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セダンは四本のタイヤがすべて外されいた。
小さな明りが灯された車内には、運転席、助手席、それぞれスーツ姿の男たちがひとりずつ座していた。ふたりとも二十歳前後だった。首輪、手錠、足枷を一本の鎖でゆるみなく繋がれ、ささいな痒みを解消するために、手を動かしてこともできない。
ふたりには外傷の類は見られなかった。設置された車載カメラのレンズはフロントにはでなく、ふたりへ向けられている。
運転席に座って男は髪が長く、肩を越えて肩甲骨まであり、無精ひげを生やしている。
助手席に座ったもうひとりは衣服を間違えれば、中学生に間違えられかねない風貌だった。過ぎるほど、顔立ちに毒っ毛が無い。
男たちは目をつぶっていた。もはや会話など意味がない、という感じがある。ただ、あてもなく時間が過ぎることを耐えていた。
セダンの周囲には何もない。夜の荒涼とした《空き箱》の土地だけが広がり、セダンの外には生物的気配がない。音もなかった。
ふと、髪の長い男が瞼をあけた。
次に助手席もあけた。
後部座席のドアが開かれた。そこへ蓬髪を揺らし男がひとり車内に入ってきた。
ふたりは同時に視線だけを動かし、バックミラーを見た。。
後部座席にいたのは夏村だった。
ドアを閉めた後「丸藤、北星」夏村はふたりの名を呼んだ。
「お前らは正しい」
まず、そうとだけ言い切った。
「あの人はもう無理だ」
ふたりは微塵の表情を動かさず、バックミラー越しに夏村を見続けた。
「むかしのあの人なら急所は外さなかった。どんな奴にもそうだった。一回しか撃たなかった。けど、もう駄目だ。二回も撃って、急所も外した」
じつに嘆かわしそうにいう。
「それにお前たち」
その言葉を聞き、助手席にいた毒っ気のない顔の北星だけが、運転席の丸藤へ一瞥する動きを入れた。
「あの人が、いまもこうしてお前たちを生かしてる、それも気に食わない、どんな奴でも裏切り者は生かさない人だった。それが、自分が育てたからって生かしてる」夏村は苦笑を入れた。「駄目だよ、そんな人じゃなかった。どんな相手でも裏切り者を生かしたりしなかった。女子供でも関係なかった」
その生かされいる者たちへ言う。
躊躇は微塵もなかった。
「あの人は弱くなった。あれじゃ駄目だ、あれじゃもうここは守れない」
いって下げ気味だった視線を持ち上げた。
「殺す」
それから淡々と意志を告げる。
ふたりは反応しないままだった。
「いくぞ」
それでも夏村はかまわず、いって車内から外へ出た。ドアを閉めて闇夜へ乗り出す。数歩進んだとき、夏村の前に四人の男たちがいた。立ちはだかっているかたちだった。背丈、年齢にばらつきはあるが、立ち姿と雰囲気には組織的統一感が濃く現れている。一様に手に銃を持っているが、銃口は下に向けてあった。
夏村は四人をみて「お前たちもこっちにつけ」といった。
すると、男たちは夏村をかわし、セダンへ向かった。ほどなくして、拘束を解放された丸藤と北星が夏村の歩みより、傍に立った。
「やるならいまだ、いまなら森川が傍にいない」
その情報を提示した。
「殺した後はどうする」
丸藤が決して純然と与するという様子でなく問いかけた。
「この土地は誰かの者になる」
夏村は半面を向けてそう答えた。
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