(7/7)

 途中、停めていた原付バイクの場所で四季と文彦を車から降ろした。

 そこで降ろせ。四季の希望だった。青年も半ば道連れのように降りた。

 原付バイクに傷、その他がないかをひと通り確認して、四季は、ふん、と鼻を鳴らした。それから、またがり、鍵を差し、アンモナイトを揺らしてエンジンをかけた。

 そばに立っていた青年へ「後ろ乗って」とかるく告げた。原付バイクの座席はふたりで座るには領域不十分だった。色々考えてしまったのか、青年は乗ることに躊躇していたが、四季が「はよはよ」と、うながずと、意を決して後ろに乗った。

「けっか、外泊させちゃったわね」青年へそういった。それから「わびに、こんどデートしたるよ」と言った。

 言われた青年は、とたん、放心状態になった。

 一方、四季は手を伸ばし、助手席の窓を拳で軽く叩いた。

 うながされ清志郎はドアの窓をあけた。

「じゃあね、あばよ」

 そこへ四季は二種類の雑な挨拶を放り込む。

 清志郎は苦笑してみせた。

 それから後ろの青年へ「死ぬ気でつかまってて」と、一声かけ原付バイクを発進させた。青年は「はい」と青空に似合う、心地よい返事をし、次に清志郎たちに小さく会釈をした。

 あとは土煙をあげていってしまう。

 その場から、二人が小さくなるまで見送って、木助はふたりとは再び反対方向へタイヤを走らせはじめた。清志郎は窓をあけたままにしていた。陽の光を半面に当て、むかし海底だった景色をみていた。車内には海に触れた後の風が入り込み、二人の髪を自由に玩んだ。

 フロントガラスの向こうには、トリナシが見えていた。行く先に遮るものはなにもなく、次第に近づいてくる。

「こうやって、信じて迎えに行ったところを撃たれる」

 ふと、木助がいった。

「ってな」

 わずかにハンドルへ手をかけながらいった。 

 清志郎は少し笑い「いいさ、まだ少しだけやれる」と答えた。

「ああ」木助はうなずきいった。「そうだよ、お前はまだやれるよ」

 会話はそこで途絶えた。国内最新の荒野を、タクシーは塩の混じった砂埃をあげて走ってゆく。

「なあ木助」

 ふと、清志郎が呼んだ。

「繋がってる血と、繋がってない血、ってのがあってさ」

 口を開き、話しかける。

 だが、話はそこでやめてしまった。

 それから、しばらく、会話は途絶えた。

「あの子の帰る場所をつくれるのか」

 ふと、清志郎がいった。

「おれが間違えたのか」

 続けて言い、表情に影を落とした。

 木助は何も答えず、運転を続けた。ハンドルを握るその表情から、何かを答えようしているのはわかった、だが、どんなに懸命に探しても、答えとなる言葉がみつけられず、自分のなかで静かに戦っているようだった。

 言葉のないまま進み続け、やがて、トリナシは目前になった。朝が終わりはじめ、青空が見えていた。雲も少ない。

 木助はゆっくりと車を建物の正面口へと回す。

 ハルノの姿はすぐにみつかった。

 正面口にあるロータリーの場所に立っていた。隣には、付き添いと思しき若い女性が立っていた。

 ハルノは最初に清志郎と会ったときの服を着ていた。

 木助は運転を徐行にかえ、ハルノたちの近づき、停車させた。

 清志郎はハルノの顔を正面から見れずにいた。それでも意を決し、ドアをあけ、助手席から外へ降り立った。

 とたん、ハルノは清志郎へ勢いよく抱きついた。

 胸に頭をおしつけ、つよく抱きつく。

 それから空まで届くような大きな声で泣きだした。

                        

                                      終わり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ねむり一族の末裔 サカモト @gen-kaku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説