精査
外務庁への立ち入り調査の次の日、アルスは法務庁の大臣室にいた。
サノスと昨日集めた書類の精査を行なっている。
「アルス何かわかったか?」
「いえ、特に何も。」
アルス達が今見ている書類は他国への訪問記録報告書だ。
訪問記録報告書には訪れた国、訪問費用、贈答品などが書かれている。
外務庁からの報告によれば、訪問回数の増加により費用が大きくなっていると報告を受けていた。
確かに訪問回数は増えていた。その点に怪しいところはなかった。
しかし、訪問回数の増加にしては費用がかかりすぎている。
アルスは昨年の報告書と見比べて変化がないか今一度調べてみた。
すると1回の訪問に対する贈答品が今年だけ増えていた。
「父様、贈答品の数が増えているようですね。」
「贈答品か、なぜ増やしたんだ?」
サノスも不思議に思った。
「贈ったものはリストとして書かれているので分かりますが、費用は訪問費用と一括記載されているのでこの報告書では分かりませんね。」
贈答品は訪問記録報告書に訪問費用に含まれて記載されるため、いくら掛かったのか分からない。
「贈答品は一体何を贈ったんだ?」
「リストを今までのものと比較すると例年贈っている絵画や伝統工芸品に加えて彫刻品が増えているようです。」
「なるほど、まずは彫刻品の費用を調べる必要があるか。」
そう言うとサノスは束になったの報告書を手に取り読み始める。
その報告書は外務庁が1年間どこの業者と取引をしたか書かれている取引記録報告書だ。
サノスが報告書を調べた結果、複数の彫刻品を一度に購入した取引記録が一件残されていた。
「確かに残されてるな。しかし金額がかなり大きい。一度に白金貨50枚だ。」
「白金貨50枚!!」
アルスは驚いた。白金貨50枚つまり5000万円もの取引をしているからだ。
「書類上は問題がないが、あまりにも不自然だ。こんなに金額をかけるはずがないし、彫刻品自体そんなにかかるものでもないんだ。」
怪しさがますます増していく。
「怪しさはありますが、記録がしっかりと残っています。どうすれば...」
「確かにな。リーベル外務大臣のあの自信はこの報告書によるものだと思う。報告書に問題がなければこれ以上踏み込むことが出来ない。」
アルスとサノスは手詰まり感を感じた。
(何か他にないのか...)
アルスはもう一度取引記録報告書を見た。
「彫刻品、白金貨50枚、ユース商会か...ユ、ユース商会!?」
ユース商会の名にアルスは驚く。
「ユース商会がどうしたのだ?ユース商会程の商会なら取引していても不思議ではないだろう。」
サノスの言う通りだ。ユース商会は王国一の商会だ。取引していても不思議ではない。
だが、アルスここでこの報告書の問題点に気付いた。
この報告書はあくまで外務庁が自ら作る報告書である。つまり本当の事が書いてあるとは限らないと考えることも出来ると考えた。
こういう考えに至ったのはサノスが指摘した金額の大きさだ。やはりあまりにも不自然だ。
アルスはこの考えをサノスに伝えた。
「父様、ユース商会に行きましょう。ユース商会にも記録が残ってるはずです。」
「なるほど、やはりアルスをこの調査隊に入れて正解だったな。早速ユース商会に行こう。」
アルスとサノスはユース商会へと向かった。
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王都サルサにはユース商会の本部がある。本部は商業エリアと呼ばれる南エリアにある。
アルスとサノスはユース商会本部に馬車を走らせた。
法務庁からユース商会本部までは馬車で20分ほどの距離だ。近付くにつれて本部の建物が馬車から見えてくる。本部はメインストリートに面した好立地で6階建ての石造りだ。この商業エリアで1番の建物と言っていいだろう。
到着しアルスとサノスは馬車を降り、ユース商会本部に入る。
中に入ると、ユース商会の会長シリルがエントランスホールで待っていた。どうやら先に法務庁の職員が向かってくれていたみたいだ。
「サーナス法務大臣、アルス様ご無沙汰しております。」
「あぁ、久しぶりです。そう言えばアルスと面識があるんでしたな。」
「はい、焼きそばの件では色々とお世話になりました。服屋の方も取引をさせていただきますし。」
シリルは嬉しそうに話す。
「まぁ楽しい話は問題が解決してからにしよう。今日はシリル殿にお願いがあって参った。」
「聞いております。外務庁との取引についてですね。書類は準備できております。」
そう言うとシリルは応接室に案内してくれた。ソファーに座るとシリルは外務庁との取引記録をサノスに見せる。
「こちらになります。」
サノスは取引記録を隅々まで見る。
「やはりな...アルス見てみろ。」
サノスに見るように言われ取引記録を見る。
「こ、これは...」
取引記録には外務庁が作成した取引記録報告書とは全く違う金額が記されていた。
彫刻品 白金貨5枚 外務庁
実際の取引は白金貨5枚。つまり500万円。
外務庁が虚偽記載をしていることが分かった。
「アルスの想像通りだ。やはりお前はすごい。」
サノスはアルスの優秀さを改めて感じた。
「シリル殿、この記録を一時的にお借りすることはできるか?」
「あの、その前に外務庁との取引に何かあったのでしょうか?」
シリルは今回の件について何も知らない。法務庁の要請に従い、取引記録を見せているだけだ。
「今は詳しいことは言えないが、解決したら改めて礼に伺う。今は言えぬことを許してほしい。」
サノスはシリルに今は待つようにお願いをした。
「わかりました、サーナス法務大臣を信じます。」
こうして対抗できる資料を入手することができ、明日再び外務庁に乗り込むことになった。
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