王都編
久しぶりの王都
ショッピングモール事業を無事終えたアルスは王都サルサに戻った。
屋敷に帰ると1年ぶりの再会ということもあり、サノスとルナは涙を流していた。
まだ6歳のアルスと1年も会えなかったのだから泣くのは当然である。
この日は家族団欒の時間を楽しんだ。
次の日、アルスはサノスの仕事について行くことになった。
サノスの仕事はサーナス侯爵領主の仕事とマリアナ王国の法務大臣としての仕事の2つがある。
今日は法務大臣の仕事で法務庁に馬車で向かっている。
法務庁はサルサの西エリアにある。西エリアは官庁街であり行政機関が集積しているエリアだ。
屋敷から10分ほど馬車を走らせると法務庁が見えてくる。
「で、でかい...」
アルスは法務庁の大きさに思わず声が出る。
法務庁の建物は8階建ての石造りだ。法務大臣をトップに約300人の職員が働いている。この国の法の整備や法秩序の維持等が仕事だ。
「父様、今日はなぜ僕を法務庁に?」
アルスはまだ理由を聞かされていなかった。
「それはだな...」
サノスはアルスを呼んだ理由を話してくれた。
「実は、アルスが王都を離れている間にこちらで色々と問題が起きてね。それを解決するためにアルスの力を借りたいと思ったんだよ。」
「それで何が起きたんですか?」
「巨額詐欺疑惑だよ。」
王都を離れている間にそんなことが起きているとは思わなかった。
「誰に疑いが掛かってるのですか?」
「リーベル外務大臣だ。」
「外務大臣!」
アルスは疑いが掛かってるのがまさかの外務大臣で驚いた。
リーベル外務大臣はサーナス家と同じ侯爵家だ。
リーベル侯爵領は王都サルサから西に5日の所にある。
人口規模は全体で約20万人、領都モルトには約10万人が住んでいる。
領地はサーナス侯爵領と同じ規模であるが人口はかなり少ない。
人口が少ないのには理由がある。圧政だ。
リーベル侯爵領の税金の高さは同じ侯爵領であるサーナス侯爵領と比べて約2倍だ。
税金を支払わなかったり、従わない場合、武力で弾圧もする。
権力を振りかざす強硬派だ。
税金の高さを理由に毎年3000人ほど領地を出ていくという。
サノスがリーベル侯爵領のことを教えてくれた。
「なぜこのような人が外務大臣を務めているのでしょうか?」
アルスは疑問に思った。このような人が外務大臣に選ばれるのには相当な理由があると思ったからだ。
「リーベル外務大臣が選ばれる理由は2つある。1つ目は外交能力が高いからだよ。実際にら今までかなりの成果を上げているんだ。」
「仕事はできる人なんですね。」
「あぁ、外交の力については認めざるを得ない。一体どんな手を使ってるかは知らないが結果を出すからそこは認めざるを得ないんだ。」
「どんな手と言いますと?」
アルスは引っかかった。
「どんな案件でも必ずまとめてくる。こちらがかなり不利であってもだ。何かあると考えるのが普通だろう。」
サノスはリーベル外務大臣を前からかなり疑っていたようだ。
「父様、2つ目の理由も教えてください。」
アルスは2つ目の理由を教えてくれるよう頼んだ。
「あぁ、2つ目の理由なんだが必ずお前も今後苦悩する話になる。」
サノスは顔をしかめる。
「派閥だ。」
2つ目の理由は派閥だった。
サノスは派閥について教えてくれた。
マリアナ王国には現在いくつかの派閥が存在する。その中でも有力なのが、ノスタ派、リーベル派だ。
ノスタ派はノスタ公爵家を中心とした上級貴族で構成されており、サーナス侯爵家も属している。
一方リーベル派は、リーベル外務大臣を中心とした強硬派が集まる派閥である。
ノスタ派は王家と仲が良いがリーベル派はあまり仲がよくない。
ちなみにマリアナ王国では地方分権が行われている。この為、王家はリーベル派が王家を害する場合を除き、領地の事に首を突っ込むことは無いのだ。
サノスの説明でリーベル侯爵が外務大臣を務めている理由が分かった。
しかし、なぜ今回リーベル外務大臣を疑っているのだろうか。アルスはサノスに尋ねる。
「ところでなぜ、リーベル外務大臣が巨額詐欺をしてると疑っているのですか?」
「実は、財務大臣であるノスタ公爵から通報があってね。どうも外務庁からの報告書におかしな点がいくつもあったんだ。」
どうやら財務大臣であるノスタ公爵からの通報だったらしい。
発端は外務庁から提出された年間財務報告書だ。これは各庁に予算をつける財務庁に報告しなければならないものである。
外務庁から提出された報告書にはおかしな点があった。国外に出掛ける際の費用がかなり多くなっていたからだ。多くなった理由について国外への訪問回数の増加と書いてあったが、それを証明する資料の提出はなかった。
財務庁は何度も資料請求をしたが応じないため、法務庁に通報したという。
実は、法務庁は立ち入り調査をする権限を有している。この為、立ち入り調査をすることが決まり、明日外務庁を調査することになっている。
サノスはこの調査に力を貸してほしいようだ。
「ですが、なぜ僕がこの調査に?」
アルスが疑問に思うのは当然である。アルスは今回全くの部外者だ。
「今回のこの件はかなりの強敵だ。私たちだけではリーベル外務大臣を追い込むことは出来ないかもしれない。アルスは今まで水路整備やショッピングモールと言った誰もできないことをやって見せた。必ず今回のこの件はアルスの力が必要になると思う。だから呼んだんだ。」
アルスはとても期待されていると感じた。
「アルス、受けてくれるかい?」
サノスが聞いてくる。
アルスは深呼吸をして心を落ち着かせて自分の使命を思い出した。
「はい、この世界のためですから。」
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