第12話、単身突撃!

 放課後。

 鬼龍会部室へ行くと、マサ・隆二・朝倉・芹沢ら、幹部たちが集合していた。


 マサが言った。

「 城北公園へは、自分と龍二、朝倉が同行致します。 芹沢らは、風紀委員たちと共に、各自、公園付近にて待機。 万が一の事態に備えます 」

「 …万が一? 」

 僕が尋ねると、龍二が答えた。

「 海南の連中の事ですから、ナニをして来るか、分かりません。 果たし状は、作戦で… 兵隊集めて、一気に、我々を取る算段かもしれませんから 」

( ……う~む…… タイマンに負けると言う筋書きは、一切ないようだね、君 )

 朝倉が言った。

「 もし、そのような事態になった場合は、涼子の指揮の基、正木たちが、全力で会頭をお守り致します。 ご安心を 」

 心強いよ、朝倉ちゃん…! きっと、芹沢ちゃんや正木ちゃんも、勇猛果敢に戦ってくれるんだろうね? 何なら、事情を説明して、お袋にも来てもらおうか? ヒゲ親父と共に……


 その時、正木が、部室に駆け込んで来た。

「 大変ですッ! 会頭ッ…! 」

 朝倉が、正木を制した。

「 何だ、騒々しい! 会頭の前だぞ? 」

 しばし、乱れた呼吸を正し、一呼吸おいて、正木は言った。

「 …海南から、メールが届きました……! 」

 鋭い視線で正木を見据えながら、マサが言った。

「 メールだと? 海南から? 」

「 …はい。 あて先は、鬼龍会 幹部へ、となっています 」

 パソコンからプリントアウトしたと思われる用紙を見ながら、正木は答えた。

 龍二が、僕に目配せをする。

「 …読め 」

 僕が言うと、正木はプリントを読み出した。

「 鬼龍会 幹部、並びに、星川会頭へ…… 多岐学園の生徒を1人、預かった。 本日の試合を、楽しみにしている……! 」

 マサの表情が変わった。

「 人質だ……! 」

「 タイマンに勝ったら、人質を処刑するつもりだな? 」

 龍二も、苦虫を噛み潰したような表情を見せて言った。

 朝倉が激怒する。

「 勝負に勝てないと見て、人質を取るなんて… 最低だわっ! 」

 ヤバイ…… それって、海南の連中に勝っちゃ、イカンってコト?

 全員が、僕を見つめた。


 ……ナニか、言えってか?

 降参しまあ~す、って言ったら… どうなるの?( 正直な、キモチ )


 僕は、とりあえず、無言でいた。

 はっきり言って、どうしたらいいのか分かんないもん。 すっげ~、ヤバイ事になってるのは、理解してんだケド……!

 朝倉が言った。

「 海南が、本当に人質を取ったのかどうかも、調べる必要があるわね…… 明日香、その事について、何か記述は? 」

 正木が答えた。

「 追伸があります。 …人質は、多岐学園2年生の、河合 かすみ。 デタラメだと思うなら、調べてみろ。 実在する生徒だ 」


 ……なッ……!!


「 かっ… かすみだとォッ? 」

 僕は、思わず叫んだ。

 びっくりしたように、朝倉が、僕に尋ねる。

「 …お知り合いですか? 会頭……! 」

「 僕… い、いや… あたしの彼女… あ… う、い、いや… ダチだ! 中学以来の…! 」

 とっさに繕う、僕。

「 …先日、お会いしていた方ですね? 」

 龍二が言った。 僕は、無言で頷いた。

 マサが言った。

「 会頭の、マブダチを拉致するとは……! 連中、ヤル気のようだな……! 」

 拳を握り締め、プルプルさせる、僕。

( かすみ……! 拉致されてしまうなんて、なんて可哀想に……! )


 ……おンのれェ~、あの、茶髪男めがあァ~……!


