第8話 助ける理由

困ったことに助けた人たちの傷が思ったよりも深い。


治療手段がない現状、このままだと死んでしまう。




「取り敢えずこのままだと彼らが死んでしまう」




隠してもしょうがないので白い娘にはっきりと伝える。


このままだと仲間は助からないと。




「そ、そんな..お金なら払います!お願いします!」




「いや、お金の問題じゃなくて、僕じゃ彼らの傷を治せない」




「そんな..」




「むしろ君が使える回復魔法とやらは本当に効かないの?」




「私は攻撃魔法が専門でして..小さい切り傷とかなら治せますが、こういう大きい傷を治せるのはキースさんなんです..」




そう言って頭から血を流している男性を見る。緑色のローブを着た男性だ。




「キースって言うんだね。彼の意識が戻らないとどうにもならないか..」




つまり治せる人が死にかけてるのか。




詰んだか?




「あとはバーレンの神官様でしょうか?」




「それは何処のだれなの?」




「えっと、この大樹海から一番近い都市の神官様です。私たちはそこから来ました。」




なんだ。


あるじゃないか。助かる方法が。




「その町までどれくらいかかる?」




「大体、三日ぐらいでしょうか」




「なるほど三日ね。ちなみにそれは歩いてだよね?」




「えっ?はい、そうですけど..」




歩いて三日か。




ならば僕が走って運んだらどうだろう?


今日中に辿りつけないか?




だがこの樹海の生物をまだほとんど知らない。


もしかしたら僕が勝てない生物がいてもおかしくない。




(やっぱり難しいか。どうする..?)




そんな風に悩んでいると火傷の男性が意識を取り戻した。




「グレイルさん!」




「よぉ、助けられる夢を見ちまった..」




「夢じゃないです!みんな助けられたんです。この人に」




「マジかよ..へへ、まだ神様は俺たちを見捨ててなかったか。キースとレリアナはどうした?」




「二人とも殴られた時から意識が戻りません..私じゃどうにも..」




「そうか..」




そう言って僕を見る。




「どなたか存じ上げないが助けてくれてありがとう」




「お礼にはまだ早いよ。このままだと意識のない二人は死ぬ。ここじゃまともに治療できないから」




「そうか..」




グレイルと呼ばれた男性はそのまま悩んでいるようだがいい答えは出せないようだ。


このままだと時間が勿体ないので僕の考えを話す。




「だから提案なんだけど僕がバーレンって都市まで君たちを運ぶよ」




「なんだと?」




「この森を走り抜ける」




二人が僕の提案に驚いたような顔になる。




「待ってくれ。怪我人を抱えて走る?恩人だが気は確かか?」




「うん」




「じゃあハッキリ言うぞ。それは無理だ。」




険しい表情で言ってくる。




「この樹海には道もなければ、魔物だっているんだ。無傷の奴だって生きて帰れる保証がない。              それを怪我人抱えて走るって?」       




「それ以外に君たちを助ける方法が思いつかないんだ」




「いや、あるぞ。俺たちをここに置いてバーレンまで行ってくれ。そしてできれば救助を頼む」




白い娘がその言葉に反応する。




「グレイルさん?!何言ってるんですか。こんな場所に置いていったらそれこそ死んでしまいますよ!」




「それが一番現実的だろ。この二人は絶対に俺が守り抜いてやるぜ。だから早く行ってくれ」




「でも..」




そう言って二人で話し合いを始めてしまう。






確かに彼の言うことが現実的だ。




僕が彼女を連れて森を出る。そして助けを呼ぶ。


結構じゃないか。彼らが助かるかは運次第だが。




だというのに




なんでこんなにイライラするんだろう。




そして気づいた。




(そうか。僕は諦めようとしているんだ)




病院のベッドで自分の命を諦めたあの頃のように。




彼らの命を諦めようとしている。






駄目だ。




彼らが死ぬ可能性なんて認められない。




諦めるのは前世でさんざんやったんだ。




だから二度目の人生を




諦めから始めて堪るもんか。








「絶対に置いていかないよ。都市まで全員を運んでみせる」




そう告げると二人こちらを見る。




「言いたいことは分かってる。でも置いてったら死ぬんでしょ?」




「それは..」




「僕は君たちを助けたい。頼む、僕にその機会をくれ」




かなり納得できていないよう様子だが白い娘から助け舟が来た。




「私からもお願いします。無茶なのは分かっています。でもこの人がいなきゃ今頃みんなゴブリンに殺されてました。わざわざ助けてくれたんです、この人ならなんとかしてくれるかもしれない。私は諦めたくない、可能性があるなら賭けたいんです!」




白い娘からも説得が入る。そしてようやく根負けといった様子で頷いた。




「..分かった。よろしく頼む」




「うん、任せて」




話しは纏まった。


あとは準備だ。

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