第155話 墓前にて

「ヨルギス王...あなたも来ていたのか」




私の言葉にヨルギスは頷き、口を開いた。




「実はレイン王に皆を集めて貰えないか頼んだのは私なのだ。そのヨルアの事でな...」




彼に言われて私は内心やっぱりと思った。


食事中も態度が変だったし、おそらく先ほどこの家から出ていったのもヨルアだ。




レインやカグラがここに居るあたり彼女の身に直接危険が迫っている訳ではないのだろうが。




「本来なら父である私が何とかするべきなのだが、今のヨルアにどんな事をしてやればいいのか思いつかず...迷惑を掛けて申し訳ない...」




ヨルギスは頭を下げてくる。


それに首を横に振って答えた。




「構わない。ヨルアは私の大切な人だ。彼女が大変なら...というか今のヨルアはそんなにヤバい状態なのか?表面上はなんともなさそうだが...」




私が尋ねるとヨルギスは難しい顔をして伝えずらそうにした。


代わりにレリアナが答えてくれる。




「ええとね...さっき家から出ていった音聞こえた?」




「ああ、聞こえた。ヨルアだな?」




彼女は頷いて肯定する。




「あの子ね、夜になったら必ずお墓に行くの」




「墓?」




「そう、リーダーと...クロガネのお墓。そこで祈ってるの...毎日...一日中...」




「一日中だと...!?」




「うん...最初はこんなに酷くなかったんだけど、だんだん時間が伸びていって...私やキース、ヨルギスさんが声を掛けても「大丈夫ですから」って言って全然止めてくれなくて...」




「それでヨルギス殿から俺に連絡がきたんだ。仲間達を集めれば一時でもヨルアの気を引けないかと。彼自身が集めるのは、色々とな...」




「...」




「なるほど...」




先の戦いでの魔人族の行いは、看過できるものではない。


どの国も国交を結び歩みよろうとはしてるが、やった事を考えると簡単にはいってない。




ヨルアもこちら側で協力してくれたとは言え、魔人族だ。




それを考えると魔人の王であるヨルギスが鬼人族の盟主であるサクヤや鉱人族の英雄のククルガンを娘の為に呼びつけるのは難しかったのだろう。




「あれ...?ちょっと待て。私、呼ばれてすらいないぞ」




「忙し過ぎて無理だと思った。自国の事で精一杯のお前にヨルアの事まで任せるのは酷だしな。...だが結局、丁度良く来てしまう当たり、クロガネが居ない今、お前に任せるのが良いのかもな」




クロガネ




その名前が出るとザバ以外の顔が沈んだ。


彼女が祈る理由は彼が帰ってくる事を願っているからに違いないからだ。




そしてそれは、おそらく叶わない。




一年だ。


この星を一年探して手掛かり一つないのだ。




彼はもう...




もしかしたらヨルアはそれが分かっているからこんな事をしているのかもしれない。






少しでも彼に近づく為に。






「シズリ...?」




レリアナから渡された防寒着を羽織って、扉へと向かう。




結局、彼女の心なんて彼女にしか分からない。


だから聞くしかない。




「ヨルアと話してくるよ。彼女が何を考えているのか知りたいから」




私はそう言って扉を開け、外へと出た。


夜の街は肌寒く、通りは昼間が嘘のように静まり帰っていた。


その道を進んでバーレンにある墓地へ向かう。




私は歩きながらこれまでの出来事を思い出していた。




やがて、墓地が見えてくる。




月明かりがそこで祈りを捧げている白い女性を照らし出す。




「ヨルア...」




「...」




私が呼びかけると彼女は、涙を拭ってゆっくりと振りかえった。

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