その無能陰キャボッチ高校生、先行プレイヤーにつき。 ~現実世界にダンジョンが現れたのでスキル【回収】&【放出】で無双していたら、いつの間にか魔王呼ばわりされていた~
第15話 スキル【死体回収】と【イベント】勃発
第15話 スキル【死体回収】と【イベント】勃発
「スキル【解体】」
パンッ、とコボルトの死体が弾け飛んだ。
湧き出てくる石ころと肉を拾い上げ、はぁ、と深くため息をつく。
「……今回も、また肉と魔石だけか」
――パーティーが崩壊してから丸々一日。
眠らずに歩き続ける僕を待っていたのは、中々にハードな生活だった。
まず、やはり戦闘がキツイ。
今まで市井さんがヘイトを稼いでいたのが全て僕に来る分、戦いにくさは倍増だ。
その上、出てくる魔物も『ゴブリン』から『コボルト』にグレードアップしている。
ゴブリンは基本、頭真っ白で「攻撃こそ最大の防御だ!」と言わんばかりにがむしゃらに棍棒を振りまくるだけなのだが……コボルトにはどうやら知性があるらしい。
こちらの力量が分かるまでは受け身の状態を取り続けるのが基本だ。
その上何よりも厄介なのが――【
僕が最初に殺した1体以降、全て三人一組で行動してやがる。
それも、そこそこに連携の練度が高く、包囲を敷くように3方向から攻撃してくるのがうざったい。
【引き寄せ】で武器さえ奪えれば一体は無力化できる訳だが……【引き寄せ】にはどうやらMPが3かかるようで、MPが11しかない僕には連発できそうもなかった。
かといって、危険は冒したくない。
ということで、MPが貯まっては【引き寄せ】で1体無力化、もう1体をユズハの【睡眠弾】で無力化、残った1体を僕が殺す……なんて方程式で今までやって来ていた訳だが……。
「効率が悪すぎるな」
丸一日眠らずにコボルトを殺し続けたというのに、上がったレベルはたったの2つ。
討伐総数もまた、30を超えるか超えないか程度だろう。
確か、最初に「1週間以内に攻略しろ」だとか言っていたはずだ。
だとすれば残された時間は2日経ったから――たったの5日……かよ。
顔がひきつる。
ルールは『5層目にいるボスを倒せば終わり』、すなわり攻略完了である。
がしかし。
1層を4人で攻略するのに丸々一日かかった。
これから残りの4層をたった2人で、しかも5日間のうちに攻略するとなると……どう考えたって、このペースで行ったら終わる。詰みだ。
……危険は承知で、飛び込むしかない。仕方ない。腹を括ろう。
頬をパチリと叩いて、息を吐いた。
「ユズハ……これからは少しペースを上げる」
「うん。どこまでも着いてく!」
「MPの残りは?」
「100以上ある。だからまだ気にしなくてもおっけー」
グッドサインをこちらに向けてくるユズハ。
……何なんだこの子。MPが100超え? 僕なんて11しかないんだぞ……。職業差か? そうだよな? 頼むそうであってくれ。
正直、ユズハを連れてこなかったら……。
考えて、思わず体が震えた。多分、詰んでたな。危ない、まじで連れてきて正解だ。
僕が負傷して動けないときも介護してくれるし……裏切り者の線も薄いだろう。
裏切り者であるならば、その時点で僕のことなど殺しているはずだからな。
息を30秒間止め、ある程度伸びてきたステータスを確認する。
──────────────────―
港夏芽 人間 職業:回収屋コレクター
レベル:2→6 MP11/11
〇ステータス
筋力:182【E】→253【E+】
技量:201【E+】→321【D】
俊敏:213【E+】→388【D】
知力:203【E+】→278【E+】
総合:ランク【E+】→ランク【E++】
〇スキルツリー
スキルポイント〈2〉
〇回収中のアイテム / 装備
【ゴブリンの魔石〈E〉】:筋力補正・微
【Bランク魔法使い用装備】:全ステータス補正・中
【コボルトの魔石〈E+〉】:俊敏補正・微
【コボルトの魔石〈E+〉】:俊敏補正・微
※残り回収可能枠2/4―→残り回収可能枠0/4
──────────────────―
レベルアップの恩恵は正直そこまで大きくない、と思う。
どちらかといえば、スキル【回収】の恩恵の方が一割程度上な気がする。
