第1話:終着駅にて


 そこは余りに異質な駅だった。


 改札を出ると目についたのは傷だらけで画面がかろうじてついてる券売機、売り物などなく半壊している売店。


 そして何よりも外に出ようにもダンジョンがないのだ。ただ駅があるだけ。


「ここは……終着駅なのか……?」


 どうやら「ハズレ」だったらしい。ダンジョンが無ければここに留まる意味もない。


「っと、その前に明日に備えてスキルの編集でもしとくか」


 ボロボロの券売機に定期券を通す。こうすることでスキルの入れ替えを行うことができるのだ。


 だが、なんだか様子がおかしい。いつものように編集画面が表示されない。


『只今、更新中です。少々お待ちください。』


 無機質な機械音声が流れる。なんだ? こんなことは初めてだぞ?


『お待たせいたしました。取り忘れにご注意下さい。』


 出てきたのは、真新しい定期券だった。


「なんだこれ?」


 手に取ると今までのペラペラの紙とは違い、多少の厚みがあるしっかりとした定期券だ。


 というかこれは……。


「POSUMOとかmeronみたいだな……」


 俺も去年までは学生をしていたので、非常に馴染みがある。ピッとしてお買い物もできちゃう便利なアイツによく似てる。


 表面に表示されてるスキルも名前も期限も特に変わった様子もない。


 怪訝に思いながらも、あまり気にしないことにした。多分ゲームによくある限定スキン的なそういうやつだろう。


 気を取り直して、新しい定期券を券売機に入れなおすと、見慣れない単語が編集画面に現れた。


『合成』……?


 そのボタンをタッチすると今まで手に入れたスキルがずらっと表示された。


 これは……まさかスキルを合成できるのか!?


 俺は半信半疑で試しに『見習イ剣士』と『見習イ魔法使イ』の2つを選択してみた。すると……。


『見習イ魔法剣士』になったではないか!


 そのまま一旦編集を終了して、定期券の表示を確かめる。


 ―――――――――――――――――――――――――――――


 見習イ魔法剣士⇔

 経由 小サナ幸運


 1-3-14 まで

 ガタン ゴウト様


 ―――――――――――――――――――――――――――――


 こ、これは凄いぞ! 定期券にはメインスキルは2つまで、それに1つのパッシブスキルを付けるのが原則だ。だが合成してしまえばいくらでも付与できる!


 興奮冷めやらぬままもう一度定期券を入れて、合成画面に移る。


 そして今日手に入れたばかりの『迷イノステップ』と『小サナ幸運』を合成しようとする。


 だが、ここで先程は見落としていた記述に気づいた。


「必要期限:0-1-0……?」


 そして頭を冷やして良く考えてみると……。今日のダンジョンクリアで期限は1-4-14になったはず……。でもさっき確認したときは1-3-14だったよな。


「ああ!? 期限減ってる!? しかも一か月分も!」


 いや……でも……これはチャンスだ。今までは低級ダンジョンでもクリアしたり失敗したりで結局収支はマイナスだった。


 だが『合成』を駆使すれば上のランクのダンジョンをクリアできるかもしれない。そうすればより良いスキルにアイテムを得て期限だって取り戻せる……はず。


 よーし! やってやるぞ! 合成画面をポチポチと物色し始めた。そう、俺はゲームのガチャを回すだけ回して後で冷静になるタイプなのだ。


 そうして出来た定期券を確かめる。


 ―――――――――――――――――――――――――――――


 元見習イ武芸者ノ見習イ魔法剣士⇔第六感ヲ持ツ見習イ冒険者

 経由 揺蕩タウ小サナ幸運


 0-5-0 まで

 ガタン ゴウト様


 ―――――――――――――――――――――――――――――




 低級の『拳法家』と『槍使い』を合成して『武芸者』に。それを更に『魔法剣士』と合成。


 低級の『鑑定士』と『旅行者』を合成して『冒険者』に。それを『第六感』と合成。


 パッシブは先程の『迷イノステップ』と『小サナ幸運』の組み合わせをそのまま進めた。


 残り少なくなった期限を見て冷や汗を掻きながら、俺はこの駅を後にして帰路についた。


 反対ホームで電車に乗れば一番最初に定期券を発行した駅に帰れるのだ。


 帰りの電車で思考を巡らせる。


 Fランクダンジョンでも失敗の仕方によっては2ヵ月分期限が減ることもある。しかも同じランクのダンジョンを何回も攻略してると、それ以下のランクは段々と出現しなくなるのが経験的に分かっている。


 だから、いつまでもFランクを探してクリアしていてはジリ貧だろう。


 明日はEランクに挑戦してみよう。今の俺なら行けるはず!


「次はーふるさと温泉前駅ーふるさと温泉前駅ーお降りのお客様はー……」


 よし! 絶対に俺は生き延びるぞ! 決意を胸に自宅のある「ふるさと温泉前駅」に降り立ったのだった。


 そう、この日だ。


 謎の定期券との出会いがあったこの日から俺は「ダンジョン電車」の謎に深く関わっていくことになったのだ。


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