第9話 ガチャと異変

昨日だけでフォロワー様が20人程度増えて泣いてます。

やる気出ました。ありがとうございます;;


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「ガチャガチャ……?」


 ……そう、ガチャが置いてあった。


 ◇


 その上には、


【Bランク以上確定装備ガチャ! 一人一回までだよ~! 『外れ』を引いた方は、隣にある〈Eランク確定装備ガチャ〉へどうぞ!】


 と書いてある板が張ってある。

 どうやら……ここで装備を整えていくらしい。


「怪しいわね……。これ、引いたら死ぬんじゃない? 名付けて……強欲の試練ね」


 なんか変な決めポーズを取りながら、天菜が鋭い意見を飛ばす。

 がしかし、そんな考察気にせず、せっせか市井さんはガチャを引き始めた。


「引いてみたら分かるな! ガーッハッハ!!」


 ポコポコポコ、なんてポップな音を立てながら、ガチャがガタゴトと暴れ始める。

 その傍らでは、あわあわと慌てる天菜の姿があった。


「忙しい人達だね……」

 と、僕の袖を引っ張り、ユズハは言う。


「うん、そうだね……」

 君が一番不思議だけどね、なんて思いは、心の内に留めておいた。


 やがて、ガチャは目が眩むほどの閃光を当たりに飛ばすと――カランと、地面にカプセルを吐き出した。


「お、死ななかったな! 残念だったな、嬢ちゃん!! しかも【Sランク・重戦士用装備】って書いてあるな。幸運だ! ガーッハッハ!」


「……ぐぬぬ。もしかしたら、そのカプセルを開けたら死ぬ可能性も……っ」


「よし、開けるか!」


「ギャアァアアアアアア!! まだ死にたくないよぉおお!」


 ……ほんと、忙しい人達だな。

 そんな忙しい人達筆頭である市井さんは、恐れずにカプセルをパカリと開ける。無鉄砲だ。そう言うやつもいるかもしれないが、僕にはその勇気がなんとも羨ましく思えた。


 すると、カプセルはガチャ同様光を放ち。

 視界にかかる靄が治った頃には――


 ガシャリと、金属の擦れる音がなる。


 ――市井さんは、厳重な鎧を身に纏っていた。しかも、大剣を手に握っている。


「なんだこれ!? おめぇ! けどやべーな、こりゃ! ガーッハッハ!!」


 ゴブリンの時は焦りであまり思えなかったけど。

 ようやく……ファンタジーっぽくなってきた。ファンタジーといっても、病院の図書室においてあるそれらしき本を一冊読んだくらいであまり知識はないのだが、でもやはり、ワクワクしてくるというものだ。


 ……いいや、そうでもないか。


 だって、これから僕らって、さっきみたく戦うって……ことなんだよな。

 殺し合う……んだよな?


