幕間③ プレゼント
「あー、寒い寒い。夜になると凍えるなこりゃ」
「結構長引いちゃいましたね。もう随分と暗い」
ビルから出ると、外は既に日が暮れていた。
くたびれたスーツとネクタイに冬の風が当たると、否応なしに身が縮まってしまう。
今日は年一回行われる、国家調査員の成果報告会にゴートと一緒に出席をした。
俺、『
去年も出席していたので、準備は比較的スムーズだったが……。
「まさかあんなに質問が来るとはなー……」
「俺たちだけで相当時間食っちゃいましたからね」
俺とコウとゴートとトラの4人でダンジョンを攻略し続けたお蔭で、俺たちは飛躍的にダンジョンの調査が進んでいた。
その結果、ダンジョン電車の法則……黒服達の動向……期限切れで消失した人間を元に戻す可能性……多くの情報の断片を得ていたのだ。
まあ、それをシンプルに纏めて発表したせいで、逆に根掘り葉掘り説明する羽目になってしまったのだが……。
「ま、終わったし、他の調査員の報告も面白かったし結果オーライだ! たまには二人で飯でも食べるか」
「いいですね! じゃあコウちゃんとトラに連絡しときますね」
都会に来ると否応なしにテンションが上がるのはゴートも同じようだ。
こうして俺達はウキウキと街に繰り出したのだった。
ズズズと麺をすする。濃厚な豚骨が多分なんか色々工夫してあってとりあえず旨い!
「はー、旨い。やっぱ寒い日のラーメンは格別だな」
「ですね。でもまあここまで来てラーメンというのもまた俺達らしいというか」
「困ったら中華系は鉄板だからな」
都会の多すぎる選択肢に、翻弄されていた俺達はたまたま目の前にあったラーメン屋に飛び込んでいた。
「げっ! 外見ろよゴート、あれ雪じゃねえか?」
「あ、ほんとですね。ツルツルだけには気をつけなきゃ」
東北地方で育ったゴートは全く驚いてない。
向こうはスプリンクラーで雪を除去するとか、雪の対策だけで何十万吹っ飛ぶとか関東の俺には信じがたいことを聞いたっけな……。
「しかしあと何週間もすれば今年も終わりか……あ!!」
「どうしたんです?」
し、しまった。年末があるってことは……。
「クリスマスがあるぞ!!」
「そ、そりゃありますけど……」
いや、そうか。今年はゴートがいるじゃないか。
俺は妙案を閃いた。
「よし、ゴート手伝え」
「まずは内容を言ってくださいよ!?」
「実はな……」
俺は、ゴートに事情を説明した。
「クリスマスとコウちゃんの誕生日が近い?」
「そうだ。で、お決まりなんだが、コウはクリスマスと誕生日のお祝いを毎年纏めて貰っていたんだ」
「ああ。良く聞きますねそういうの。家庭によってそれぞれとは思いますが」
そう、俺もそういうものだと思って昔から疑問に思ってなかった。
「だがな、実際はそうじゃなかった。どうも親父がこっそりと誕生日は別口であげてたらしい」
「なるほど……良く分かりましたねそんなこと」
「去年は俺がクリスマスプレゼントをあげたんだが……ふと見せた寂しい表情が気になってな」
「相変わらず恐ろしいほど勘が良いですね……」
「もしやと思って、親父の銀行の口座履歴を見たら毎年毎年12月にちょっとした出費があった。」
「な、なるほど」
あっ、いかん、ゴートがちょっと引いてる気がする。
「まぁ、そういうわけで分かったんだが、今年は何とかしてあげたい。プレゼントがどうこうじゃなくて、コウに寂しい思いをしてほしくないんだ」
「はい。そういうことなら喜んで!」
「サンキュー、ゴート! ここはもちろん奢りだ」
伝票を持って会計を済ませる。
二人で百貨店や電気屋がある方向に向かう。
「でも普通にキュウさんがあげればいいんじゃないですか? ……あ、でもそうか。コウちゃんだから」
やはりゴートに相談して良かった。
こいつもコウの事を良く分かってる。
「そうなんだ。コウは変に気を遣わせてしまったなんて考え始める奴だ」
「確かにそういうところありますもんね」
「そこでだ。お前がコウに誕生日プレゼントをあげてほしい。お前があげれば絶対に喜ぶ」
「え、ええ!? だ、大丈夫ですかね。そりゃ俺もいつもお世話になってるからあげたい気持ちはありますが……」
……あれ!? こいつ、気付いてないのか!?
どっからどう見てもコウはお前のこと、大好きだろ!!
最近は「明日の……お迎えって……ゴートくん?」とかニコニコしながら聞いてくるんだぞ!?
その割に喋りかけようとしてやっぱりやめる、大縄跳びに入れない人みたいな動きを何度もしてるからいつもハラハラしてるのに!
まさか、そんなこと気にしてるの俺だけなのか!?
前言撤回。
まだまだ良く分かってないな。
「……いや大丈夫だ。喜ぶから、お前が渡せ」
「はぁ……。分かりました」
あまり余計な事言うとコウの『怪力』で捩じ切られかねないので、最短でお願いをした。
そうして、二人でヤンヤヤンヤ言いつつプレゼントを購入。
トラにはお高いお菓子と、ゲームソフトをあげることにした。
あいつもかなり寂しい思いをしてるだろうから、少しでも紛れるといいんだが……。
「ゴートも良いの選んだじゃねえか? そのイヤホン結構良いやつだろ?」
「はい。コウちゃん、よく音楽聞いてるって言ってましたし。雑音がカットできるこれなら周りを気にしすぎるあの子にピッタリかなって」
ふー。これで今年は寂しい思いをさせないで済ませそうだ。
両親が居ない分、俺がなんとかしてやらなくちゃな。
「あ、それと」
ゴートが何かの包みを袋から出した。青色でラッピングされたそれは、どう見てもプレゼントだ。
「これ、キュウさんに。」
え?
「俺? え? どういうことだ?」
途中、違うフロアを見てくるとか行って抜けてたが、これを買いにいってたのか。
「今までしっかりとお礼が出来てなかったなって。俺の命の恩人でもありますし、それにいつも周りの為に身を粉にして働いてくれてるじゃないですか。」
ゴートは改まった態度で、言葉を続ける。
「本当にいつもありがとうございます」
なっ……! 突然の出来事に上手く反応が出来ない。
いつもは勢いで何とかしてる分、こういうのに俺は弱いんだ……!
教師時代、教え子の卒業式で生徒よりも号泣してたんだぞ俺は!
「ゴ、ゴートォ……ありがとよぉ……グスッ」
「わわ!? キュウさん、鼻ダラダラです! 拭いて拭いて!」
こうして長い冬の一日が終わった。
クリスマスがどうなったかは……あえて言うと今年は笑顔が溢れた最高の日になった。
ちなみにゴートからのプレゼントはネクタイ。
いつか俺も……全てが終わって、教師に戻れたら必ずこれをつけようと、そう決心した。
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