第17話:世界の秘密
「さ、何でも聞いてくれよ。とはいえ、俺が生きてるのは12ラウンドまでだからな。」
満身創痍の黒ジャンパーに残された時間は少ない……。それなら。
「分かった……。じゃあ、お前たちは何なんだ。何故襲ってきた?」
「俺たちは異世界の人間だ。襲ったのはお前が持つ定期券が欲しいから。」
異世界の人間……! とはいえそこまで驚きはなかった。
いつもダンジョン電車でどう見ても普通じゃない空間に行ってるのだ。
そこまで不思議な話ではない。
「じゃあ……なんでこの定期券が欲しいんだ?」
「その定期券は特別だ。∞の『可能性』を秘めている」
「そうだな……信じるかはお前次第だが、そもそものきっかけから話そう」
「昔、とある異世界が
「じゃあ、お前たちの定期券の-∞ってのは……」
「そう、俺たちの世界も、俺たち自身も-∞に飲み込まれたんだ」
「じゃあ、なんで今こうして」
「『ダンジョン電車』のお蔭さ。あの電車は-∞に呑まれた世界を回れる」
「-∞ってのは底なし沼みたいなものだ。あらゆる可能性を飲み干すが、何も消し去る訳じゃない」
「待てよ!? じゃあ、俺が今まで潜っていたダンジョンは……-∞に呑まれた異世界だったってことか!?」
「そうだ。全部じゃなくて、その世界の断片だけどな」
そうか……! それなら俺達がダンジョンで手に入れた期限……つまり『可能性』やスキルは……!
「『ダンジョン電車』は呑み込まれた世界から『可能性』を拾ってこれるのか……!」
「その通り。あの電車は自身の『可能性』を入場券にして、底なし沼にダイブしてるのさ。運よくクリア出来ればその世界が持っていた『可能性』を拾ってこれる」
「じゃあ、お前たち黒服は」
「俺たちは呑み込まれた後にダンジョン電車で、その世界を脱出したんだ。その世界でもとびきりの『可能性』を秘めてたから、出来たことだ」
つまり、俺たちと逆だったんだ。
黒服達はダンジョンから電車に乗って脱出して、俺たちは電車に乗ってダンジョンに向かっていた。
そうなると、何となく定期券のことも分かってきたぞ。
恐らく俺の世界はまだ呑み込まれてない。それなら……。
「俺たちの世界の『可能性』を使って、お前たちは何かをしようとしていたのか……?」
「ご名答。お前が使ってた黒い定期入れ。あれのもっと規模が大きいものと考えればいい。
俺達は、自分の世界を底なし沼から引き揚げようとしてたのさ。他の世界の『可能性』を使ってな」
「じゃ、じゃあ『定期券狩り』は……!?」
「ああ。それも『可能性』を集めるためだ。だが勘違いするなよ。あれをやっていたのは一部の黒服だけだ。そんなことしても大した足しにもならん。その蛮行に気付いた他のメンバーによって、止められたんだ」
「普通の定期券を使ったって、せいぜい人間一人分の『可能性』だ。そいつがダンジョンに挑戦し続けたとして、期限……『可能性』を伸ばすのにも、いつかは限界がくる。ところが、そこにお前の定期券が現れた。スキルを合成して無限に強くなれる定期券。それがあれば……どこまでも『可能性』を伸ばしうる」
「そうか、それでお前たちは……」
「ああ、綺麗ごとは言わん。俺の世界の為にお前から定期券を奪おうとした」
そうか。色々と腑に落ちた。
①:異世界が-∞に呑み込まれてて、黒服は呑み込まれた世界の住人。
②:『ダンジョン電車』は可能性を使って-∞の世界に潜れる。
③:黒服達はみんなそれぞれ、自分の世界を-∞から引き揚げようとしている。
④:そのために、俺の無限の力を秘める定期券が必要だった。
まとめると、こんな所だろう。
「良く分かったよ。ありがとう。教えてくれて」
「礼はいらん。ああそうだ、お前の定期券とそもそものダンジョン電車の由来は知らんぞ。これは開発者に聞け」
「開発者?」
「ああ。黒服の中に『ダンジョン電車』を開発した奴がいる。そいつを探すんだ。名前は『レイン』」
「……分かった。あれ? 待てよ? お前らの世界は浸食されたんだよな? そうなると俺の世界もいつか……」
「……そうだな。いつかは浸食が始まる。お前の世界そのものがダンジョンになるはずだ」
なんてことだ。こんな危機が眠っていたなんて……。
「ふー……。俺に教えられるのはここまでだな。今は9ラウンド目……。そろそろお別れだ」
「根暗男っ!!」
「ゴート! 無事か!?」
「良かった……生きてた……!」
三人の声が辺りに響いた。
キュウさん! コウちゃん!……と黒ワンピース!?
