第10話:燕尾服の男
「ゴート!あぶねえ!!」
キュウさんが俺の前に出て、大盾で怪物の棍棒を受け止める。だが怪物は止まらない。
6本の腕で波状攻撃をしかけてくるが、大盾と小盾でそれを確実に防ぐ。正にスキル通りの『守護者』だ。
「もらった……!」
怪物の頭上に転送したコウさんが二対の斧を同時に振り下ろす!
「ここだっ!」
俺は剣に炎を纏わせ、キュウさんの影から躍り出た!これは避けられないはず!
だが……防がれた。後ろ手に左手の盾を構え、コウさんの斬撃を。右手の刀で俺の剣を受け止めた。
くそっ! まただ。仕留めるチャンスは何度でも作れてる。 そのたび、この怪物は驚異的な反射速度で防ぐのだ。
怪物は空中で身動きがしづらいコウさんに拳銃を向ける。まずいっ!
「解放!『次元の盾』!」
キュウさんの声と共に辺りの空間がぐにゃりと歪む。コウさんに放たれた銃弾の軌道がずれて、明後日の方向に飛んでいった。
「お兄ちゃん……ありがとう……でも……」
転送魔法で戻ってきたコウさんが声をかける。
「その大盾の解放、かなり期限を使うんじゃないですか?」
そう、戦闘当初から何度もこれに救われたが、当然代償はあるはずだ。
それもこんなに強力なのは、かなりの期限が失われてるに違いない。
「いいんだ。お前らが傷つくよりマシだ。ゴートは一発入れば消えかねないから絶対に無理すんなよ」
「は、はい」
「奴はこの『次元の盾』には全く対応が出来てない。段々深くまで切り込めるようになってるから、そのうち一発でも喰らわせればそれでいい」
……本当にそれでいいのか? 安全策をとってるのは、俺の期限を気にしてのことだろう。俺のせいで、この人の期限は減ってるんじゃないか?
リスクをとってでも、この人達のためにチャンスを作るべき……あれ? でも俺は生き延びたいんじゃ……?
「ゴート! 大丈夫か!」
キュウさんの声でハっと我に返る。俺は戦闘中に何を……!?
「俺が守るから心配すんな。そのまま『第六感』で危険を伝えて、やれる時に攻撃をしてくれればいい」。
「二人とも……来るよ……!」
怪物が6本の腕を巧みに操って、こちらに迫りくる。
棍棒で圧を加えて、槍で突破し、刀で一閃をして、刺突剣で急所を狙い、盾で防ぎ、拳銃で意表を突いてくる。
その度にキュウさんが次元を歪めて危機を回避する。俺とコウさんの攻撃もあと少しで入りそうだが……! その少しが遠い!
段々と焦りが募ってくる。なんで俺は守られてるんだ。生き延びるなら、人の事はいいのか? いやでも俺は皆を悲しませたくなくて…。でも、キュウさんにもしもがあればコウさんは一人になるんだろ? 俺は……俺は……?
『俺自身』は……自分の命をどう思ってるんだ? それは……。
怪物の棍棒が振り下ろされた時、俺の身体は勝手に動いていた。
「ゴート!?」「ゴートさん!?」
剣に定期券をタッチして、高速の斬撃で棍棒をそのまま斬り飛ばす。ステップを踏んで刺突剣を躱す。拳銃が向けられる……が、それは『第六感』で分かってた! 氷魔法で銃口を凍り付かせる!
しかし、そこに刀の一閃が飛んできた。しまっ……! 間に合わな……!
「やあ!!」
飛び込んできたコウさんがとんでもない力で、刀を斧で垂直に叩き落とす。刃が砕けて、刀は俺の首まで届かなかった。
残った槍と刺突剣で俺とコウさんを串刺しにしようと、怪物が両手を後ろに引く! が、力が解放される前にキュウさんの魔法壁が槍と刺突剣の先端を抑える!
「二人とも、今だ!!」
隣のコウさんがパっと消え、怪物の背後に出現した。俺はそのまま剣を降りぬく!
怪物に残った一つの盾では俺の剣しか防げず……コウさんの斬撃が怪物を背後から深く斬り抜いた。そしてそのまま、怪物は砂と消えていった……。
「ゴートさん……大丈夫……!?」
「ゴート! 助かったけどよ……いきなり無茶をするな!!」
「す、すみません。体が勝手に……」
キュウさんに優しく嗜められつつ、俺たちは勝利を分かち合って、出現した駅へと歩を進める。
パチ、パチ、パチ、パチ……。
そこに不釣り合いな拍手の音が響く。
「お見事お見事。気に入ったよ、ゴート君」
音のする方へ目を向けると黒い服を羽織った男が立っている。
あれは……確か指揮者とかが着る燕尾服って奴だよな?
キュウさんとコウさんが一気に戦闘態勢に入る。
「ゴート! こいつは黒服の一員だ!」
「んー、今は君達に用はないんだけどねぇ。ちょっとだけ退場してもらおうかな」
そう言うと燕尾服の男は胸元から棒のような物を取り出した。指揮棒……?
「『
その瞬間、風景が一気に色褪せた。コウさんとキョウさんも朧げにしか見えない。
「な、何をした!?」
「ほんの少しだけ、僕と君の座標をズラしただけさ。二人で話したくてね。そんなに長くは保てないから、さっさと本題に入ろう」
何が目的かは分からないが……。少なくとも黒服の一味なのは確かだ。
右手で剣を構えて、左手に魔力を籠める。なんとか時間を稼いで……生き延び……
「『生き延びる』なんて考えなくていいよ。今日は本当に戦う気がないんだ。」
「え?」
なんだこいつ? 俺の心を読んでる……? そういうスキルを持っているのか?
「おっとっと、気持ち悪かったかな? すまないね。僕はこういう者だ。
男は黒い定期券をヒョイとこちらに見せる。
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傾国ノ大作曲家⇔万物ヲ導ク指揮者
経由 共感ノ心
-∞
ガルグゾンデ・ゾルフド・ホリー様
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「この通り、僕は心を『共感』で読み取れてしまうんだ」
わざわざ手の内を見せるということは……本当に戦う気がないのか、俺に負けるつもりがサラサラ無いか……。恐らく両方だな。
「それじゃあ何をしに来たんだ? まさか本当にお喋りしにきたわけじゃないだろ?」
相手がその気ならここは情報を集めるべきだろう。俺は剣を構えたままで尋ねた。
男は何もない空間から何かを取り出してこちらに投げた。
「プレゼントさ。きっとそれは君の助けになる。君だったら、絶対にそれを使いこなせるはずだ。」
受け取ったのは二つ折りの定期入れ。吸い込まれそうな漆黒が艶を出している。
一体これは……?
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