王都へ
アルスは今、王都へ向かう馬車の中だ。
サーナス侯爵領の領都スパムから王都サルサまでは馬車で6日。今日はその最終日だ。
ここまでカノマス領とセムス領の2つの領を通り、王都サルサまではあと少しだ。
サルサまでの旅ということもあり、今回は大所帯だ。
アルスの他にサノスとルナ、セシルとメイド5人、護衛の騎士が15名いる。
騎士が15名もついているのは、サーナス侯爵家の全メンバーがいるという理由もあるが、それにしても多い。
実は、今まで通ってきたカノマス領とセムス領には森があり、魔物が多いのだ。
今回の旅では実際に魔物が度々襲いかかってきた。ゴブリンやコボルトといった弱い魔物で良かった。しかし、かなり強い魔物も生息しており、毎年多くの死傷者を出しているのだ。
そのため、サノスは王都に出向く時は必ず多くの騎士を引き連れている。
サノスは法務大臣も務めていて、いつ誰かに襲われてもおかしくない立場だ。だが、自然と守られるような環境になっており、セキュリティは万全でもある。
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王都サルサが次第に見えてくる。
マリアナ王国最大の都市であり、人口は約86万人。街壁は高さ15メートルで、街の規模は20キロ四方だ。
また、高層建築がたくさん建ち並んでいて、少し離れたところからでもはっきりと見えるほどだ。
「すげぇ...」
思わずアルスも言葉を失う。
サーナス侯爵領領都スパムも国内3番目の規模を誇る街であるが、比較にならないほどの街である。
(まるで日本でいう東京だな。)
アルスはそう心の中で思った。
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アルスたちは王都サルサの南側の検問所を無事通過し、サルサの街に入った。
「なんだここ、凄すぎ!」
「あら、アルスったら興奮しちゃって。可愛いわね。」
アルスは興奮のあまり馬車から見える光景に釘付けになった。そして、その姿を見たルナにからかわれた。
アルスが釘付けになるのも当然であった。
なぜなら今までアルスが見てきた世界とは明らかに違う点があったからだ。
当然、メインストリート周辺の発展具合に驚いたが何よりもアルスが驚いたのは、エルフがいたからだ。
この世界にエルフがいることはアルスも知っていたが、エルフを実際に見るのは初めてだった。
マリアナ王国の種族割合は人間族が5割、獣人4割、エルフが1割ほどとなっている。
エルフはマリアナ王国の最北の自治領に住んでいる。その為、普段見かけることは滅多に無い。
そんなレアな機会に遭遇でき、アルスはラッキーだった。
「アルス、本当に楽しそうだね。」
「はい!父様!見たことのないものばかりで本当に楽しいです。もう、王都に住みたいくらいです!」
「そうかそうか、だが楽しいからってハメを外しすぎないようにな。」
あまりにも興奮するアルスをサノスは少し心配になった。
サルサの街は東・西・南・北エリアと4エリアに大きく分けられ、各エリアに検問所が設置され、各検問所から中央にある王城まで4本のメインストリートが通っている。
アルス達は領都スパムから北に上がり南側の検問所からサルサに入った。
入ってきた南エリアは主に商店などが建ち並ぶ1番人口の多い商業エリア。
東エリアは貴族と豪商などの富裕層が住む貴族街。
西エリアは行政機関や他国の大使館などがある行政エリア。
北エリアは学校や研究機関、王国軍や騎士団の訓練場が集まる教育エリアとなっている。
この4つのエリアが王城を中心として王都サルサを構成している。
街並みは次第に商店などから大きな屋敷が建ち並ぶエリアに変わっていった。東エリアの貴族街である。
マリアナ王国には122家の貴族がいるが、その全てがこの貴族街に屋敷を構えている。
爵位が上がるにつれて大きな屋敷になり、下級貴族と呼ばれる子爵以下の屋敷は東側の検問所に近く、伯爵以上の上級貴族は王城に近い位置に屋敷を構える。
サーナス侯爵家の屋敷は王城に近いまさに一等地と呼ばれる位置にあった。
「大きい...」
アルスは思わず口に出してしまった。
スパムの領主邸ほど大きくないがかなりの大きさであるのは間違いない。屋敷の門を通ると丁寧に管理されている美しい庭園が広がっていた。領主邸の庭園の方が広いが、美しさではこちらの庭園の方が勝っていた。
「綺麗だろ。」
「はい、とても丁寧に管理されているなと思っていました。」
アルスは素直に思ったことを言った。
「この貴族街にはこの国全ての貴族が屋敷を構えているのは知っているね?」
「はい。」
「全てが集まっている。つまりいつも見られているということだ。つまり、外から見える庭を手入れしていなければ品格を疑われるんだ。」
「なるほど。」
「特に爵位が上の者ほどそこは心掛けなければならない。貴族には見栄があるからね。怠れば変な噂が流れて、派閥同士の闘争や時には王家まで巻き込んでことが大きくなってしまうことがある。注意するんだよ。」
「はい、父様。気をつけます。」
サノスに貴族社会の大変さを聞かされ、アルスは気をつけようと思った。
しかし、これからアルスには幾度となく貴族社会の大変さを味わうのだった。
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