第8話:パーティ結成プレゼンテーション

「パーティ……ですか?」


 予想外の提案だった。何しろ相手は国家調査員だ。フリーの俺とは実力も立場も違いすぎる。


「おう! もちろん理由は今から話す」


 そう言ってキュウさんは部屋の奥からガラガラとホワイトボードを引っ張り出してきた。


 左上に大きく『①:期限!!』と書かれる。


「まずはこれだな。ゴートも感じてるかもしれないが、ダンジョン電車は段々と上級ダンジョンに挑戦せざるを得なくなってくる」


 やはりそうだったのか。漠然と感じていた疑念が確信に変わる。


「中~上級ダンジョンは見返りも大きいが、失敗したときのペナルティもでかい。10年分の期限を失うことだってある」


「私達兄妹にとっても……これがかなりキツイ……」


 コウさんが横から補足する。


「なるほど。実力者の国家調査員だからこそ、攻略が厳しくなっているんですね」


「そう! だから仲間が欲しかったんだ。ゴートには黒服共を打ち破った実績と変な定期券の将来性がある。だから、お前が欲しい」


 確かにあの定期券の可能性は、自分でも計り知れないと感じる。この人達が言うなら尚更そうなのだろう。ん? 黒服『共』?


「あのっ黒服共って」


「で! 次はこいつだ!」


 キュキュっと軽快なペンの音を立てて『②:距離!!』と書かれる。


 話が進んでしまったなら仕方ない。黒服のことはまた後で聞こう。


「距離って……現実の話ですか?」


「そうだ! ゴートを助けるのに使ったアイテムはいつも使えるようなもんじゃない。だから一緒に攻略するなら同じ駅でダンジョン電車に乗る必要がある」


「私達は『蟹名かにな駅』が最寄り駅……。ゴートさんの『ふるさと温泉前駅』とは大体電車で15分くらい……」


 確かに単純ながら切実な問題だ。俺が友達のユートと頻繁にダンジョンに行けたのはお互いすぐに集まれるからだった。


「本当は……。私が高校休めば時間がとれると思うんだけど……」


「駄目駄目! お兄ちゃんがー……許しません!」


 ブツブツと言うコウさんをキュウさんがピシャっと一喝する。仲の良い兄妹だ。


「で、次!」


 下の方に『③:目的!!』と書かれる。その横に『※やや①と被る!』と注釈が書かれた。


「ダンジョン電車を攻略する目的だな。俺が思うにだが、これが俺たち兄妹とゴートで噛み合うと思うんだ」


「ゴートさんの定期券を見たけれど……期限が……もう……」


「ああ!!!」


 そうだ!! すっかり場の雰囲気に呑まれてしまっていた! 素っ頓狂な声を上げて慌てて確認する。


「期限があと0-0-10……!はぁー……助かったぁ……。でもこれ、もしかしてお二人が?」


 黒フードとの決着の時は確かに0-0-1だったはず。


「まあな。Gランクダンジョン程度だったら、お前を担いでクリアなんて余裕さ! 気にすんな!」


「ほ、本当にありがとうございました……!」


 深く深く頭を下げた。正真正銘、命の恩人だ。


「話を戻すと、ゴートはとにかく期限が欲しいんだろ? その為には良いスキルと良いアイテムが要る。が、その前に高ランクに挑まされて死んだら元も子もないよな」


「だから、俺たちを利用するくらいの気持ちでもいいんだ。さっさと必要な物をパーティで稼いじまおう!」


 こちらとしてはありがたすぎる話だが……。


「助けられた身としては、そうでなくてもそちらの目的に協力したいですが……お二人の目的は何でしょうか?」


 そう言うと二人の顔が少し沈んだように見えた。やがて、コウさんが口を開く。


「私たちは……両親を探してるの……」


「両親を……?」


「おう。俺たちの両親は、ダンジョン電車と何らかの関係があって消えた」


 キュウさんが言葉を引き継いで語りだす。


「『定期券狩り』ってあっただろ? あの頃は俺もコウもダンジョン電車とは無縁の生活を送ってたんだが……。ある日突然おふくろが消えて……期限が0の定期券が家に届いた」


「そうだったんですか……それじゃあ、お母さんはダンジョンで定期券狩りに……」


「いや、違うんだ。おふくろはダンジョンになんて行った事すら無かった。いきなり消えたんだ。定期券すら発券してなかったはずだ」


「え」


 それは……おかしいぞ。現実世界とダンジョン電車はかけ離れてる。あの改札を定期券で通る以外行く方法がないはずだ。


「おかしいと思うよな? 親父もそう思ったんだろう。おふくろを探して、ダンジョンに潜って……帰ってこなくなった。まあこっちは定期券が家に届いてないが」


「それから……私たちは兄妹でダンジョン電車の攻略を始めて……多分運と適正があったのかな……? 国家調査員にまでなることが出来たの」


 今度はコウさんが言葉を紡ぐ。


「そうして……全国の『定期券狩り』のことを調べていくうちに……私達家族のようなケースが複数あることが確認できた……だからこの事件を追い続けてるの」


「で、そこで関係してくるのがゴートも戦ったこいつらだ!」


 ガガガっと殴り書きで『☆:黒服共!!』と書かれる。


「ゴート、お前あの黒服の攻撃を受けた時、期限は減っただろ?」


「はい。あれは一体……」


「理屈はまだわからん。だが、俺たちも何度か黒服共と接触してる。戦って、痛み分けをしたが……やはりまともに攻撃を受けると期限が減る」


 やはり黒服『共』ということは、黒フード以外にもあんな連中がいるのか……。なんてことだ。


「間違いなく奴らは『定期券狩り』に関与してる。期限を短期間に減らす方法を持ってるからな」


 なるほど。話が見えてきた。つまり二人とパーティを組むということは……。


「だから……お二人はあの黒服達を追っているってことですね。そして、お二人と組むと必ず奴らと戦うことになる……」


「ああ、そうだ。奴らは相当に強い、正直俺たちでも勝てる保証は全くない。」


 黒フードとの一戦を思い出す。圧倒的な力で削られる期限。あんな連中と戦い続けたら俺は……生き延びられるのか?


 だが……もし奴らが定期券狩りに関わっているなら、いつ俺の家族や友達に牙が剥くとも限らない。それに……この兄妹の助けになりたい。これもまた本心だ。


 大事な人達の顔……目の前の兄妹の顔……黒フードが見せた悲しい表情……色んなものが頭を巡って……俺は、答えを出した。


「俺で良ければ、是非組ませてください」


 キュウさんとコウさんの顔がパァっと明るくなる。


「っし! じゃあ明日Dランクダンジョンに行くぞ! ゴートが一緒なら出現するはずだ! で、まずはゴートの期限を伸ばす!」


「明日は……高校15時終わりだから……蟹名駅で集合でいいかな……?」


「はい!」


 こうして俺は、いや俺たちはパーティを組んだ。


 命を救ってもらった二人だ。今度は俺が強くなって、二人を助けよう。


 残りの期限は僅かだけど……俺は生き延びるぞ! 二人を助けるためにも!


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