第21話:開戦


「皆、配置についたな!?」


トランシーバーからキュウさんの声が響く。


新百合ヶ浜しんゆりがはま駅班オッケーよ!』

大田原おおだわら駅班準備完了』

湘北台しょうほくだい駅いけるっスよ!』


国家調査員の各チームから返事が返ってくる。


今回の蟹名かにな駅襲撃に対して、集まってくれたメンバーだ。


敵の罠である可能性もある以上、各地から集中しすぎるわけにもいかず、比較的近場でチームアップしたのだった。


それでも、今回は何が起こるか分からない。援軍は非常に心強い。


「おっしゃ! みんな、ヤバくなったら、すぐに緊急アラートを鳴らすことを忘れないでくれ! そうすりゃゴートが飛んでく!」


『あら、心強いわね!』

『ま、出来るだけは自分らでやるさ』

『あ! 俺達はすぐ鳴らしますからね! ゴートさん頼むッスよ!』


流石は色んな意味で曲者揃いの国家調査員達だ。既にやや癖が出ている…。


だが…みんな実力者には違いない。


「みなさん、まずは蟹名駅周辺からです。目の前は俺と蟹名駅班が守ります。そこで奴らを打倒せば、それでいいんです」


そう、奴らは駅からしか出てこれないはず。

まずは、そこさえ抑えれば不意をつかれることはないはずだ。


無線で最後の打ち合わせを済ませて、俺とキュウさんとコウちゃんの三人は駅の前のベンチに座る。


辺りはやや日が落ちてきたころ、帰宅途中の会社員や学校帰りの学生などが忙しなく動いている。



「ふー。とりあえず擦り合わせはこんなもんかな。このまま何も起きなきゃ、それが一番だが…」


「そうですね。でも、もし本当に奴らが来るなら初動が一番大事になります。警戒しましょう」


何故、初動が大事になるか?



それは、俺達が武器を持っていないからだ。

ダンジョンで手に入れた武器はこっちの世界にまで持ってこれない(逆は可能)。

もちろん、策は考えてあるが、それでも最初はかなり厳しくなるかもしれない。


「そう…だね…。でもゴートくん、絶対に無理しちゃ駄目だよ…!」


「うん…気を付けるよ…ありがとう、コウちゃん」


「随分と余裕だな?」



え? 俺が振り返るとそこには。


黒いツナギ姿の男がいた。


こいつはミナツチさんの記憶の映像の中にいた…『レイン』!?



「『迷宮連結クロスダンジョン-∞インバースインフィニティ』」



男がその言葉を唱えた瞬間、辺りの雰囲気が突如変化した。



ジリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!!と辺りにけたましい音が鳴り響く、鳴り響く。


ただただ、ひたすらに鳴り響く。


そして…俺の身体に力が漲る。


これは…スキルが扱えるようになっている…? ということはまさか。



もう、ダンジョンになってしまったのか!?



だったら!! 俺は右手に魔力を籠めてレインに…。


「え? いない…?」



まるで最初から存在していなかったかのようにレインは消えていた。


あらゆる探知スキルをかけても、捉えることが出来ない。



「おい! ゴート! あれ見ろ!」



駅から…黒いドラゴンに小鬼…スライム…妖怪…亡霊…ありとあらゆる黒い化け物が湧き出てきている…。


なんだこれは!? うわあああああ!! きゃあああああああ!!


あちこちから悲鳴が聞こえてくる。


「ゴートくん…これは…まずい…!」



「ああ! やらせはしないよっ! 解放っ!!」


俺は黒い定期入れに自分の定期券と黒い定期入れの両方を入れて、閉じる。


黒い炎が身を包み、次第に炎は黒いローブに形を為していく。


そして、黒炎の中から出てきた鎌を右手で掴む。


「キュウさん! コウちゃん! 出鼻を挫かれましたが、俺が挽回します! 二人は作戦通りに!」


「おう!」「任せて…!」


「こちら蟹名駅班! もうダンジョンになっちまったみたいだ! 各班! 手筈通りに!」



『了解ッ!!!』





そうして俺は怪物の群れに突っ込む。


「うおおおおおおおおっ!!」


鎌に黒炎を纏わせて、大きく辺りを薙ぐ。


黒い怪物達の魂を刈り取るように、あるいは黒炎で浄化するかの如き斬撃が、黒炎が、走る。


だが…怪物達の数が多い、どれだけ斬ろうが、いくらでも湧いてくる。


これが-∞に呑まれるってことなのか…!?


終わりが見えない…!


いや…俺の定期券は無限の可能性がある! 負けてたまるかっ!



「まずは、市民の安全からだ…!」



黒い定期入れから黒フードことクライスの定期券を抜く。


そして次に、黒陣羽織こと、ミナツチさんの定期券に入れ替えた。


瞬間、黒い陣羽織がふわっと肩にかかる。


そして空間を切り裂いて、黒い刀が出現した。


「ミナツチさんの『心眼』スキルなら…!」


心を落ち着かせて辺りの気を感じ取る…。


分かる…安全を求める人々の姿が視えるぞ…。



ダンジョン内全域に広がる『心眼』で、全ての人々の姿を見つけ出す。


更に『数学者』スキルで座標を割り出して…『操縦士パイロット』・『砲撃手』・『狙撃手』でロックオン…!



「『多重多層魔法壁マルチ・レイヤード・シールド!!』」



多層の魔法壁が人々、一人ひとりの身体を包み込む!


これなら、ちょっとやそっとじゃ、傷つくことすらないぞ!


俺はこのまま、怪物達の数を少しでも減らしつつ、次に…。



「本当に強くなったねぇ」



この声は…!


怪物達をなぎ倒した先に、黒い燕尾服の男が立っていた。



「さ、ちょっと遊ぼうか?」




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ダンジョン電車 ~俺だけの『スキル合成』でダンジョンを攻略して、寿命残り約2年から生き延びる~ @nemotariann

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