農業都市カマ編
領地視察1
今日はサノスとサーナス侯爵領内の視察に出かけている。
サーナス侯爵領には領都スパムの北側と東側に平野が広がっていて、麦などの穀物や酪農を中心に農業が盛んな地域だ。
目的地はスパムから馬車で約7時間ほどかかる農業都市カマだ。人口は約5万人。サーナス侯爵領はもちろん、マリアナ王国の約3割の作物を生産しており、国からも重視されている。
アルスは、広大な平野に敷かれた石畳の街道を馬車に揺られながら、外を眺めていた。馬車の御者セシルさんが務め、数名の護衛もいる。
「父様、さすがに疲れますね。」
アルスは初めての馬車での長時間移動であり、なれない馬車に疲れを感じていた。
すでにスパムを出て、約6時間が過ぎていた。
「アルス、この位で音を上げてるようじゃ、貴族としての務めを果たす事はできないぞ。」
サノスは王都サルサに出向くことが多く、馬車の旅には慣れている。
サルサまではスパムから6日。
今回のような馬車旅などサノスにとってどうということはない。
アルスはサノスの言葉に少し肩を落とした。
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時は少し遡り、今日の早朝の事だ。
「アルス様、起きてください。旦那様がお呼びです!」
早朝、いつもより1時間ほど早くセシルに起こされた。
「急ぎ、出掛ける支度を!」
セシルに急かされ、アルスは急ぎ着替え馬車に乗り込んだ。視察は突然決まったのだ。
馬車に乗り込み30分程たった頃、アルスはまだ何も聞かされていなかったため、視察目的をサノスに聞いた。
「父様、今回の視察目的は一体何なのですか。僕も突然ついてこいと言われて困惑しているのですが...」
そう言うとサノスは深刻な顔で話してくれた。
「水不足...だ...」
「水不足、雨が降っていないということですか?」
「そうだ、雨が全く降っていないらしい。」
サノスは状況を教えてくれた。
農業都市カマを中心としたこの地域は、温暖で適度に雨が降る作物を育てるのに適したマリアナ王国一の耕作地だ。
しかし、ここ1ヶ月雨が全く降っていないという。
「確かに、スパムでもあまり降っていなかったですね。」
アルスはここ最近の気象状況を思い返してみた。
「ここ1ヶ月、普段あまり雨の降らない西側を中心に雨が降っていて、気象が逆転してしまっている。今回の事態を国はかなり危惧しているんだ。なぜならカマで作物が取れなくなれば、国民が飢えてしまうことになるからね。急ぎ向かっているのだ。」
なるほど。アルスは状況を理解した。しかし1つ疑問が生まれた。なぜ今回、自分がこの視察に同行しているかだ。
「父様、なぜ今回僕がこの視察に同行することになったのでしょうか?」
とアルスが聞くと、
「セシルの推薦だよ。」
そう言うと馬車の小窓から御者のセシルの笑顔が見えた。
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