ただまあ、ちらほらとランクDのステータスも出てき始めている。
いい調子ではあるかもな。
一応、今は間に合わせとして【コボルトの魔石〈E+〉】を回収しているわけだが……狙いはやっぱり、レアドロップだろう。この調子でコボルトを倒し続けて、レアドロップ品を【回収】する。それが目下の目標だ。
まあ、さっきから肉と魔石しかドロップしないわけだけど……。
取り敢えず、貯まってきたスキルポイントを【回収の極意】に全部割り振っておこう。
SkillTree──────────────―
〇スキルメニュー
【回収者の極意――〈6〉[+2]】
──────────────────―
Info─────────────────
【回収の極意】のポイントが5になったため、
スキル【死体回収】を習得しました。
──────────────────―
「……おっ」
思わず声が漏れる。
まさかの新スキルゲットだ。
【死体回収】……か。
スキル説明文には『死体を回収できる』としか書いてない訳だが……これ以上の説明が求められないならば、己で試すほかないだろう。
ひとまず……。
「ガルゥ?」
「ガルガル!!」
「ガルゥゥゥウ!」
気配を殺し、角を曲がってすぐのところにいるコボルト三体の姿を確認する。
ひとまず……こいつらを【引き寄せ】なしで殺す。レベルアップも重ねたし、そろそろ行けるはずだ。
「ユズハ、頼む」
「分かった……。魔法【
杖先から放たれる黒いモヤに包まれ、コボルトが一体バタリと地面に突伏する。
瞬間、僕は駆け出した。
「ガルゥウ!」
すぐさま戦闘態勢に入るコボルトA。
僕は走りながら屈み込むと、砂利を手の中に掬い取った。
「ガルッ!」
剣を振り下ろそうとするコボルトAに向け、僕は右腕を振りかぶる。
「……卑怯とか、言うなよッ!」
顔面に向け、思いっきり砂利を振りかけた。
コボルトAはたじろぐと、ギュッと強く目をつむった。
「ガル!?」
驚き固まるコボルトAの喉元に、流れるように剣を突き立てる。
……まず1体ッ!
「ガルァ!」
コボルトBが、眠っているコボルトCの頭を蹴ってたたき起こす。
ゆっくりと起き上がるコボルトCが、こちらを見て腰を落とした。
……2対1。
やれるか? やれるよな、僕なら。
行こう。……びびんなよ、絶対。
ふぅ、深呼吸を一つ。
ゆっくりと、コボルトを見据える。
「ユズハ!」
「うん。魔法【俊敏補正】!」
ギュィィイイイン。
足に貯まる力。その全てを放出するように、地面を蹴り上げた。
「が、ル!?」
戸惑うコボルトBを置き去りにして、半ばタックル気味にコボルトBをぶっ飛ばした。
そのまま、取り残されたコボルトCを……っ!?
「ガルッ!」
「はっや!?」
既にこちらに剣を振り下ろしているコボルトCに、僕は咄嗟に屈み込む。
ファンッ。すぐ頭上で、風を切る音が鳴った。……危ねえ、屈み込んでなかったら、死んでた?
は、ハハッ。
思わず笑みが漏れる。
脈打つ心臓。
踊る心。
なんだよ僕……。
……アドレナリン、ドバドバじゃん。
地面を踏みしめ、勢いよく頭を振り上げる。
ズゴン、僕の脳天が、コボルトのみぞおちに入り込んだ。
「ガ……っ、ル……」
宙を舞うコボルトCに向け、そういえばと、僕は手をかざす。
「スキル【死体回収】」
ズサーっと、勢いよくコボルトの死体に僕のマフラーが押し寄せた。
宙を舞うコボルトを、そのままマフラーが空中で喰らい尽くす。
瞬間、黒い板が視界に浮かび上がった。
Info────────────────―
【コボルト〈E+〉】を回収しました。
────────────────―――
Skill──────────────────―
【死体回収】――(回収中:【コボルト〈E+〉】)
----効果---------------------------------------
〇マフラー(※名称未設定)の
【ノーマル】→【攻撃型】
〇スキル【威嚇】の習得
〇特殊効果
コボルトより得られる経験値が5%上昇する
──残り回収可能枠〈 0 / 1 〉
─────────────────────
なんだか盛りだくさんだな?
