第154話 呼び出し

バーレンの中は、以前と変わらず人々の活気で賑わっていた。


変わらない暮らしがそこにはあった。




大通りを抜け、グレイル達と暮らしていた家へと向かう。


入るとレリアナとキースが居て、テーブルに料理を並べていた。




「シズリ!」




私に気づいたレリアナが駆け寄ってきて抱き締めてくる。


それに抱き締め返して言った。




「久しぶり、レリアナ。変わりなくてなによりだ」




「シズリはちょっと背が伸びたかしら?なんにせよ、あなたも元気そうで良かったわ」




レリアナが私から手を離す。


次は、キースが手を差し出してきた。




「会えて嬉しい、シズリ」




「私もだ、キース。突然、増えて申し訳ないが」




差し出された手をしっかりと握り返して言う。


するとキースは寡黙な彼にしては珍しく微笑んで返した。




「大丈夫だ。いっぱい作ってたからな」




そう言って背後のテーブルを指差す。


並べられた料理は、どれもお店で出されるぐらい綺麗に盛り付けられていて、力が入っている事が一目で分かる。




「そら、早くご馳走になろうぜ。良い酒もたっぷり持ってきたんだ」




ククルガンが部屋においてあった紙袋からビンを取り出して見せる。


それにカグラが一番に反応した。




「これは名酒ばかりじゃないか...!良くこんな...」




「復興協力の礼品だ。な、セリル」




「割れないように頑張って運んだんだ...!」




ククルガンとセリルが満足気に胸を張るがカルミラはそれに渋い顔をした。




「それはいいけど、早く飲みたいからって急ぎ過ぎでしょ。モニカちゃん、後半バテてたし」




「兄さん達についてくの大変だったなぁ...兄さんほど早くないのになぁ...私...」




死んだ目をしたモニカが遠くを見つめて呟く。




「ごめんなさい...」




「すまねぇ...モニカ」




彼女の様子にセリル達が急いで謝る。


それにレインが苦笑いを浮かべて言った。




「...まぁ酒も料理もあるんだ。早速始めよう」




彼の言葉に各々席について、料理に手をつけ始める。


どれも温かくて、美味しい。




特に、ハンバーグ。


キースが作ってくれたこのハンバーグは絶品だった。




ここまで来た疲れもあって、お腹が空いていたのかあっという間に食べきってしまう。


そんな私にヨルアが自分のお皿を渡してきた。




「シズリさん、良かったら私のをどうぞ」




「えっ?い、いや...悪いだろ...」




「良いんですよ。沢山食べていって下さいね」




「あっ...」




ニコニコしながら彼女は空いた皿を下げて、自分のハンバーグが乗った皿を置いた。


全然手がつけられていない。




というかよく見るとヨルアは全く料理を食べていない。




誰かのお話を聞いて微笑んでるだけだ。




(ヨルア...?)




彼女の態度に違和感というより不安を感じる。


レインをチラリと見ると彼も渋い顔をしてヨルアを見ていた。




もしかしたら思ったより事態は深刻なのかもしれない。




レインは一体何を話すつもりなのだろうか?




◆◆◆




会食は盛り上がったが、お酒を大量に飲んだククルガンとセリルが途中でぶっ倒れたのでお開きとなった。


彼らはモニカとカルミラに引き摺られて宿屋へ戻っている。




レインとサクヤ、カグラは伯爵邸に滞在しているみたいだ。


そして私はこの家に居た頃使っていた部屋で休んでいた。




時刻は既に深夜だが寝間着には着替えていない。


ベッドに腰掛け、いつでも呼び出されて良いように準備している。




(さて...どうなるか...)




待っていると、近くの部屋の扉が閉まる音がした。


足音も聞こえてくる。




(来たか...!)




そう思って身構える。


だが足音は私の部屋を通り過ぎ、階段を降りていった。




(違うのか...)




訝しんでいると少し経ってからドアがノックされた。




「シズリ...起きてる?」




小声でレリアナが呼びかけてくる。




「ああ、起きてるよ」




「良かった、入るわね」




彼女はそっと扉を開け、部屋に入ってきた。


手には防寒着を持っている。




「陛下は事情言ってたかしら?」




「夜は起きててくれとは言われたよ」




「十分よ。これを持って下に来て」




レリアナが防寒着を手渡してきたのでそれを受け取り部屋から出る。


階段下に降りるとレインとカグラ、それと亜麻色の角を生やした魔人ザバがいた。




さらにそのザバが守る様に寄り添う人物が一人。


白い角に白い髪の男性で、顔立ちはヨルアに似ている。




当たり前だ、彼はヨルアの父なのだから。




私はその人物の名前を呼んだ。




「ヨルギス王...」




「夜分に失礼する、シズリ女王。あなたも来てくれて良かった」

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