第9話:Dランクダンジョン 荒野の決闘場
「次はー……空中都市ラスター……空中都市ラスター……お降りのお客様はー……」
「んー、Bランクかー。パスだパス」
「中々出ませんね、Dランク」
「ま、気長に待つしかねえわな」
パーティを結成した翌日、俺たちは蟹名駅に集まって電車に乗り込んだ。
キュウさんはだらりと座席で寝転んで、コウさんは制服姿のまま、座席の隅で参考書を読んでいる。聞くと小テストが近いそうだ。
「すいへーりーべ……ぼくの……おふね……ななまがる……」
何やら懐かしい呪文を唱えている……。しかし二人とも流石の余裕だ。
「あ! そうだ! キュウさん、ちょっとこれ見てくれませんか?」
「んん? どうしたどうした?」
むくりとキュウさんが起き上がる。俺はポケットからある物を取り出した。
「なんだこりゃ……黒い……定期券……?」
そう、昨日黒フードから渡されたものだ。朧げな記憶だったが、何かをポケットに突っ込まれたことを思い出して、昨日の夜発見したのだ。
見た目は紙の定期券だが、黒地に白文字が印字されている。その内容は……。
=====================================================
救世ノ死神⇔黒炎ノ大魔導士
経由 完全ナル気配遮断
-∞
クライス=ロア=フィールド様
=====================================================
「もしかして、黒服共が持ってた奴か?」
「はい、記憶は定かではないんですが、いつか俺を助けるとかなんとか言ってたような……」
「ふーん? 俺達が持ってる物と形式は変わらないな。名前は明らかに日本人ではない。外国って感じでもなさそうだが……」
「この-∞ってのも気になりますよね。期限が配置されてる場所に-∞ってどういうことでしょう。」
「-∞か……。+に転ずることがないってことか? あいつら死人って感じでもなさそうだし、良く分かんねえな」
キュウさんと話してるうちに、アナウンスが鳴り響いた。
「次はー……荒野の決闘場……荒野の決闘場……お降りのお客様はー……」
電光掲示板に目を向けると『荒野の決闘場 Dランク』と表示されていた。
「っと、着いたか。とりあえずその黒い定期券は持っておいてくれ。一応本部にも報告しとくよ」
そう言って、キュウさんはスマホで何枚か写真を撮っていく。
「コウさん、着きましたよ」
「あ……うん……頑張ろっか」
そう言って彼女は参考書を閉じた。俺たちはDランクダンジョンへと足を踏み入れたのだった。
「うし! 皆準備はいいか!」
「ちょっと待ってー……まだ制服、着替えてるからー……」
コウさんが、ひょっこりとロッカーから顔だけ覗かせ……って着替え途中じゃないか!
「わわわっ……ゴートさんも居たんだった……すみませーん……」
「い、いえ!」
「あいつは結構とぼけてるからなー……。気をつけろよ! ゴート!」
何に気をつければいいのかは分からないがとりあえず気をつけておこう……。
そうして準備を終えた、俺たち三人は駅の真ん中に集まる。
俺は剣一本のオーソドックスなスタイルにした。『信義の槍』の防御は魅力的だが、期限が残り9日なのでとても使えないのだ。
キュウさんは左手に大型の盾と右手に小型の盾を装備している。うん、全く見たことがないスタイルだ。
コウさんは両手にそれぞれ二対の手斧を持っている。柄の先に布が垂れさがっている小型の斧だ。
「あ……そうだ。ゴートさん、これが私の定期券……。攻撃は任せて……!」
―――――――――――――――――――――――――――――
天下無双ノ狩人⇔手練レノ転送者
経由 人智ヲ超エタ怪力
50-5-26 まで
トクベ コウ様
―――――――――――――――――――――――――――――
なるほど、キュウさんが防御でコウさんが攻撃なんだな。
「『転送者』のスキルは……戦闘離脱も得意……ヤバくなったら言ってね……」
「うん、ありがとう」
「さあ、出発進行だ!」
まるで西部劇に出てくるような荒野を歩いていく。ちょっとした岩場に差し掛かったところで何か嫌な気配がしてきた。
「キュウさん……!恐らくあの岩場……!」
「スキルで感じ取ったか? 分かった。コウ、戦闘準備だ」
警戒しつつ歩を進めると……目の前の岩場から無数の人影が躍り出て、こちらに銃口を向ける!と同時に発砲音!
「任せろ!!」
キュウさんが大盾を構えると、瞬く間に巨大な魔法壁が構築された!
けたましい銃撃音が鳴り響くが、魔法壁はその全てを弾いている。
「コウ!!」
「おっけー……任せて……!」
後ろで何やら詠唱していたコウさんがパっと消えた。これは、転送魔法!?
と同時に、岩場から大量の切り刻まれたマントが風に流されて飛んでくる。
そしてコウさんがパっと元の位置に戻ってきた。
「全部……片づけたよ。マントに悪霊っぽいのが憑りついてるみたい……。でもちゃんと切れるから……問題ない……」
す、凄い……これが国家調査員……!
感心していると、キュウさんが俺とコウさんの頭を無造作に撫でまわす! あいてててて! 力が強い!
「キ、キュウさん!?」
「二人とも、良くやった! 満点だ!」
「奴らの気配を感じ取ったのは『第六感』だよな? 強力なスキルだが、メインで入れると戦力がガタ落ちする。そういうスキルも難なく使いこなせるのがゴートの強みだな!」
「コウも正確な転送魔法にこなれてきたな! いいぞいいぞー!」
撫でまわしから解放されると、コウさんがそっと俺に耳打ちする。
「お兄ちゃん……実は高校教師だったの……ダンジョンの為にやめちゃったんだけどね……だからその……色々許してあげて」
なるほど、言われてみれば良く似合うな……。
「いや……むしろ嬉しいくらいだよ。ダンジョンってやっぱ怖いからさ。なんか元気が出るというか」
「そう……?なら……良かった」
そう言って彼女はニッコリと笑った。
そうして、その後も三人で難なく進めていき、柵で囲まれた広場のような場所に差し掛かったところで例の音がなる。
ジリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!! エリアボスだ。
毛むくじゃらの巨大な「何か」が鎮座している。
そいつはこちらの気配に気づいたのか、ゆらりとこちらを振り返った。
顔は毛に覆われているがどことなく人間のような風貌だ。
手は6本。右側の手に棍棒、槍、刀を。左側の手には盾、刺突剣、拳銃をそれぞれ握っている。
奴はそれぞれの手を武器をこちらに向けた。やる気だ……!
「来るぞっ! ゴート! コウ!」
「はいっ!」「うん……!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます