領地視察3
役所は農業都市カマの中心にある。門から大通りを馬車で駆け抜け、 20分程で到着した。セシルがドアを開け、馬車を降りると、この街の代官の女性と職員数名が出迎えた。
代官は男爵以下の貴族が務めることになっている。
ちなみに、マリアナ王国では、爵位の世襲や叙爵、陞爵は男女平等である。
出迎えた女性の代官はかなりの美女で、歳はルナと変わらないくらいだろうか。
するとその代官は、
「お兄様、お久しぶりです。お待ちしておりました。」
「あぁ、久しぶりだね。モカ。」
サノスは笑顔で応えたのに対して、アルスは動揺していた。
兄妹がいることなど初めて知ったからだ。
「アルスは初めて会うな。私の妹のモカ・フォン・サーナスだ。お前の叔母になる。こう見えて、農業の研究者で主に品種改良を専門にしている。このカマでは代官も務めてもらっている。」
サノスは詳しく教えてくれた。モカはマリアナ王国でも指折りの研究者らしく、品種改良の他にも耕作地の拡大など数々の功績を残しており、男爵に叙爵されている。
「あなたがアルスね。初めまして、あなたの叔母にあたるモカよ。よく来てくれたわ。」
「初めまして、叔母様。サノスの長男アルスです。どうぞよろしくお願いいたします。」
「あら、2歳なのにとても利口なのね。話には聞いていたけど、ここまでとは思わなかったわ。」
モカはアルスの鬼才さを手紙を通じてサノスから聞いていたが、ここまで優秀であるとは思っていなかったようだ。
「まぁ立ち話このくらいにして、早く中に入って!資料や現状報告など色々とまとめてあるわ!」
「あぁ、わかった。」
モカに急かされ、役所へと入った。
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役所の代官室に案内されると部屋中資料で埋め尽くされていた。
「まぁ、座って!汚いけど...」
モカに促され、サノスとアルスは席に着くが、あたりの散らかり様に苦笑いを浮かべていた。
「じゃあ早速状況を説明するわね!」
「あぁ、頼む。」
モカの説明が始まった。
「まず手紙で報告したように雨が降らないことによる水不足が深刻だわ。すでに乾燥に弱い葉野菜への影響が大きくなっているの。麦などの穀物はまだ貯水池でなんとかなっているけどもう持たないかもしれないわ。」
「なるほど、水の確保が最優先ということか。水の確保を急がねば、この国は食糧難になる可能性があるか。」
「今までこんなこと起きたことがなかったから農民もどうしていいかわからなくて何もできていない状況なの。このまま穀物まで失ってしまってはこの街自体が衰退してしまう可能性があるわ!」
サノスもモカも頭を悩ませる。その様子を見るアルスは何か良い手がないか必死に考えていると視界に農業都市カマ周辺の地図を見つけた。
「叔母様、この地図見てもいいですか?」
「えぇ、別に良いわよ。」
アルスは許可を取り、地図を見せてもらった。
農業都市カマの周辺の地図を見て気づいたことがあった。それは地球の農業が盛んな地域と違い、川が少なく、水路も整備されていなかったのだ。雨と貯水池に頼り切っていたこと、また耕作地の拡大により需要と供給が不釣り合いになっていたことが今回の事態を招いているとアルスは分析した。
地図に釘付けになりながら分析をしているとサノスが話しかけてきた。
「アルス、何かわかったのか?」
「はい、父様。地図を見て色々と分析をしてみたのですが...」
アルスはさっき地図を見て分析したことをサノスとモカに説明した。
「なるほど、そこまで分析しているとはすごいなアルス。」
「ほんと感心するわ!水路の未整備、耕作地の拡大に伴う需要と供給の問題に気づくなんて本当に鬼才だわ。」
サノスとモカはアルスの分析にとても驚いたが、モカは責任も感じていた。
「耕作地の拡大には私も深く関わっているから、そこに気づけなかった私に今回の責任はあるわね。」
モカはボソッと呟いた。
農業の研究者として、この街の代官としてこの様なことを見越して行動ができなかったこと、年下でまだ小さいアルスに問題点を分析されことに自分を恥じたからだ。
「モカ、そう落ち込むな。水路の整備などできていなかったことは領主である私の責任でもある。今は今後のことを考えよう。」
サノスはモカを励ました。
「アルス!先程の分析本当に素晴らしい。そこでアルスに聞きたい。今回のこの問題を解決するためにはどうすればいいか何か案はあるか?」
サノスはアルスに問う。
「はい!父様。ありますよ!」
「それはどうすればいいんだ!」
「”魔法”ですよ!!」
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