第160話 祝福
灰色の髪の少年と少女が、手を繋いで部屋の窓から夜空を見上げている。
二人の目に映っているのは、空に浮かぶ満点の月だ。
「きれい...」
少女の方が呟くと少年の方も頷いた。
暫く二人はその輝きに見惚れていたが、やがて彼らに声が掛けられた。
「クロア、スミア、どうかしましたか?窓の外に何か...」
白い髪の優しげな顔立ちをした女性、ヨルアが子供達の名前を呼ぶ。
彼らはその声に振り返ると口々に叫んだ。
「おかーさんもみて!おつきさまとってもきれい!」
「めっちゃ良いぞ...!」
子供達はヨルアの両手を引っ張り、窓まで連れてくると月を見せた。
「ふふっ、本当ですね。お父さんにも見せてあげましょう。二人とも呼びに行ってくれますか?」
「うん!!」
「任された...!」
子供たちは元気に答え、二階に駆け上がっていく。すると直ぐに上から騒ぐ声が聞こえてきた。
ヨルアはその声に微笑むと窓際に身を寄せ、改めて月を眺める。
(あの子たちの言った通り、綺麗ですね...)
ヨルアは、月を眺めながらふとこれまでの事を思い出す。
あの戦いから既に十年。
各地の傷痕は少しずつ癒え、世界は新しい道を探して歩んでいる。
勿論、良かった事だけではない。
色んな問題は、まだまだ山のようにあって、一つ解決してもまた次の問題に追われていく。
そんな事の繰り返し...失って、無くして、取り返しもつかなくて。
でも...
(それでも、新しく生まれてくるものだってある)
そして、誰もが譲れないものを抱えて生きていくんだ。
それはなによりも光り輝くもの。
生まれた命が歩む道を照らしてくれる道しるべ。
「スミア、危ないから抱っこで我慢してね」
「えぇー!やだやだ!かたにのりたい!」
「それで頭ぶつけてお母さんに怒られたでしょ?また痛い痛いになるよ?」
「うぅ...おとーさんのケチ...ごーじょうもの..じぶんかって..」
「ちょ、ちょっと待って...一体どこでそんな言葉を覚えてきたの?」
「シズリねーちゃんがいってたよ?」
「あの子は...ところでクロアは何してるの?」
「探険...」
「...僕の服の中には何にもないよ?」
「そんな事ない。お父さん、良い筋肉。腹筋バキバキ...こんな筋肉が欲しい」
「ありがとう。でもこんな小さな内から筋肉に憧れられても反応に困るなぁ...」
賑やかな声がして三人が階段を下りてくる。
スミアは元気一杯でやんちゃな女の子、クロアは大人びていて表情があんまり変わらない男の子。
私達の間に出来た可愛い子供達。
「あっ、おかーさん、連れて来たよ」
「戻った...!」
不満げな表情で抱っこされたスミアと、なぜか父親の服の中に潜り込んでいるクロアが私に呼びかける。
そして、
「ヨルア、見せたいものって?」
私の大事な人が名前を呼んでくれた。
「スミヒト...こっちへ」
私は、微笑んで彼の名前を呼ぶと窓の方へと案内する。
そこから四人で夜空に浮かぶ月を眺めていたが突然、スミアが大きな声で言った。
「おとーさん!あそこには「神様」が居るって本当!?」
娘のその質問に彼は笑って答える。
「そうだよ。
「会ってみたい...!」
クロアが襟から顔を出して訴える。
そんな息子に対して私は言った。
「いつか会えるかもしれません。あの輝きに負けないよう私達が輝いていけば或いは...」
「...?」
よく分かってなさげなクロアが首を傾げる。
私は息子の頭を撫でて続けた。
「胸を張って、生きたと言えるように頑張るってことですよ」
「!!...うん!頑張る!」
あまり変わらないクロアの表情が何かを決意したかのように変わった。
その瞬間、月光がより一層世界を照らし出す。
「綺麗だね」
スミヒトが私に呟く。
「ええ、本当に...」
私は彼と子供達に寄り添い、月を見上げながら応える。
輝く月は優しくこの世界を照らし出し、まるであらん限りの祝福を注いでくれているかのようだった。
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