第157話 セストリア
――暗い。
――冷たい。
――僕は死んだのか?
「違う!目を瞑らないで!あの子はあなたを待ってる!帰らなきゃ!」
――誰かの声がする。
――そうだ、帰らないと...彼女の元へ...
――ヨルア...
《セストリア様、このままでは彼が持ちません。損傷箇所が多すぎます》
「そんな事分かっています!イグナルはこの子を結晶の中へ!そこで時間を掛かけて肉体を...」
――駄目だ。
――目の前が暗くなる。
僕の意識はそこで途切れた。
◆
次に感じたのは、浮遊感だった。
水の中に居るような、そんな感覚。
(ここは...?)
視界がボヤけて上手く見えない。
声を出そうとしてもボコボコと空気しか出てこない。
手を動かそうと試みるがゆっくりとしか動かない。
それでも唯一自由になる手を懸命に伸ばしてみる。
すると指先が硬い何かに触れた。それは指で押してみてもビクともしない。
暫くそれを押したり撫でたりしているとバキッという音がして触れていた箇所がヒビ割れていく。
さらにそのヒビ割れは止まらずどんどん大きくなり遂には、砕けた。
途端、浮遊感はなくなり僕を覆っていた液体と共に一気に外へと放り出される。
「うあっ...はぁ...!」
まるで生まれて始めて息をしたかのように外の空気が熱い。
僕は深く呼吸をしてなんとかそれに慣れようとした。
《セストリア様。クロガネが目覚めました》
僕が呼吸をしているとそんな声が聞こえる。
するとすぐにバタバタと忙しい足音がして誰かが倒れている僕を抱き上げ、身体を暖かいタオルで拭いてくれた。その人は拭きながらこんな事を聞いてくる
「大丈夫ですか?自分が誰か分かりますか?」
自分?
鈍い頭を働かせて考える。
僕は...
「ぼ...くは、黒鉄...墨人...」
そう答えると拭いてくれていた人は、ホッとしたように息を吐き、優しく僕を抱き締めた。
「そうです...あなたはクロガネ・スミヒト...良かった...戻ってきてくれて...」
だんだんと視界もはっきりしてくる。
目に映るのは、僕を抱き締めてくれている人の鮮やかな銀髪だ。
それがあまりに似ていて思わず口走ってしまう。
「ヨ、ヨル...ア?」
「いえ、私は...」
彼女は抱き締めている手を離し僕に自分の顔を見せた。
見る者の目に残る、輝く長い銀色の髪。
ヨルアをもっと大人っぽくしたような優しい顔立ち。
この人...いや、この神様は、
「セストリア様...?」
僕が問いかけると彼女は頷いた。
「はい。私がセストリアです。ようやく会えましたね、クロガネ」
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