 ははっ……。

 急に、手が震えてくる。


 なんて苦悩する僕の手を、ユズハは包み込むように握った。


「大丈夫。ユズハが、守るから」


 まるで、心を見透かすように。

 けど、


「ヒロインは、主人公に守られる役だろ?」


 ……こんな小さな子に、無理させる訳にはいかないよな。

 なんて思っていると、「うわぁあああ!?」と悲鳴が聞こえてきた。


 天菜だ。目を向ける。

 するとそこには――


「……わおっ」


「み、見ないでっ!!」


「ガーッハッハ! これが魔法使いのSランクだとはな! 子供が寄ってきそうな格好だな!」


 ――毎週日曜日の朝にテレビでやっていそうな、可愛らしい魔法少女の格好をする天菜の姿があった。


 恥じらい、唇を噛み締め、地面をじっと見つめている。その瞳は随分と潤んでいて、結構ガチで恥ずかしがっているんだろうと、なんとなく察しがついた。


 けど、そんな彼女に。

 市井さんは、軽々とデリカシーのない発言を飛ばす。


「そんな可愛い格好、嬢ちゃんには似合わんな! ガーッハッハ!!」


「ほんと死ね!」


 きっと、本気でムカついたんだろう。

 それで、通常よりも殴りに力が入ってしまったのが……運の尽きだった。


 天菜が突き出した拳。 

 その先にいるのは市井さんだ。そして、市井さんが着ているのは……重厚な鎧である。


 ガキンッ、と甲高い音がなった。 

 そして次の瞬間には、膝を曲げ、フシューと煙のような物が出ている拳を擦る天菜の姿があった。


 ……めっちゃ痛そう。


「ユズハ……。阿左美に、【治癒ヒール】を使ってやってくれ」


 なんだか恥ずかしく、未だ天菜を阿左美と呼ぶ僕に対し、ユズハはぶんぶんと勢いよく頭を振る。


「ユズハはナツメのもの……。ヒロインは、主人公以外には優しくしないの」


「そんなこと言わないで、ほら……っ」


「別にいいわよ! 全く……」


 拗ねてそっぽを向いてしまった天菜を見て、乾いた笑いが漏れ出てしまう。


 一応僕達って……これでもパーティーなんだよな。

 本当に……これでこの先やっていけんのか。


 なんて不安になる僕を差し置いて、お次はユズハがガチャを引いた。

 また、閃光が辺りを駆け抜ける。……天菜の時は、出ていなかったような……。


「【Sランク・支援者用装備】、当たりだ。いぇい」


 あの光はつまり、Sランク確定演出か?

 てことは、まさか……。


 天菜はSランク装備じゃ――


「次は……キミの番だよ、ナツメ。主人公なら……Sランクだから。安心して」


 ――いつの間にかゴスロリになっていたユズハに、思考を遮られる。


 プレッシャー、ヤバいっすな……。

 ドクドクうるさい心臓を撫で下ろしながら、僕はガチャの前に立つ。そして、生唾を飲み込み一呼吸。


 ガチャを、がちゃりを回す……。っふ……。

 ダジャレも決まったな。


 瞬間、視界いっぱいに白が広がった。

 閃光だ。


 脳内に、不可思議な声が響く。


『ぱんぱかぱ~ん! 大当たり! Sランク~~!』


 ……やっぱり、Sランクが出る時の演出だ!


 すぐさまカプセルを拾い、僕は内容を確かめずパカリと開けた。

 そしてまた、光りに包まれ――


「ぷふっ! あんたこそどんな格好してんのよ!」

「……そういう趣味も、いいと思うぞ! ガーッハッハ……!」

「主人公……?」


 ――先の尖ったトンガリ帽子に、先に赤色の宝石が埋め込まれた杖。黒い可愛らしい、袖にリボンのついた服に、畳み掛けるようにリボンのチョーカー……そして、スカート。


 これ完全に……女の子用じゃねぇか!?


 悪の女官部のように笑う天菜の顔を睨みつけ、僕は指をさす。


「笑うなよ! 天菜だってソレだろうが!」


「別にいいもーん! だって、私よりももっと恥ずかしい人が出来たんだから! あ、あと……」そこで急に言葉を止めると、天菜は頬を赤らめ、顔をそらした。「……急に名前で、呼ぶなし」


 ドキンッ、と心を射抜かれる。

 やばい、今のは……不意打ちすぎる……。


「ご、ごめん……」


「おいミナト! いちゃつくのは良いが、集中力は切らすなよ!」


「「イチャついてない!」」


「主人公は……ヒロイン以外とイチャついちゃダメ……」


「「だからイチャついてないってば!」」


「息ピッタリじゃねえか! ガーッハッハ!!」


 はぁ。ため息が漏れる。

 ……なんだか、疲れる人達だな。


 まあいい。こんなとこでもたもたしていたも仕方ない。

 さっさと次のエリアに――


「ん?」

 

 視界の中にある違和感に、ピタリと足が止まった。

 

 ……あれ。おかしいな。

 地面に散らばっているカプセルが、3つしかない。


 4人引いたんだから、4つあるべきはずなのに。

 屈み込み、一つ一つラベルを確認する。

 

【Sランク・重戦士用】が一つ。

【Sランク・支援者用】が一つ。

【Sランク・魔法使い用】が一つ……か。


 てことは……僕が引いた【Sランク・回収者用】のカプセルがないってことか?

