第6話、鬼龍会 幹部会議
視聴覚室に入る。
…おおう…!
イカツイ顔や、一癖ありそうなメンツが、勢揃いだ。
女生徒も、何人かいるようで、皆、腕に『 風紀 』の腕章を付けている。
室内を見ると、コの字形に並べられた一番奥のテーブルに、マサや龍二、朝倉・芹沢が座っているが、そのド真中の席が、空席だ。
……ソコに、座れってか? 僕、一番隅っこで、いいんだケド……
しかし、もう後には引けない。 僕は、ハラを決めた。
席に向かうすがらサブを見つけたので、僕は、ポンと肩を叩き、言った。
「 今朝は、ご苦労だったな。 センターラインを踏んで走るな。 いいな? 」
「 へ… へいっ! 」
声を掛けられたのが意外だったのか、サブは、緊張して、裏返った声で答えた。
席に付くと、まず僕は、じろりと皆の顔を見渡した。
まずは、ガン飛ばしだ。 ナメられたり、挙動不信に思われたりしたらまずい。
僕と目が合った部員は、慌てて目線を反らした。
…よし。 ビビッてる、ビビッてる。
配られている資料に目を通しながら( 緊張して、ナニも読んでいない )、右側に座っていたマサに、話し掛けた。
「 今朝は、手間掛けたな 」
「 ちょいとした肩慣らしに、丁度良かったですよ。 楽しかったですね 」
…楽しかったんだ、マサくん。 僕、どうなるのかと思ったよ? さすが、吉祥寺の狂犬だ。
左側にいた、龍二に聞く。
「 龍二。 浜二は、どうだった? 」
「 各自の資料にもありますが…… 東栄高校と都立第三を傘下に加え、それを手土産に、仙道寺の軍門に下ったようです 」
龍二の答えに、朝倉が、メガネを掛け直しながら付け足した。
「 常盤も、正式に連盟話しから離脱したと、通告がありました。 尚、情勢を検討中だった青葉女子は、常盤の傘下となったようです 」
それを聞いて、風紀局長の芹沢が、朝倉に言った。
「 青葉には、原田がいただろう? ヤツは、アンチ仙道寺だったはずだが? 」
朝倉が答える。
「 原田 明美は、死んだわ…… 」
驚きの表情で、芹沢は聞いた。
「 えっ? いつ? 」
「 先週の月曜の朝、隅田川に浮いていたわ 」
言葉が無い様子の芹沢。
「 そんな……! 明美とは、中学以来のダチだったのに……! 」
……これは、ホントに高校生の会話か?
こんな、おっそろしいトコ、おれん…! おしっこ、したくなって来た。
朝倉が、芹沢に続ける。
「 明和女子の、榊原も消されたらしいわね……! 副長の梶田 真澄ってのが、海南の武村と、つながっていたらしいの。 灯台、基暗しね…… 」
マサが、朝倉に尋ねる。
「 その情報は、確かか? 」
朝倉は、隣にいた、長い髪の女子部員に耳打ちをした。
( この女生徒は、名簿で見たぞ? 監査役の、二見 理恵って言う、二年生だ )
彼女は、立ち上がり、隣の普通教室へ行くドアを開けると、誰かを手招きした。 幹部以外の数人が、隣の教室で待機しているらしい。 呼ばれて部屋に入って来たのは、他校の制服を来た女子だった。
二見が、皆に紹介する。
「 明和女子に潜入していた、藤村です。 榊原とも厚意にしていた関係上、消される可能性があったので、今日、呼び戻しました 」
……あんたら、他校の制服を着て、勝手に出入りしてんの?
凄げえフットワークだね。 スケールが違うわ……!
他にも、アッチの視聴覚室には、各校の制服を着たスパイたちが、いっぱい、いるのだろう……!
藤村が報告をした。
「 正確には、副長の梶田と、渉外の岸本という二年生が、海南の武村とつながっていたようです 」
「 やはり、岸本だったか……! 武村と一緒に、繁華街を歩いている姿を、目撃した部員がいたわ。 あの、雌狐め…! やってくれたわね 」
芹沢が、口惜しそうに言った。
藤村は補足する。
「 榊原は、関係に気付きながらも、何とか、梶田を思い留まらせようと画策していたのですが… 武村と岸本が、強引な手段を、梶田に指示してしまいまして…… 」
「 暗殺か? 」
龍二が聞く。
「 ……はい。 それも、校内で…! この事は、学校関係者が揉み消していまして、外部には漏れていません。 榊原は、本棟校舎北側の非常階段の踊り場で、全身24ヶ所を刺され、外出血性ショック死です 」
あの~…… 僕、帰っていい? 聞かなかったコトにしたいんだけど……
四代目 新会頭はマサ君、てコトで、どう? 龍二君でも、いいよ。ね? どう?