 怒りが、沸騰して来た。

( 延髄切りくらいでは、済まさんっ! 僕の大切な、かすみに触った野郎は、生かしちゃおかんッ! 即刻、八つ裂きにしてくれるわっ! )

「 サブっ! 車を回せぇッ! ブチ殺してやるわァーッ! 」

 怒りに我を忘れ、僕は叫んだ。 他の皆も、見た事が無いであろう、怒り狂った星野の形相にびっくりしたようだ。

 朝倉が言った。

「 会頭…! お、落ち着いて下さい。 ご友人は我々が、必ず救出致しますッ! まずは、拉致されている場所を確認し… 」

「 手ぬるいッ! 海南の連中を、残らずブチのめせば、済む事ッ! 」

 押さえようとする朝倉を引き離し、僕は叫んだ。

「 マサッ! 龍二ッ! 怖気づく事は、無いぞ! 順番なんぞ、クソくらえだッ! とにかく、全員ブチ殺すッ! 手加減なしだ、いいなァッ! 」

「 承知っ! 」

 マサが、嬉しそうに答えた。

「 久々に、全開で暴れられそうですな! 」

 龍二も、腕をポキポキ鳴らしながら答える。

 僕は、朝倉の制服の、ブラウスの胸元辺りを乱暴に掴んで言った。

「 いいか、美智子ッ! かすみは必ず、城北公園に連れて来られる…! 絶対に救出しろッ! 我々が、海南とコトを構える前にだ! 風紀委員、全員で襲ったれ! 手段は、任す。 いいなッ? 」

「 はっ… はいっ! 」

 廊下に向かって、僕は叫んだ。

「 サブゥーッ! 早く、車を回さんかああァーーーッ! 」



 街を疾走する、怪しげな、型落ちクラウン。 徐行も、一旦停止も、全て無視である。

「 もっと、飛ばせ! サブ! 根性、見せんかいっ! 」

 あおる、僕。

「 か… 会頭おォ~ッ…! 怖ええっスぅ~! おしっこ、モレそうですぅ~……! 」

「 そこ、入れっ! その道だ! 」

 後輪をスリップさせながら、細い路地に入る。

「 ブレーキ、踏むなァッ! 次、左折! 」

 キャキャキャキャキャッ、と鳴るタイヤ。 ホイールキャップが外れ、騒がしい音と共に、歩道の側溝へとコロがって行く。

「 会頭~ッ! ここ… 一方通行っスううぅ~ッ!! 」

「 てめえ、元々、無免だろうが! 失うものは、ナニも無い。 恐れるなあ~ッ! 」

「 す… すっげえ説得力、あるっスううぅ~ッ! 」

 僕の隣に座っているマサは、サブが座っている運転席シートの後ろに足を当て、万が一の衝撃に備えている。 助手席の龍二は、窓の上部にある取っ手を掴み、両足をグローブボックス辺りに当て、踏ん張っていた。