というか、マフラーの形態変更って、なんだ? よく分からないのだが──
──ぐにゃり。
音を立てて、闇で出来ていたマフラーが突如ねじれた。
ぼこぼこ、ぼこぼこ。
膨らんだり弾けたりを繰り返しながら、マフラーの形が変わっていく。
「うぉあ!?」
驚く僕など気にも留めず、マフラーは姿を変え続け、やがて……。
「んだ、これ。……犬の顔面?」
……そこには、犬の顔面があった。
マフラーのさきっちょに、鋭い赤目の犬の顔面が黒いモヤで形作られている。
もしかして、コボルトか? 死体回収って、このマフラーに影響があったのか?
回収可能枠はたったの1つだけらしい。
そのことから、通常の【回収】とは違う『特別感』とやらが見て取れる。
というか、マフラー(※名称未設定)ということは……名前を付けられるのか?
「なあ、お前って……名前とか付けれんの?」
マフラーに語りかけるなんて、どうかしてる。
自分でも言ってからそう思ったが、
「ガルゥウ!」
「……喋んのかよ、お前」
どうやら、この犬っころマフラーは返答も可能らしかった。
この返事っぷりを見るに、名前はやはり付けられるらしい。
付けておくか、一応。
そうだな。マフラーだから、ちょっと文字って……。
「フラマとかどうだ?」
「ガルゥ! ガルガル!」
どうやらお気に召したようだ。単純である。
っと……また黒い板だ。
Info──────────────────
【!】マフラーの名称が【フラマ】に固定されました。
---------------------------------------------
〇【フラマ】のステータスを確認しますか?
──────────────────――
ステータスとかあんのかよ……。
まあ、一応確認するけど。
─────────────────
フラマ 状態:コボルト / 攻撃型
MP21/21
〇ステータス
筋力:211【E+】
技量:89【F+】
俊敏:121【E】
知力:31【F】
総合:ランク【F++】
〇スキル
【威嚇】
◇対象の敵1体をひるませる
─────────────────
うーん、想像していたよりは強くないらしい。
ランクもF++とのことらしく、初期の僕よりも弱い。
ただ、筋力のステータスが頭抜けて高いから、【攻撃型】らしく攻撃特化ではあるようだ。
まあ、案外良いものを手に入れたな。思わぬ収穫だ。下手なレアドロップよりもいい収穫だったかもしれない。
ちなみに、残ったコボルト2体の死体からは、やはり魔石と肉しかドロップしなかった。畜生。
「っと、すまんユズハ、待たせたな。それじゃ、行こうか」
ぼーっと天井のシミを数えていたユズハに声をかけ、僕は歩き出す。
フラマの性能もチェックしておきたいしな。
が、しかし。
「も、もうむりぃ……。ユズハ、眠い……」
ごしごしとしょぼしょぼの目を擦るユズハ。
時間もないというのに……なんて一瞬は怒りが込み上げたが……そういえば、丸一日歩き続けてんだよな、僕ら。
ユズハはまだ幼い。その様相を見るに、恐らく中学生辺りだろう。
流石に……無理させすぎたな。
軽く息を吐き、僕はその場で座り込む。
「少し休もう。寝てもいいぞ」
「……ほんと? ナツメの迷惑になってない?」
「ああ、大丈夫だから眠れ。変なとこでぶっ倒れるほうが厄介だ」
「むへへ~。やっぱり、ナツメは優しい~」
べた~っと、こちらの頬にほっぺたを押し付けてくるユズハ。
……この子は多分、これが楽しいんだろうな。まあいい。勝手にさせておこう。
だら~っと死ぬように僕の膝の上に倒れ込んだユズハを、ぼーっと僕は眺める。
この子は、なぜここまで僕に固執するんだろう。主人公だとか言ったり、僕が裏切り者である線が濃厚であるのにも関わらず、こうして着いてきたり。しかも、今なんて僕に無防備な姿晒してるし。
……分からない。分からないけど、でも。
なんでだろ。……全然、そんなはずないと思うんだけど。
でも、あれ……。喉に突っかかる、強烈な違和感。
――僕、この子とどこかで、会ったことある?