…こんな、中国マフィアか、米国の麻薬シンジケート真っ青な話しには、ついていけん!
数人の部員が興奮し、立ち上がりながら僕に言った。
「 会頭っ! 仙道寺に、殴り込みを掛けましょうッ 」
「 先手必勝です! 待っていたら、端から消されて行きますよっ! 」
興奮するな、君ら。 その前に、僕が、この場から逃げ出したい。
マサが動じず、言った。
「 鬼龍会は、自衛組織だ。 その活動趣旨の全うは、姉御の意志でもある 」
カッコいいね、星野って。 でも僕、すっごい、不安なんスけど……?
朝倉が言った。
「 今のところ、ウチに対して友好的なのは、近隣の桜ヶ丘高校と因幡( いなば )大学付属女子、陽南高校、多岐学園の4校…… この、四校の安全を保障してあげないと、海南か、常盤の傘下に取り込まれてしまうわ 」
多岐学園と言えば、かすみの通っている学校だ。 この、武蔵野明陵と並ぶ名門で、女子高である。
龍二が補足した。
「 桜ヶ丘と陽南には、桜陽連盟がある。 だが、因幡付属と多岐学園は、名門の女子高だ。 不良集団も、自衛組織も無い。 狙われるとすれば、この辺りだな 」
二見が進言した。
「 因幡も多岐も、定期的に探りを入れております。 今のところは、不穏な動きは無いかと…… 」
朝倉が、二見に指示をした。
「 非常事態です、理恵。 定期ではなく、常時にしておくように。 いいわね? 」
「 承知いたしました……! 」
……う~ん、カッコいいね、君たち。
朝倉が情報局の局長で、二見が、現場の専任主任みたいだ。 女にしておくのは、もったいない。 僕と、代わらない?
その時、ドアが開き、男子部員が部屋に入って来て、芹沢に耳打ちした。 芹沢は、一瞬、驚きの表情を見せると、僕に向かって言った。
「 会頭。 局員が、本校付近をうろついていた不審者を捕縛したようです……! 」
勝手に、とっ捕まえるなよ、君ら。 逮捕権、持ってるの?
マサは一瞬、僕の方をうかがったが、やがて芹沢に言った。
「 ……連れて来い 」
( みんな、手荒なコトは、ヤメようね? 特に、マサ君。 ニタリ、ニタリするの、やめようよ…… ほら、龍二君も、怖い顔して考え込まないで。 フレンドリーよ、フレンドリー…… ねっ? 二見ちゃんも、親のカタキに会ったような、殺意的な表情、いけないよ? 清楚な顔立ちが、台無しじゃないか。 朝倉ちゃん…… 全く無表情で、何やらメモるのも、人情味が無いよ? )
やがて、両腕を後ろ手に縛られた1人の男子生徒が、芹沢と、もう1人の女生徒に連れられ、皆の前に引き出されて来た。
武蔵野の制服を着ている。 特に髪を染めているわけでもなく、いたって普通の生徒である。 彼の、どこが怪しく思われたのだろう?
芹沢が言った。
「 校章と、クラス章を着けていません。 局員が、任意に事情徴収したところ、申請した名前が、クラス名簿に存在せず、 当校の生徒では無い事が、判明致しました 」
朝倉が言った。
「 随分と、おマヌケなスパイさんね…… 偽名フォローのツールも、実在生徒の調査もせずに潜入しようとしたの? ウチも、ナメられたものね。 …あなた、名前は? 学校は、どこ? 」
男は、ふてぶてしく言った。
「 けっ……! オンナだてらに、偉そうに… ガン首並べて、何の相談だい? 」
途端、男を連れて来たもう1人の女生徒が、男のみぞおちに、ヒザ蹴りを食らわせる。 かなり強力だ。 手馴れた感じである。
女生徒は言った。
「 質問された以外の事は、喋るな……! 」
傍らにいた芹沢が、男に言った。
「 そいつには、逆らわない方がいいぞ? 鬼龍会 風紀局 助勤の、正木 明日香だ。 あたしと違って、見境が無いからな……! 」
別名、特攻の正木…… コイツも、名前は、聞いた事ある。
レディースの出身で、芹沢に助けられ、改心。 得意の水泳で、特待生制度にて、武蔵野に入学して来た生徒だ。
ちなみに、龍二も空手の特待生らしい。 マサは… ムエタイか……?
