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 少しまえ、何もないこの場所にぽつんと建つ、このコンビニを見つけ、一瞬で魅かれた。

 道の果てにあるコンビニは、この惑星の文明が滅んだあとに新規で建てられたようで、おそらく、この惑星上、唯一無二の存在感を発していた。そんなのもは、文彦の十七年の生涯でも見たことがなかった。はじめて、ここに来て肉眼で見たとき、内臓まで響くような衝撃を受けた。

 なんなんだろう、これ。自分のなかで、目の前の光景が、まったく処理できなかった。なにがすごいのかわからないが、目を離せない。太刀打ちできず、しばらくの間、茫然と立ち尽くした。もしかすると呪われた、そういった方が近いのかもしれない。

 もともと、その店はある界隈では有名な場所だった。妙なところに、妙に新しいコンビニが建っている。それは大手チェーン店であり、誰もが知っている店構えでもある。しかし、ずいぶんおかしな場所で営業している。道の果てにある。いくら《空き箱》は、これから先、開発が進む場所とはいえ、まだ、あまりにも発展乏しい場所で営業している。

 如何なるセンスでそこで営業を始めたのか。少なからず、不特定多数の気掛かりを生産するに充分な存在感だった。

 かつての海の底に、真っ直ぐな道があり、その果てに建つ、真新しいコンビニエンス・ストアの様子は、目にする者には、まず合成的映像な印象を与えた。

 文彦がどこかでその情報を拾ったのか。それをはっきりと覚えていない。いつものように、釣りでもするように情報の海へ針を下ろしているうちに、たまたま釣った一匹だと思われた。手に入れたとたん、特別な気持ちになった記憶はない。もし、そうだったら、強い印象を受けていただろうし、いつか必ずあの場所へ行こう、と意識しているはずだった。だが、そうでもなかった。おそらく、無意識の方へ運ばれてゆく数多くの情報のひとつだった。

 去年の冬、ふと、その無意識のひとつが、脈絡もなく動き、意識の方へと転がってきた。

 冬休みで時間を持て余していた文彦はそれを拾い、バスに乗って、ひとりここまで来てみることにした。住んでいる場所からも、行って疲れるほど遠くな場所だった。

 ひどく気になっていたわけではった。行った理由は、学校が冬休み中であったことが大きい。そのとき、ただ、家のなかにいることにあきていた。どこかで、何か冒険めいたことを望んでいる心があった。いつか見たコンビニの存在を思い出し、これは手頃な冒険にもなりると感じた。そして、その小さな興味を消化すべく、果てまで向かうバスへ乗った。その時点で、そのバスは《空き箱》の果てまで向かうバスであり、現時点でも、果てまでゆくバスでもある。

 果てまで行くバス。

 という、文章にすると、それはそれで何も無い冬休む中に、ひとつの冒険を投じたような気分になれた。

 行き先を家族にも告げず、友人も誘わず、ひとり家を出た。

 バスの利用料金は一律で安く設定されていた。費用のかからない冒険だった。どこまで行ってもコインひとつで済む。《空き箱》の開発促進の一環で、バスの運賃も優遇措置がされているらしく、それはいまも続いている。

 そして、店まで来て、茫然とした。ずっと、冬のその日、そこに立っていた記憶がある。

 店の窓の貼ってあった張り紙から、アルバイトを募集していることを知った。しばらく考えたあげく、春になって連絡をとってみた。まだ募集中であり、雇い入れられるのは、じつにかんたんだった。空き箱の道の果て。その一帯の開発は、まだ数年先に予定されており、人家はおそか、建築物事態が見渡す限り、どこにもなく、人手不足は極まっており、連絡を入れた時点で、雇用は決定されたに近い。

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