第11話 スキル【回収】を試してみる


Info──────────────────―

【!】〈回収〉できるアイテム、及び装備が収納されています。

------------------------------------------------

〈回収〉しますか? 〈はい / いいえ〉

──────────────────―――


 勿論、『はい』だ。


 ◇


『はい』のボタンをタップすると、【ゴブリンの魔石〈E〉】と【Bランク魔法使い用装備】が、どこからともなく腕の中に湧いてきた。


 まずい、今振り向かれたら……。

 ドアの先へ行こうとするみんなの背後で焦る僕は、とっさの判断で、みんなに向かって背を向ける。


 どうやらそれが功を成したようで、そのすぐ後に、市井さんの呑気な声が飛んできた。


「どうしたかしたか……ミナト?」


「い、いや……。お腹痛くて……」


「そ、そういえばそれは死活問題だなぁ!? ここでは、野糞しか出来ん! ガーッハッハ!」


「ちょっと先行っててください……。すみません」


「ああ!」


 市井さんは、ユズハと天菜を連れて先に進む。

 ユズハはいつものように【治癒ヒール】をかけようとしてきたが、今回ばかりは大丈夫、なんて言って追い返した。


 ……流石に、怪しいかもな。


 でも。

 地面に2つのアイテムを並べ、僕は口角を吊り上げる。


 さて、もう一回だ。

 2つのアイテムに向かい、僕は手を突き出し、小声で口に出す。


「スキル……【回収コレクト】」


 すると、僕の首にまとわりついている影で出来たマフラーが、瞬きの内に飛んでいった。

 そのまま、影で包み込み装備と魔石を喰らい尽くす。


 なるほど。

回収コレクト】は、どうやらこのマフラーがあって初めて使えるスキルだったようだ。


 なんて考察する僕の視界に、またも黒い板が浮かぶ。



Info──────────────────―

以下2点のアイテム・装備を回収致しました。

------------------------------------------------

〈Bランク魔法使い用装備〉〈ゴブリンの魔石【E】〉

──────────────────―――



Info──────────────────―

【!】回収によりステータスが上昇します

【!】Bランク以上の装備を回収したことにより、スキルポイントを1取得しました

【!】スキル〈回収〉のレベルが、1上がります。

------------------------------------------------

〇ステータスに変化があります。

──────────────────―――



 ステータスに変化……か。

 どの程度変わったのか、一度確認しておくべきだろう。

 

 息を止める。

 やがて、画面は移り変わった。



──────────────────―

港夏芽 人間 職業:回収屋コレクター

レベル:2 MP11/11


〇ステータス

筋力:90【F】→182【E】

技量:125【E】→201【E+】

俊敏:133【E】→213【E+】

知力:141【E】→203【E+】

総合:ランク【E】→ランク【E+】


〇スキルツリー

スキルポイント〈1〉


〇回収中のアイテム / 装備

【ゴブリンの魔石〈E〉】:筋力補正・微

【Bランク魔法使い用装備】:全ステータス補正・中

 

※残り回収可能枠3/3―→残り回収可能枠2/4

 ──────────────────―



 総合ステータスランクがEからE+になっている……。

 間違いない。かなり、大きな進歩だ。


 ゴクリと、生唾を飲み込む。


 ……もし、Sランクのアイテムを回収できたら?


 BとEでここまで成長するんだ。

 きっと……かなり成長できる。


 もっと、もっと強くならないと……。


 そうじゃないと僕は、きっといつか誰かに殺される。


 ――やってやる。

 

 新たに手に入れたスキルポイントを【回収の極意】に割り振って。

 決意を固め、僕はみんなの待つドアの先へと足を踏み入れた。



SkillTree──────────────―

〇スキルメニュー

【回収者の極意――〈2〉[+2]】

──────────────────―



Info──────────────────―

【回収者の極意】のポイントが2になったため、

【俊敏】のステータスが30上昇しました。

──────────────────―――

 

 残り回収可能枠が『3/3』から『2/4』になっているのは、スキル【回収】のレベルが1上がったかららしかった。

 