瞬間、ジジッ、と耳元でノイズが走った。
……アナウンスだ。
『やっほ~、
ルールを、変更?
『これから毎日、不定期でイベントタイムを設けるよ! イベントってのは~、とーっても刺激的で、突発的な『催し』さ! そして、早速今から一つイベントを開始しちゃうよ~!!』
……今から?
ごくりと、固唾を飲む。
内容によっては……丸一日眠ってねぇってのに、また走ることになるぞ。
『その名前は【キルタイム】! 今から1時間だけ、【人間】を殺した時に得られる恩恵が上昇するよ! そうだな……今なら、一人殺すだけで大量の経験値、そして〝次の階層へと繋がる階段へのマップ〟をあげちゃいまーす! どうどう? 結構道に迷ってた君、チャンスじゃない? それじゃ、【キルタイム】スタート!!』
パパーン。弾けるような音と共に、視界の右上にタイマーが表示される。
『60:00』……きっかり1時間らしい。
でもまあ、キルタイムか。
人間を殺した時の恩恵が上昇すると言っても、この広大なマップだ。
それに、人間と呼べるような相手も市井さんと天菜しかいない。出くわすほうが稀だろう。
そこまで危険なイベントでもなさそうだ。
ともすれば、僕も少しばかり休憩を……。
考えて、いや、と頭を振る。
もっと、もっと疑うべきだ。
……そもそも、『つまらないからイベントを設ける』だとか言っておいて、そんな誰も遭遇しないからやっぱ何も起こりませんでした~なんて結果になるイベントを始めるのか……?
な訳ない。
だとすれば……どうだ?
もし、僕がこのゲームの”主催者”だっとして。
イベントを設けるタイミングは――
「た、助けて……助けて助けて助けてぇええぇえええ!!」
――プレイヤーとプレイヤーが、接触しそうになったタイミング。
「……え?」
聞こえてきた若い男性の悲鳴に、僕は思わず顔を上げた。
道の奥から、顔をぐちゃぐちゃにした七三分けの男が走って逃げてくる。
ただ僕は、それを呆然と見ていることしかできなかった。
……なんだ、これ?
つか、誰……?
参加者は、僕とユズハ、そして天菜と市井さんしかいないはずじゃ――
――いや、違う。
もしかして、僕って……今まで、なにか盛大な勘違いをしていたんじゃないのか?
伏線など、多分なかった。それはきっと、このゲームの主催者が僕らに敢えてそれを知らせないようにしていたからだ。
でも、間違いない。
こうなったら、確信せざるを得ない。
初めから、ずっと、ずっと。
――このゲームの参加者は、僕ら以外にもずっといたんだ。
「……逃げんなよ、裏切り者が」
奥から姿を現した白髪赤目の男が、七三分けの男の背に向かって手をかざす。
そして。
「魔法【
冷酷な声が、耳をかすめた。
七三分けの男が、それを聞いて「ひぃ」と情けない悲鳴を上げる。
「いやだ……やだやだやだやだやだ!! 死にたくない死にたくない死にたくないッ!! 助けて……ねぇ、そこの君……頼むから、なんでもするから、僕を、僕を助けてぇぇえぇええ!!」
迫りくるうねる炎を背に、こちらに必死に手を伸ばす七三分けの男の姿を。
ただ呆然と見ていることしか、僕にはできなかった。
「――い、いやだぁぁあぁあぁあぁあああ!!」
そして、やがて呆気なく。
男は、炎に飲み込まれた。
【あとがき】
お久しぶりです。
こちらは言い訳になりますが、コロナワクチンの副反応で完全にダウンして執筆どころじゃありませんでした。今はもう元気です。
物語のテンポが悪い、と思われていたら非常に申し訳ありません。
なぜテンポが悪くなるのか、作者も見当がつかないのです。下らない情報を詰め込みすぎでしょうか。
アドバイスなどがあればどなたか教えて頂きたいです。
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