5章

第105話 会議

デルハド帝国


四つの国、ローグラント、バザドフル、ニーレ、モルドに囲まれた国家。




今そこに森人族、魔人族を除く、主だった人種族の大国の王や代表達が集まっていた。


全ては人種族の滅亡、この世界の滅亡を阻止するために。




人族の代表として、ローグラント王国、国王代理、レイン・イオルス・ローグラント




鬼人族の代表として、鬼人国、ヤエの国の現盟主ウスズミ・サクヤの父にして元盟主、ウスズミ・ザンカ




獣人族の代表として、獣人国、ニーレの獣王、ゾルフ・タイ・ニーレ




鉱人族の代表として、鉱人国、岩窟国家バザドフルのリーダー、ガブン・フォン




竜人族の代表として、竜人国、モルド連合国の女王、シズリ・ワリシャス・モルド






そして、開催国としてデルハド帝国、ピール皇帝が会議の音頭を取る。






「お忙しい中、集まって貰い感謝する、各国の王、代表らよ。今回は目先に迫った未曾有の危機について議論したい。レイン殿、シズリ殿、詳細をどうぞ」




「ああ、まずは俺とシズリ女王から報告したい。俺達は今回の魔人族との戦争で【硬軟】の魔人、【紫毒】の魔人、【隷属】の魔人と戦った。その内、【隷属】の魔人はここに居るシズリ女王が討ち取った」




レインの発言に獣王ゾルフが驚いたように声を上げる。




「すげえじゃねえか。なんでガキが居るんだと思っていたが、大したもんだ」




言葉は褒めているが、彼のギラギラしたダークブルーの瞳は値踏みするようにシズリを捉えていた。


その目を見返してシズリは一切怯まず、口を開く。




「賞賛には礼を言うが、年は関係ない。この会議に出席している以上、この世界のために戦う覚悟がある。私が幼いという理由で侮らないで貰いたい、ゾルフ殿」




シズリの発言を聞いていたゾルフは堪えきれなくなったのか、唇を吊り上げて笑った。




「一体どんな修羅場を潜ればそうなるんだか..申し訳ない、シズリ殿。俺の目が曇っていたようだ。どうやらこの会議に王じゃない奴はいないらしい」




獣王はシズリに頭を下げ、彼女も受け入れる。


レインはそれを確認して会議を続ける。




「それでは..【硬軟】の魔人、【紫毒】の魔人には勝利し、捕らえる事に成功したが、直後に現れた【転移】の魔人によって逃亡をゆるした。だが、捕らえている間にいくつか情報を聞き出せた。既に各国に伝えてあるが、確認のため読み上げさせてもらう」




レインは手元の資料をめくり魔人から聞き出した情報を述べていく。






この世界に上空から巨大な石、通称"隕石"が落ちてくること、




魔人族は自らの種族を生き残らせるために【創造神】を目覚めさせようとしている事、




神を目覚めさせるためには生物を減らす必要があり、今回の戦争はそのためのものであった事、




そしてもう一つ、神を目覚めさせる方法があり、それは【創造】の魔人ヨルア・フロイライトが神と繋がる事、






「一応、補足するが、学者達で上空を調べた所、南西の空に接近してくる隕石が確認された。速度もある程度計算できており、それによると..おおよそ一年以内には衝突する。大きさも魔人が語ったぐらいにはあるとのことだ」




レインの補足にも各国の代表は動じるような事はない。


皆、国を背負っているのだから滅ぶと言われて納得するようなことはない。




「現状、必要なのはその隕石とやらを破壊する術と、到達する手段じゃの。持ち寄れるものは全て持ち寄らんといかん。情報、資源、兵器、人材、全てな」




白髪の顎髭を撫でながらザンカが告げる。




「魔人への対処も必要だな。ヨルアという少女の身柄もどうしたもんか..」




バザドフルのリーダー、ガブンが、刈り上げた頭を撫でながら呟く。


そんな彼にゾルフが尋ねた。




「何か有力なもんはねえか?例えば地下からの古代兵器とか」


「んな都合の良いもんはない。最近、見つかったのはデカい魔封石くらいだ」




「魔封石?」




シズリが聞くとガブンが答えた。




「手枷とかに加工される石でな。触ってると魔力を吸われるんだ。見つかったのは特大サイズだが、役には立たねぇだろ?」




ガブンにそう言われるが、シズリは少し考えて、口を開いた。




「..みんなの魔力をその石に溜めて、隕石にぶつけるとかどうだ?魔力は強力なエネルギーだ。世界中で集めれば相当な破壊力になるはず」




シズリの案に各国代表の顔色が変わる。


皆、思案するような顔になった。




「良い案かもしれんが、デカ過ぎる。高さだけでも十人分くらいはあるんだ。持ち運べるかすら怪しい、まして上空に飛ばすなんて..」




「駄目元でもやるしかあるまい。何もせんよりはましじゃ」




ザンカはそう言い、シズリの案を支持した。ガブンも難しい顔をするが彼女の案に乗る。




ただ、ゾルフは賛成も否定もせず、じっとしていた。


何かを考えているようだ。




「ゾルフ殿?貴殿は如何か?」




レインが声をかけると、ゾルフは顔を向ける。


そして、一つの提案をした。




「なぁ..いっそのこと、こっちでその【創造神】とやらを目覚めさせてはどうだ?救いがあるかは知らんが、鍵になる少女はこちらにあるんだ。やっちまうのも一つの手だと思うぜ」




その提案にシズリとレインがいち早く反応した。




「駄目だ、ヨルアにどんな負担がかかるか分からない。彼女は魔人族かもしれないが、この戦いでは一緒に戦ってきた戦友だ。犠牲になるような真似はさせられない」




「シズリのは感情論が混じってるが、現実問題としてヨルア自身にも目覚めさせ方が分かっていない。彼女は角を失っているし、下手な事をすれば取り返しのつかない事態もあり得る。触れないのが一番だ」




二人とも早口で捲し立てる。


その様子にゾルフが苦笑いを浮かべた。




「分かった、分かった..もう言わねぇ。だがよ、もう少しその【創造神】とやらの方面も探っていいんじゃねぇか?神に全ての命運を託す気はないが、知っておくくらいは良いだろ?」




その意見も一理あると思ったのか、この中で一番高齢のザンカが口を開いた。




「ならば、知識を借りるしかあるまい。アルクスの森人族にな」




そして、この会議に居ない最後の人種族、森人族もりびとぞくの名前を出した。

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