 いや、待てよ?

 

 息を30秒間止め、ステータスを表示する。

 そして、僕は『装備欄』に視線を留めた。


Status───────────────

〇装備

歴戦の魔法使いの帽子〈S〉

炎帝の杖〈S〉

黒猫のチョーカー〈S〉

白雪姫のドレス〈S〉

≪※どの装備も貴方に適した装備ではありません≫

──────────────────


 ……間違いない。

 これは、多分、【Sランク・魔法使い用】の装備だ。 


 ということは。

 足りていないカプセルは──天菜の?


「何してんのよ、あんた?」

 膝に手をついて僕を見下ろす金髪の少女に、誤魔化すように取り繕った笑みを向けた。


「いやあ、それがさ。僕のこれ、魔法使い用の装備だったらしいんだよ」


「なるほど、どーりで可愛い訳だ!! ガーッハッハ!」


「『外れ』は隣のEランク……だったっけ? なーんで僕だけ毎回クソ雑魚なんだか……」

 

 はぁ、とため息を一つ。

 隣りにある【外れた方用! Eランク適正装備確定ガチャ!】と書かれているガチャに僕は手を伸ばした。

 

 ガチャを引く。

 ころんと出てきたカプセルには、【Eランク・回収者用】と書かれていた。 


 突如、黒い板が視界に浮かび上がる。


Info──────────────────― 

【!】手に、貴方に適した装備が握られています。

------------------------------------------------

現在の装備〈Sランク・魔法使い用装備〉から着替えますか?

──────────────────―――

 

 はい、を押す前に。

 僕は、顔を引きつらせている天菜の方を見た。

 

 ……Sランク確定演出が出なかった事といい。

 ……「見ないで!」と僕を突っぱねた事といい。

 ……天菜が〝特別〟である件といい。


 やはり、天菜は何か、僕らに隠し事をしている……。


 もし、それが裏切り者であるということならば――

 ――やはり僕は、こいつに心は許せない。


「なあ、天菜……。本当に、それはSランクの装備なのか?」


「な、なによ。信じてないの……」


「いや、そういう訳じゃないけどさ」


 僕は黒い板に映る『はい』のボタンを押し、【Eランク・回収屋用装備】に着替える。


 ズタボロのマントに、影で出来たマフラー。そしてズタボロの服に頼りないダガー。

 Eランク感溢れ出る、駆け出しの盗賊のような格好だ……。


 がしかし、今はそんなこと気にしている場合じゃない。


 雑念を振り払い。

 僕は先程まで着ていた【Sランク・魔法使い用装備】を……天菜に向かって差し出した。


「これ、いるか……? Sランク……らしいよ」


 すると、天菜は目を見開いた。


「だから……私のもSランクって言ってるじゃない! 別にいらな――」


 僕は笑みを浮かべ、頬を掻き。

 そして、天菜に言い放つ。


「――違うよ。その魔法少女の格好より、こっちの方が良いかなと思ってさ」


「……ッ!」


 明らかに今……動揺した。

 でも、別にここの反応じゃない。僕が知りたいのは、そこじゃない。


「それもそうね……」


 そう言って装備を受け取り、着替えた天菜に向かい。

 僕は、更に畳み掛ける。


「それじゃあ、それ貸してよ。もう、いらないでしょ? 安心してよ……。僕は【回収屋】。荷物を運ぶ役割っぽいんだ。【収納】なんてスキルもある。だから、当然の責務でしょ?」


 それから数秒の間を開けて、天菜はようやく口を開いた。


「……は、はい。これ。匂いとか、嗅がないでよ?」


「ああ。勿論」


 微笑みを返し、僕は呟く。


「――スキル【鑑定】」


 それを聞いたのか、天菜はすぐに地面を蹴ると、僕が手に持っている装備を奪い取ろうとしてきた。がしかし、その前に装備を【収納】した僕は、笑みを保ったまま目をひん剥く少女へと告げる。