「 急げえッ! 連中が、体勢を整える前に、行くんだ! サブうーッ! 」

「 わ、分かってまあァーす…! アクセル、ベタ踏みっスうぅーッ!! ……ん? かっ、会頭ぉ~? 前方、赤信号っすうぅ~! い、行けと……? 」

「 ナンの為のヤンキーホーンじゃ、てめえェーッ! 鳴らさんか! 連打せええーッ! 」

「 …イッ… 行ッ… きまあァァァァ~~すッ!! 」


< ファァァァァァァァァァァァァァ~~~~~~~~~~~ンンンン~~~~~! >


「 見ろ、サブ! みんな、避けてくれるよっ? あ、アッチで、ぶつかってる! 」

「 ……か、会頭…… ちょびっと… 出ちゃいました…… 」



 鳩が数羽、公園入り口脇に立っているモニュメントの上で、クッ、クッ、と鳴いている。

 男が2人、公園の入に近付いて来た。

 人影に気付き、パタパタッと鳩は飛び立って行く。


「 武蔵野は、来るんだろうな? 」


 茶髪の男が言った。

 傍らにいた、細目の男が答える。

「 来ますよ、阿南さん 」

 少し笑うと、細目の男は続けた。

「 しかも、人質のおかげで、オレらに、ボコにされにね……! 」

 阿南と呼ばれた男が言った。

「 あの、マサめ……! こないだの借りを、倍にして返してやるぜ 」

 首の後ろに貼ったシップシートをさすりながら、男は言うと、細目の男に尋ねた。

「 どういう布陣にするつもりだ? 武村 」

「 斉木たちが、アッチの森の中で兵隊を集めてます。 ざっと、30人はいますので、タイマンが始まる直前、ヤツらの人数を確認した上で、投入します 」

 ニヤリと笑うと、阿南と言う男は言った。

「 人質を取られて、手も足も出ない上に、多勢に無勢か…… 好き勝手出来るな? 武村よ 」

 振られた、武村と言う男が答える。

「 今日で、あの鬼龍会も解散ですよ。 我々は、ヤツらの首を手土産に、仙道寺入りですわ 」

「 ふふ……! 鬼龍会の首なら、高く評価してくれるだろうよ。 楽しみな事だ 」

「 会頭の星川… どうします? 仙道寺の神岡さんも、気に入っている様子ですが……? 」

「 少しくらい、つまみ食いしたって、分かりゃしねえって。 お前にも、ヤラせてやるよ……! 」

「 あの、貴高い星川を… ですか? へっ、楽しみですねえ 」

「 へっへっへ……! 」

「 ふっふっふ……! 」

 次の瞬間、猛スピードで走って来た怪しげクラウンが、2人の目の前にタイヤをきしませ、不自然に、斜めに止まった。

「 へっへ… お…? 」

 後部座席両側、助手席、と、一斉にドアが開き、数人が下車したかと思うと、2人の方へ走り寄って来た。

「 何だ? 兵隊共は、向こうだ。 アッチに、斉木たちが… 」

 そう言って、森の方を指差した武村。

 僕は、公園整備の為に置いてあったカラーコーンや土のう袋などの土木材料の中から、適当な長さの鉄パイプを抜き取り、森の方を指さしていた武村の頭に、イキナリ、鉄パイプを炸裂させた。

 …指を差したまま、グラッと来た武村に、今度は、強烈なアッパー・スイング。

 アゴを空に向け、しばらく固まっていた武村は、スローモーションのように、ゆっくりと後ろ向きに倒れ込んだ。

「 先鋒、星川ァッ! 参いィィ~るッ!! 」

 僕は、そう叫んで、残った男を睨みつけた。

「 …! …? …!? 星川…? 」

 あっけに取られている様子だ。


 先手必勝! 問答無用! 天下無双! 抱腹絶倒! 交通安全!


 僕は、鉄パイプを振り回した。

「 ちょ… あぶ…… 待てって、星川っ! やめろって! おい…! 」

 ブンブンと、唸りを上げて振り回される鉄パイプ。

 僕は言った。

「 姑息な手段を取るテメーらにゃ、対等な勝負なんぞ、笑止千万ッ! ブッ殺してやるからな、覚悟しとけえッ! 」

「 ……くっ! 調子に乗りやがって、星川ァ~……! 」

 少し、後退りをする阿南。 公園の階段に、かかとが当たり、体勢を崩す。

「 おっと…! 」

( …そのスキを、見逃すかあァッ!! )

 鉄パイプを投げつけ、更に動揺を誘うと、すかさず僕はヤツに突進した。

「 …この! 」

 投げつけられた鉄パイプを払った阿南の顔の前には、僕の腕があった。

 ヒゲ親父直伝のラリアットが決まる。

 ぷきゅっ、という情けない声を出して、阿南は、ひっくり返り、公園の階段に後頭部を殴打した。


 ゴゴンッ、という、鈍い音…!


 そのまま僕は、右足を高々と上げると、体をひねって宙に預けた。

 右肘に全体重を掛け、阿南の喉元に狙いを定めて落下する。


 ……今、何か… ミシッ、て音がした……


 阿南は、ピクピク痙攣している。

「 お見事っ! 」

 マサが、手を叩く。

「 わずか、30秒です、会頭! 素晴らしいっ! 」

 龍二も、絶賛した。

 運よく、2人を倒したが、僕には最大の目的がある。 かすみの救出だ。

「 アッチの方に… 斉木が、どうのこうのって言ってたぞ、コイツ! 行くぞ! マサ、龍二ッ! 」

 言うが早いか、僕は、ころがっていた鉄パイプを引っ掴むと、公園の森の方へ走り出した。

「 承知ッ! 」

 マサと龍二も、後から走って来る。

( かすみ…! かすみ……! 今、行くからねええェ~……! )

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