領地視察5
農業都市カマに来て2日目になった。昨夜は、モカの屋敷で泊まらせてもらった。
モカ一家は旦那のロムと生まれたばかりの娘モナの三人家族で屋敷は、サーナス家本邸に比べて小さかったが、かなり立派だった。
親族での楽しいひと時を過ごし、いよいよ水路整備が始まる。
アルスたち一行は、水路の始まりであるバーノア川に馬車でやってきた。現地にはカマ周辺に住む住民約5000人もの人が集まっていた。18キロに及ぶ水路を各箇所で同時進行で進めていく。各地に集まった住民は全体で2万人にのぼった。
「かなりの人が集まりましたね、父様。」
アルスはあまりの人の多さに圧倒された。
「あぁ、こんなに集まってくれるとは思わなかった。」
サノスも驚いていた。
水路の整備の重要さを皆理解しているのだろう。
重要さという点ではバーノア川を境に接する隣の領も同じだった。水路を整備すると連絡をしたところすぐに承知してくれた。マリアナ王国一の農業都市であるがゆえだ。
アルスは、これ程の人が集まれば早期の整備が可能だと思った。
「アルス、お前が挨拶をしろ。この案を思いついたのはお前だ。」
突然の抜擢にアルスはとても驚いた。いくら領主の息子で発案者であっても、まだ2歳だからだ。小さな子供が挨拶して、皆がどう思うか分からないからだ。
アルスは不安を抱えたまま挨拶をした。
住民たちは想像通り、子供が挨拶をすることに不安の表情を見せていた。
「えー、今日は皆さん集まって下さりありがとうございます。僕はサーナス侯爵の長男のアルスです。今回の水路整備の発案者でもあります。まずは皆さんに今回この様な事態になったことをお詫びします。」
水路が整備されていればこのようなことになっていなかった。こちらの認識の甘さをアルスはまず頭を下げて謝罪した。
この行動に住民はもちろんサノスやモカ、セシルも驚いた。
住民たちは息子とはいえ貴族が頭を下げて謝罪したことに驚き、サノスたちはこの行動に出たアルスに驚いていた。
これを機に空気は一変した。先程まで不安そうにしていた住民たちが明るい表情に変わったからだ。
「皆さん、話は聞いていると思いますが、土系統の魔法である掘削と硬質化の力をお借りしたいと思っています。もちろん給金はお支払いしますのでよろしくお願いします。」
アルスの挨拶が終わると歓声が上がる。どうやら住民たちにアルスの人柄が伝わったようだ。
「アルス、名演説だったな。」
「ほんとびっくりしたわ!本当に2歳なのかしら?」
「アルス様、とても立派でございました。」
戻ってくるとサノス、モカ、セシルにとても褒められた。
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挨拶がおわってすぐに作業が始まった。現場の指揮はモカの部下たちが行なってくれている。
魔力の多い人達が掘削の魔法を使い、貯水池を掘り、硬質化で石になって固められていく。まるで、地球で言うコンクリートで固められているようだ。
魔力の少ない人達は主に手作業で時々魔法も使いながら先の水路を掘っている。各々に合わせた形で、効率よく作業が進められた。
そして夕方になり今日の作業は終わった。
見たところかなり早いペースで進んでいる。
アルスはどのくらいかかるのか予測をしてみた。
今日の時点で、貯水池はすでに完成した。深さは約10メートルで横に長くできている。
そして水路だが、魔力の少ない人達だけで今日は2キロほど掘り進めることができた。
他の箇所の進度も報告を受け、全体で約12キロほど今日だけで完成した。残りは、約8キロと途中にもうひとつ作る貯水池、水門だけになっていた。
「あれ?もしかして明日で完成しちゃう?」
魔法の偉大さにアルスは驚かされるのであった。
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