「安心してよ。ちゃんと、Sランクだった……。疑ってごめんね、天菜」


「あ、ああ、そう。ほ、本当……勘弁してよね」


「……ふはー! なんだ! ビビったなぁ!? まさか、嬢ちゃんがそんな嘘をつくとは思わなかったからな! ま、裏切り者じゃあるまいし。嘘とかつくわけないか! ガーッハッハ!」


 放心状態にある天菜を見て、目を細める。

 そして近づき、耳元で、僕は囁いた。


「大丈夫……。僕はまだ・・、君を信じてる」


 ハァッと、天菜の荒い息遣いと共に。

 甘い匂いが、鼻を掠めた。


 ……あの時、たしかに黒い板には。


【Bランク・魔法使い用装備】と書いてあった。


 ということは、つまり。


 天菜は、僕らに嘘をついたんだ。


 けど。それをみんなに正直に話して、天菜が例の『裏切り者』だったとしたら。自暴自棄になって、暴れ回るかもしれないから。


 だから市井さんとユズハには嘘をついた……ってのは勿論ある。

 けれど何よりも、僕は。


 この暖かいパーティーが、こんなちっぽけな一つの嘘でバラバラに壊れてしまうのが、怖かったんだ。

 勿論、天菜が裏切り者だったとしたら、秘密を知っている僕を真っ先に殺しに来るかもしれない。そうだとしたら……怖いな。


 でも。


「……大丈夫だよ、天菜。僕らは、君の仲間だから」


 それは、なだめるために放った一言だった。

 酷い事をしてしまったし。だから、天菜との仲を取り持つために、口にした一言だった。


 けれど。


「は、はい……」


 天菜は、ひどく怯えていた。


 ……流石に、やりすぎたかな。

 でも、ほら。


 ――嘘をつく方が、悪いよね。


 目を細め、僕はマフラーで口元を隠すと。

 いつの間にか現れていた新たなるドアを見据える。


「それじゃあ、行こっか!」

「うん。ユズハ頑張る」

「ガーッハッハ! 次はなんだろうなぁ!? ガーッハッハ!」


「ほら……天菜も……。行こうよ」


 僕らの後ろでぽつりと佇む天菜に、僕は声をかける。

 すると、天菜は顔面蒼白になって答えた。


「……は、はひぃ」


 なんだか不安が募るばかりだけど。

 こうして、僕らのダンジョン攻略の、幕が開けた――。


 視界の中に、いつの間にか黒い板が浮かんでいた。


Info──────────────────―

【!】スキル〈回収〉、及び〈引き寄せ〉のロックが解除されました

【!】スキル〈鑑定〉のレベルが1上がりました

【!】〈回収〉できるアイテム、及び装備が収納されています

------------------------------------------------

〇〈回収〉しますか? 〈はい / いいえ〉

──────────────────―――


 ……ははっ、【ゴブリンの魔石】……奪ってて良ーかった。


 勿論……。


『はい』だ。


 みんなに隠して。

 僕は、一人で強くなる。


 いつの間にかその事に。

 罪悪感は覚えなくなっていた。


 あるのは、確かな胸の高ぶりだ。

 僕は、僕は――


 みんなに隠して強くなり。

 そして。


 無能を装い……。


 ――いつか僕を殺しに来るであろう裏切り者を、裏切り返す。


 そのためには、一刻も早く強くならないと。

 ハハ……ッ!!


 ようやく、面白くなってきたね……。


 僕の中に眠るもう一つの感情が。

 段々と呼び覚まされてゆくのを、心のどこかで感じていた。


 ◇


 モニターが無数に点在する薄暗い部屋の中。


「へぇ……やっぱり彼は、私達の予想を裏切ってくるなぁ」


 クククと、少女が港夏芽の姿を見て楽しそうに笑った。



【あとがき】

 今まで毎日〝複数〟話投稿だったのですが、本日から普通の毎日1話投稿に変えます。基本的には、『午前6時から8時』、もしくは『午後5時から8時』での投稿になりそうです。


 面白い、続きが気になるという方は、フォロー、応援、星の方を;;

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