更に、僕の耳元に寄り、小さな声で言った。
「 …武村は、キレたら怖いですよ……! 見境がないっスから。 ほら、先月の、北区でのパトカー襲撃… あれ、やっぱ、ヤツでしたわ 」
ウチの正木ちゃんも、見境、ないらしいよ?
そのまま有堂は、僕の耳元で続けた。
「 警官、気絶させて逃げたのも、そうらしいっス……! 」
メチャクチャ、やっとるな。
次第に、鼻息が荒くなる有堂。
「 …か、会頭…… 」
「 何だ…? 」
「 いいニオイっス……! 」
離れろ、てめえっ! 変態かっ! 僕は、男だぞ? ……中身だけ、だけど……
朝倉が、1人の女生徒を部室に連れて来た。 オフホワイトのセーラー服を着ている。 …他校に潜入している、ウチの生徒か?
「 会頭。 因幡大学付属女子の生徒会長、戸村 早苗さんが、いらっしゃいました 」
……また、知らないのが来たぞ。 君も、午後からの授業、どうすんの?
僕に対し、深深とお辞儀をする彼女。 ストレートの長い髪が印象的だ。 名門女子高の生徒らしく、品位がある。
彼女は言った。
「 いつも、私たちの安全を守って下さって、有難うございます 」
朝倉が、部屋から出て行くのを見計らい、戸村は、僕に近付いて来た。
「 ? 」
そっと、僕の胸に、愛しそうに顔を寄せる。
……何だ、この展開は?
戸村は、息が掛かるほど近くで顔を上げると、心配そうな顔で言った。
「 決闘のお話を聞き、心配になって来ました…… ああ、星川様……! 」
…ヤバイ。 そ~ゆ~関係の子なのか、この子は?
星野は、どういう風に接していたのだろうか? もしかして、そ~ゆ~関係か?
…いや、それはないだろう。 あの、勝気な星野の事だ。 いや、でも……
僕は迷った。
星野は、かすみとの関係維持に努力する、と言ってくれている。 もし、この子との関係が、星野にとって受け入れている関係であるとするならば、それなりの対応をしなければならない。 ここは、思案のしどころだ。 ……ドッチだ?
僕は、彼女の反応を探った。
「 心配しなくてもいい。 わざわざ来てくれた事には、感謝するよ 」
僕は、優しく、彼女の頭を撫でた。
「 ああ… 今日は、とてもお優しいのね。 早苗、嬉しい……! 」
( いつもは、邪険か…… )
…よし。 ここは、判断せねばなるまい。
星野は、言い寄って来る、この戸村という子に困っていたと見える。 ヘタに、気があるような素振りをして、後から星野に文句を言われてもたまらない。
僕は、彼女の肩を引き離し、言った。
「 さあ、もう、帰るんだ。 あたしの事は、大丈夫だから 」
戸村は、ウルウルした目で、僕を見つめながら言った。
「 キスして下さい…… 星川様 」
いいいいいいいいいい、い、い、いっ、いっ… いつも、してんのかな?
僕のハートは、ニトロエンジンのように、急速に、過激に、俊敏に動揺した。
じっと、まぶたを閉じ、待っている戸村。 軟らかそうなピンクの唇が、かすかに震えている。 僕の… 男としての理性の鎖が、今まさに、全てを開放するが如く、弾け飛びそうになった。 明らかに、鎖には、強烈なヒビ割れが生じている。
妖美な、戸村の唇……!
凝視した僕の目は、その誘惑の唇から、視線を放す事が出来ない。 誘蛾灯に誘われる蚊の如く、次第に… 戸村の唇に… 顔を寄せて行く、僕……!
( イカン! イカンぞっ! ナニする気じゃ、お前っ! それをしたら、イカンのじゃっ! でも… ああっ……! )
砕け散りそうな理性を無理やり押さえつけ、僕は、彼女の額に、軽くキスをした。
静かに、目を開けた戸村が言った。
「 ……いつも、おでこばかり。 いつになったら、早苗の唇を奪ってくれるのですか? 星川様…… 」
……もう一歩で、完璧に奪うトコでしたわ。
でも、どうやら、これで良かったらしい……! 理性を失い、本能のまま突っ走っていたら、後で、星野に殺されるトコだったぜ。 心臓に悪いわ。 ストレスを溜めると、活性酸素が増えるんだぞ? サバラスめ… これも、お前のせいだ。 とりあえず、今度会ったら意味も無く、もう1回ノックしてやる。 左中間の深い所辺りの当たりでな……!
「 大切な人の為に、それは、とっておくんだな… 」
僕は、戸村に言った。
「 大切な人なんて… 星川様以外、いないのに…… いじわる 」
そう言いながら僕の手を取ると、人差し指を口に入れ、軽く噛む、戸村。
あおおぉう……っ! やめて下さい。 理性が… 理性があぁ~……!
……僕には、意外と理性があるようだ。
今日、僕は改めて、自分の理性の強さを再認識した。
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