 ◇


「おう、ようやく来たか」


 ドアを開けてすぐに、空気が変わったのを感じた。

 少しばかり肌寒く、なのに、湿った淀んだ空気が身体中に纏わりついている。気持ち悪い。それに、そこは真っ白な部屋の中ではなく、ゴツゴツした岩だらけで、所々に水晶も生えていて。


「まるで、洞窟みたいですね」


「うむ、俺もそう思っていたところだ! ガーッハッハ!!」


 ということは……とうとう、ダンジョンにやって来たんだろうか。

 みんなの顔を見回し、頷きあう。 


 ……天菜は、未だ怯えているんだけど。


「遅れてすみません。それじゃあ、行きましょう。時間は、限られています」


 それから、俺達は道を歩きだした。

 途中途中に分かれ道がいくつかあって。そのために、どこを通ってきたのか分かりやすいように小石を目印として置いておいた。

 

 何か、想像していたような異形に出会すようなことはなかった。

 案外平和で……正直拍子抜けという思いもある。

 

 ただまあ、危険がないにこしたことはないけど。

 

 少しずつ警戒心が解けてきたのか。

 呑気な市井さんは、視線もよこさず僕に問い掛ける。


「ミナト……。妹さんを助けに来たんだったよな、確か。妹さんは……病気なのか」


 急な質問に、少々戸惑う。

 ユズハも、ぶんぶんと首を縦に振ってこちらを見ていた。


 まあ、無言で歩いているだけでも、疲労がたまるだけで士気が下がる。

 ……小話を挟んで行った方が、良いよな。


「天菜も聞くか……?」


 一応、さっきからずっとしょんぼりモードの天菜にも声をかける。

 でも、天菜は乾いた笑みを浮かべ、首を横に振るだけだった。


「そっか」まあ、こしょこしょ話じゃないし、どの道聞こえると思うけど……。「じゃあ話しますね、妹の……結花の話を。結花は……僕のたった一人の家族で――」


 話し終えると、市井さんは顔に手を当て号泣していた。

 ユズハに関しては……「主人公にピッタリの過去……」なんて有様だけど。


「ミナト……俺は、絶対にお前を生かしてここから出すぞ! 妹さんのためにもだ! だから、だから――」


「──グギギィイイ?」

 と、また、緑の小穢い、禿げ上がった頭の化け物が姿を現す。


 ゴブリンだ。

 初邂逅……ここはなるべく落ち着いて対処を……。

 

 なんて思った時には、市井さんはすでに大剣を掲げ、「ウガァアア!」と吠えながら飛び掛かっていた。

 

 目を見開く。ただ、僕は眼前に広がる光景に唖然していたように思う。


「――こんな奴に、足止め食らうわけにはいかねぇなァァア! スキル【一閃】!!」


 ザシュッ、と小気味良い音と共に、ゴブリンの体が真っ二つにかち割れる。

 

 ──ただ純粋に、強すぎる。


 なんて驚いたのは、僕だけじゃなかったようだ。

 ユズハも天菜も、目を瞠って市井さんの勇姿を見ている。


 今まであった恐怖心も、何もかもが吹っ飛んでいくのが分かった。

 僕らならやれる。きっと、やれる。


 そんな希望が、脳内でちらついていた。


「ウガァアアアアア!!」


 そんな市井さんの勝利の叫びが、僕の心を揺さぶった。


 僕なら……行ける。


 熟れた手付きでダガーをクルリと回し、僕は市井さんのすぐ横まで駆けつける。

 そんな僕ら二人の前では、ゴブリンの集団が待ち構えていた。きっと……この真っ二つゴブリンの仲間なんだろう。


 数は……丁度5か。


 やってやる。

 ギチリと音が鳴るほどに、僕はダガーを強く握りしめた。


 脳内にちらつく、僕らならどこまでも行けるという希望。

 ただその裏で。

 

 ──もし市井さんが『裏切り者』だったとしたら、どうなる?

 

 そんな不安と不信感が募っていくのを、ただなんとなく感じていた。





【あとがき】

『週間総合ランキング』にも入っていたみたいです。

 泣きそうなくらい嬉しいです。ありがとうございます……。

 

 面白い、続きが気になるという方はどうか、フォロー、応援、星の方をよろしくお願い致します;;

 星は一つでも二でも三つでも構いませんので、どうか;;

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る