第3話:VS首無し騎士

 首無し騎士との戦いは熾烈を極めていた。


 教会に金属がぶつかりあう重低音が何度も響く。


 くそっ! こいつ固い! 魔法も全く通らない! しかも……!


 首なし騎士はこちらの剣を盾で受け止めると、槍を高速で突き出した。俺は身体を捻り、ギリギリで躱す。


 しかも、攻撃に隙がない! こうなったら……! 定期券を取り出し、剣にセットしようとした瞬間、ピッ♪とその場に不釣り合いな音が響いた。


 えっ? あっ。タッチでもいけるんだ……。新しい定期券の仕様を理解した瞬間、身体にとんでもない衝撃が加わる。しまっ……!


 盾で思い切り殴られ、俺は教会の壁まですっ飛ばされた。チカチカした視界には槍を構えてこちらに突っ込んでくる騎士の姿が写る。


 まずい! 咄嗟にバッグに手を突っ込み、お目当ての物を地面に投げつける! 途端に辺りに濃い煙が広がる。


 目標を見失った騎士の突撃で壁が砕かれる。俺は煙の中で回復薬をがぶ飲みして、どうにかして呼吸を整えた。持ってきて良かったな……煙玉。


 煙でほとんど視界が無いが、『第六感』でなんとなく嫌な気配は感じられる。今度は定期券を剣にタッチせずにセット。輝きを放つ剣で、そのまま嫌な気配が大きい方に斬りかかる。


 ガァン! 手応えあり! 解放したこの剣は、振るう時は羽根のように軽く感じるが、実際の質量はそのままだ。それなら、剣速が早い分衝撃は増す!


「うおおおおおおおおお!!!」 


 何度も何度も剣を叩きつける。甲冑を打つ衝撃で徐々に煙が晴れていく。


「まだまだ!」


 剣に雷魔法を纏わせて更に打つ。騎士が後退したその一瞬、槍を持っている腕を斬り上げた。


 騎士の手を離れて宙に浮く槍、俺は地面に突き刺した剣を踏み台代わりにして、空中に身を投げた。


「これで、終わりだああああ!!!!」


 空中でキャッチした槍を空洞の鎧の中に垂直に投げ込む!! 位置エネルギーを得た槍はそのまま騎士を貫いた。ほどなくして、騎士は砂になっていった。


「はぁ……はぁ……はぁ……ははは、やった……いやったぁ!」


 一人でEランクをクリアしたのは初めてだ。溢れる思いそのままに腕を突きあげた。



「さてと、一体何が貰えるかな」


 出現した駅でしばし休憩したあと、券売機で報酬を確認する。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 期限:+0-6-0  スキル:手練レノ王宮騎士  アイテム:☆信義の槍

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 想像以上の大当たりだった。期限も長いしスキルも有用そうだ。何よりアイテムがレアアイテム!


 報酬が入っているロッカーを開けると、首無し騎士が持っていたよりも一回り小さい槍が入っていた。


「剣も使い慣れてるけど、新しい槍も新スキルと相性が良さそうだな……! そうだ! 合成もやろう!」


 興奮で独り言を連発しつつ、券売機で合成を始める。今の『元見習イ武芸者ノ見習イ魔法剣士』と組み合わせて……。


 色々と試したあと、定期券を確認する。


 ―――――――――――――――――――――――――――――


 元見習イ武芸者ノ聖騎士⇔第六感ヲ持ツ見習イ冒険者

 経由 揺蕩タウ小サナ幸運


 0-7-15 まで

 ガタン ゴウト様


 ―――――――――――――――――――――――――――――


 どうやら『魔法剣士』と『王宮騎士』が融合する形で『聖騎士』に変わったようだ。期限を3ヵ月も消費したが仕方ない。


 俺は確信した。このスキル合成できる定期券があればダンジョン電車をいつか攻略できると。


 とはいえ、今日はもう帰ろう。足はフラフラで魔法の使いすぎで頭も重い。期限も得たことだし、数日は休んでもいいかもしれない。


 そんなことを思いつつ帰りの電車に乗り込もうとしたとき、全身に悪寒が走った。『第六感』か!?


 バッと振り返ったが何もいない。そりゃそうだ。もうクリアしたんだから。


 釈然としないが……まあ疲れのせいだろう。改札を通り、そのまま電車に乗り込んだ。






 ――――――――――――――なるほど、『アレ』を手にしたのはあいつか。


 黒いフードを被った男が呟く。


「勘はいいようだが……まだ『アレ』を使いこなせていないな……。厄介なことになる前に始末するか」


 男が定期券を改札に通すと、時空を歪めて黒い汽車が黒煙を吹いて走ってくる。


 そしてそのまま、男を乗せると再び時空を歪ませて、暗い闇へと走り去っていったのだった……。

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