黒ワンピースが黒ジャンパーに駆け寄る。その眼には大粒の涙が浮かんでいた。
「っ……あんた……」
「なんだ……たまたま利害が一致しただけのに、随分悲しんでくれるじゃないか」
「短くても……仲間だったのよ……? 当たり前じゃない……」
あれ? この子、こんな感じだったっけ?
「驚いただろ、ゴート。俺たちとの決着の後、どうしても看取りたいって言って聞かなかったんだ」
「……まるで……別人……」
「はい……どういうことでしょう……」
黒ジャンパーはフッと笑うと俺たちに声をかける。
「こいつはスキル『変身』を持ってるんだ。お前たちの前には悪役として登場してたのさ。倒されたとしても……お前らの心残りにさせたくなかったんだろう」
「で、こいつの世界は……呑み込まれたばっかりでな、すぐにでも期限が欲しかったのさ」
「だから、キュウさんとコウさんを狙ったのか……。今はもう国家調査員ぐらいしかダンジョンに潜らないから……!」
「イマイチ話が見えねーが……後で説明してくれよ?」
「ちょっと、要らないことは言わなくて良いわ。私が奪おうとしたのは事実だから」
「もう10ラウンド目だ。出来ることはやろうと思ってな」
「?」
「なあ、お前たち、このガキの面倒を見てくれないか?」
「え?」「は?」「……んん?」
「ど、どういうこと……?」
コウさんが問いかける。それもそうだろう。さっきまで闘ってた相手だ。突飛な提案すぎる……。
「こいつから聞いたんだが……お前ら兄妹は期限が切れた人間を探してるんだろ? だったら目的は同じだ。結局のところダンジョンを引き揚げるしかない」
「そうなのか?」
「ゴートだっけ? 後で説明してやれ。とにかくそうだ。どこで定期券が切れようが、そいつの持つ『可能性』を引き揚げれば復元されるかもしれん」
「そのガキも自分の世界の引き揚げが目標で、お前らも最終的には同じことをする。更に闘ったから分かるだろうが戦力にもなる。な? 悪くない提案だろ?」
辺りに静寂が流れた。黒ワンピースの少女も口をパクパクしてる。
だがキュウさんが口を開いた。
「……分かった。考えてみよう」
「なっ何を勝手に!? 私はあなた達を……!」
「戦力が欲しいのは確かだ。それに勝ったのは俺たちだろ? さっき、何でも言うこと聞くって言ったよなぁ?」
「うん……言ってた……」
「んなっ!?」
二人とも、意地悪そうな笑顔をしている……。意外と似たもの兄妹かもな……。
「ふふ……ありがとよ。さて12ラウンド目、ファイナルラウンドだ」
これが終われば、黒ジャンパーは……。
再び静寂が訪れる。
……こんな別れは寂しくないか? 俺は……!
「……なあ、お前さ、名前、何ていうんだ?」
「今から消えるってのに、聞いてどうすんだよ?」
黒ジャンパーは困ったように笑う。
確かにそうだが……でも……。
「お前のこと、しっかり覚えておきたいんだ。俺のこれからの人生は、お前の命の上にあると思うから」
「ふっ、良く分からん奴だな。ほれ、やるよ」
「これは……」
差し出されたものを受け取る。
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天下無双ノ拳闘士⇔完全無欠ノ計時員
経由 止マルコトノナイ加速
-∞
ロック=ストラウト様
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黒い定期券……! これを……俺に……。
「ロック……お前のこと、忘れないよ」
「ゴート、お前との試合……良かったぜ。……じゃあな、ガキも元気でいろよ?」
「あんた……」
そうして彼は……砂となって消えた……。
ロックとの闘いは、俺を大きく変えることになったが……。
それはまた、この先の話だ。
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