正木が言った。
「 涼子センパイ。 自分は結構、我慢強くなった方ですよ? 」
そう言いながら正木は、男の襟元を締め上げている。 軽~く、わき腹をヒザで、小突きながら……
男が言った。
「 涼子? てめえが、あの芹沢 涼子か…! 鬼龍会 風紀局長の……! 」
芹沢は、少し笑いながら答えた。
「 あたし程度の顔も知らないなんて、ドコの馬の骨よ、アンタ。 …そんなんで、ウチに潜入して、ナニを調べようとしてたの? 」
書き物をしていた朝倉が、シャープペンシルのノック部を唇に当てながら言った。
「 素直に、所属校を言えば、帰してあげるわ。 どう? 」
男は、見下した返事をした。
「 三下の女なんぞに、答えるつもりは無いね 」
途端、正木のボディーブローが、男の腹に炸裂する。 修羅のような形相になり、怒鳴った。
「 誰に向かって、口聞いてると思ってんだよッ! テメエーッ! 」
…どうやらこの男は、この会議が何の会議なのか、よく分かっていないらしい。
週番の委員会 会議、とでも思っていたのだろうか? 可哀想に… 知らぬが仏、だ。
キレた正木が、男の髪を両手で掴み、後頭部を、ガンガンと壁にぶつけている。
「 そのくらいにしとけ、正木…… 」
龍二が、諫めた。
「 だって、龍二センパイ! コイツ… 朝倉次長を、三下って言ったのよッ? 許せないわッ! 」
「 …じ、次長……? お、お前…… あ… 朝倉 美智子か……? 」
男は、やっと情況を把握したようだ。 にわかに震え出し、続ける。
「 龍二…… 人間凶器の… 内田 龍二か……? 」
マサが言った。
「 お前は、運がいいな。 幹部を一堂に見れる機会は、そう無いぞ? 」
男の顔色が、すう~っと青くなった。
朝倉が、メガネの奥からドスの効いた冷たい視線を男に放ちながら、芹沢に言った。
「 どうやら、尋問しても、あまり期待出来るような情報は、持ち合わせていないようね、涼子。 校名だけ聞き出したら、帰してやって。 ムダな殺生は、したくないわ 」
芹沢が言った。
「 校名すら、吐かなかったら… いかがします? 」
朝倉は、キッ、とした表情になり、答えた。
「 ……まがりなりにも、ウチに潜入しようとしたんだから、それだけは、喋ってもらうわ……! 手段は、任せます 」
芹沢は一礼すると、正木と共に、男をどこかへと連行して行った。
……怖い子たちだ。 あの男の、身の上が心配になる。
丸太に縛り付けて、プールに放り込むんじゃないだろうな? 化学実験室へ連れてって、焼けた石綿を押し付けるとか? あの芹沢ちゃんと、正木ちゃんなら、やりかねん。 保健室に連れて行って、○ンソレータムを目の下に塗るぐらいの、可愛い事で済ませるハズが無い。 可哀想に……
マサが、会議を締めた。
「 各自、他校の動きを見張れ。 幹部や、リーダーの交代があった時は、最優先で確認しろ。仙道寺とのつながりを、特に洗え。 いいな? …姉御、最後に一言 」
特にありません。 みなさん、交通ルールをまもりましょう!
フッ飛ばされるかもしれんな、こんなコト言ったら……
僕は、立ち上がると言った。
「 私を護衛してくれるのは、感謝する。 だが、皆、大切な部員だ。 各自、身の安全を守るように……! 特に、女子は、必ず男子部員と行動をとれ。 こんな状態を、いつまでも続かせはしない。 仙道寺とは、いずれ決着を着ける。 必ず、だ……! 」
皆、信頼の眼差しを、僕に向けている。
ああ、ごめんなさい……! 僕、大風呂敷を、広げてしまいました。
収集は、元に戻った星野ちゃんが、きっと着けて下さるから。 ねっ?
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