第11話:歪んだ心


「これは……?」


「使い方は自分で考えてくれよ?」


 なんだ? 何を考えてるんだ?


 もしこれが罠ではなくて本当にこちらの助けになるのなら、この行動の意味が分からない。


「僕は正直どうかと思うんだけどね。クライスさんなら絶対にこうするからさ。友達として意思を汲み取ってあげたんだ」


 クライス……? たしか黒フードの定期券の名前だ。こいつらは一体……?


「僕とクライスさんは、はぐれ者だからね。まあ、罠じゃないのは確かだから安心してくれていいよ」


「いちいち心を読んで話すなよ」


 全く良い気分がしないので、どうせ聞こえるならと悪態をそのまま口に出す。


「おっと、すまないね。ついつい癖でやってしまうのさ」


「義理は果たしたし……今度は僕の趣味の時間だ。」


「趣味?」


「ああ。僕は作曲を嗜んでいてね。この『共感』を活かして人間をテーマにした曲を作ってるんだ。だから……君の心を少し覗かせてもらおうかな」


 嫌だが……拒否権はないのだろう。こいつは俺を殺そうと思えばいつでも出来るはずだ。


「さっきの戦いのとき、君はなんでわざわざ危険に飛び込んだ?」


 何でって……。それは。


「見てたなら分かるだろ? キュウさんの期限が無くならないように……」


「でも、君の期限の方がよっぽど少なかったじゃないか? 君が死んだら悲しむ人だっているんじゃないのか?」


「それは……」


 こいつ……! どこまで俺の心を読んでるんだ……!


「いや……? そうか! なるほどね……君は心の奥ではそう思ってたのかぁ……」


 男は端正な顔立ちをグニャリと歪ませて、口元を吊り上げた。


「ふふふ……!ふふふふふふ……!!! 思った通りだよ!! 君は歪んでいる。心が歪んで、ねじ曲がって……たまたま真っすぐに見えてるだけ」


 な、なんだこいつ。急にどうしたんだ。いや、それよりも……。


「心が歪んでるとは随分なことを言うな。さっき会ったばかりなのに何故そこまで言える」


「いやいや、君も心の奥底では感じてるはずさ。今はまだ分からないかもしれないけどね。だからそんなに苛立ってるんだ。」


「分かったようなことを……!!」


 頭に血がのぼった瞬間、ギギギ……と何かの音がする。


「な、何の音だ?」


「おや、そろそろ時間かな? 空間が戻ってしまいそうだ。」


「いやあ、こんなに愛おしい心はクライスさん以来だ! 君とクライスさんはやっぱり通じるものがあったんだねぇ……。 だからあの人は……君に……」


 そう言ってこちらに笑顔を向ける。


「本当に楽しかったよ。この世界が‐∞に呑み込まれるその日まで、僕に君の心を見せておくれ」


「そうだ、最後にもう一つ。近いうちに君たちの元に僕らの仲間が向かう。強いから、気を付けてね?」


 そう言い残すと、男は指揮棒を振るう。


「『跳躍コーダ』」


 そのままフッと消えて、徐々に風景が色づいていく。二人の姿もはっきりと見えるようになった。





「ゴート! 大丈夫か! 怪我とかねえか!?」


「顔色が……ひどい……何か……あったの?」


「いえ……その……大丈夫です! 少し会話して、そのまま奴は帰りました」


 二人には、奴との会話で重要そうな部分を抜粋して伝えた。俺の心は……話しても仕方がないことだろう。


「-∞に呑まれる……か。一体あいつらは何をやろうとしてるんだろうな。おっ! 期限5年分だ! こいつは嬉しいな」


「しかも……黒服達が近いうちに来るんだね……準備……しとかないと……。『達人ノ鍛冶師』……戦闘向きじゃないからあんまりかも……」


 俺たちはそれぞれ報酬を貰うため、定期券を券売機に通した。


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 期限:+5-0-0  スキル:類マレナル超反応/常勝ノ決闘者  

 アイテム:☆決闘の白手袋


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 三等分しても期限5年……! 流石はDランクダンジョンだ。スキルもアイテムも見るからに強そうだ。


 俺は手に入れた期限を使って、今まで獲得していたスキルも含めて一気に合成する。


「おお、それがゴートの『スキル合成』か。すげえな」 「期限……使い過ぎてない……? 大丈夫……?」


「う、うん。これくらいなら大丈夫だと思う」


 そう答えつつも、さっきのホリーとの問答で心が波立っているせいか、いつもより躊躇なくやってしまっている。


 完成した定期券を眺める。


 ―――――――――――――――――――――――――――――


 武芸百般ノ神聖騎士団長⇔決闘ニ運命ヲ分カツ冒険者

 経由 幸運ヲ揺蕩ウ鋼ノ超反応


 3-6-15 まで


 ガタン ゴウト様


 ―――――――――――――――――――――――――――――


『手練レノ兵長』と『見習イ伝道師』を『癒シノ聖騎士』に合成した結果、『神聖騎士団長』に。


『第六感』に『見習イ占星術士』を混ぜて『運命』に、更に『常勝ノ決闘者』を混ぜたことで『決闘ニ運命ヲ分カツ冒険者』となった。


 パッシブはそのまま『超反応』を加えた形だ。


「ゴートの強さは足し算じゃなくて掛け算だな。お前なら、どこまでも強くなれるぜ」


 帰りの電車、キュウさんが自分のことのように嬉しがって言ってくれた。


 そうだ、俺は強くなれる。だから……これは……きっと必要ないはず……。


 奴に渡された二つ折りの黒い定期入れ。今までの情報から、なんとなく使い方の想像はついている。そしてそのデメリットはきっと……。




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