第15話:刹那の攻防
「どう変わったのか……見せて貰おうか!」
黒ジャンパーがステップを踏んで、一気に間合いを詰めてくる。
見える! あいつの動きが見えるぞ!
『死神』のスキルの効果だろう。奴の命の気配が伝わってくる……!
眼で追い切れなくても……!
「これならっ!」
俺は左手を地面に当てて、巨大な黒炎の壁を作り出す。
分かるぞ。見えていなくても。炎の向こう側で……動きを止めた……!
「はあっ!」
鎌を振り上げて目の前の炎もろとも刈り取る。
炎を切り裂いて、奴の肉を切り裂く感触があった。
奴の命が弱まっていくのを感じる。
そして、開けた視界。黒ジャンパーの胸には深い傷が出来ていた。
「ぐっ……見た目だけではないようだな……」
血をボタボタと垂らしながら黒ジャンパーが笑う。
「もういいだろう。今の俺はお前の動きを完全に捉えられる。俺はお前を倒したいわけじゃなくて、教えて欲しいことが……」
黒服の目的を、定期券狩りの情報を、そしてダンジョン電車の意味を教えてもらえればそれでいいのだ。
「勝った気でいるのか? 甘いな」
だが……、奴は手負いにも関わらず、戦闘開始時と何ら変わりなく拳を構える。
馬鹿な……! 確実に命はすり減っているのに……。
「まだ試合中だ。お前が何の力を使おうが、俺は、挑戦し続けるだけだ」
そして今日一番のスピードで俺の間合いに入り、拳が放たれた。
それでも、奴の拳は俺の鎌の柄に捉えられていた。
『運命』で予測して『死神』で動きを捉えて『超反応』で対応すればもはや防げない攻撃ではない。
「まだまだぁっ!」
黒ジャンパーの速度が更に上がる! 拳が左左右左右!! 右往左往して迫ってくる。
鎌を回して受け止めて……まだ、受け止める!
そこにフックが、ボディが、ストレートが、飛んでくる。
最早奴の姿は見えない。さながら、影が踊っているようだ。
俺は命の気配だけを視て、ただただ受ける。
黒炎で迎撃しても、時折カウンターで拳を入れても、それでもこいつは……止まらない。
「おおおおおおおおっ!!! 4ラウンド目ぇっ!!」
「っ!! お前っ、もう身体がっ……!」
目の前の男は黒炎に焼かれながらも、まだ加速を続ける。
だが……だが、もう、力が伝わってこない。
それでも奴は打つ、打つ、拳を打ち続ける。
凄い奴だよ、お前は……。
黒炎を相手の背後に回す。これでもう逃げられない……!
こんな訳分からない力を使う俺にここまで……!
俺はゆらりと身体を回して鎌に遠心力を加える。
そして、その勢いのまま渾身の一撃を放った!
「ふんっ!」
が、奴は上体をあえてこちらに倒してギリギリで躱す。
そのまま下半身のバネを使って飛び上がるようなアッパーを打ち放った!
「おおおっ!」
全身の力を使って身を捩る! 奴の拳が掠めた頬から、血が吹き出る。
刹那、俺とあいつで目が合う。
ああ……俺と同じだ。
こいつもきっと……自分の中の何かを信じて戦ってるんだ。
それなら、負けられない。俺の全てを使って勝ちに行く。
そうしないと……俺にも、こいつにも、勝利の価値が無くなってしまうから……!
「これで……」
左手に黒炎、氷、雷、風、光……俺のスキル達で扱えうる全ての魔力を込める。
「終わりだぁぁぁっ!!」
奴に向けてそれを解放!!
あらゆる属性の魔力がぶつかり合い反発し、乱気流のような獰猛さで黒ジャンパーを襲う。
耐えきれず、吹っ飛んだ黒ジャンパーは魔力のぶつかり合いで生まれた煙の中に消えていく。
「やるな。次は5ラウンド目だ」
だが煙の中からすぐに声が聞こえてきた。そしてステップを踏む音も。
そう……それは分かっていた。だから……。
「俺の……勝ちだ」
背後から鎌で一閃。確実に背中を切り裂いた。今度こそ奴の命は……。
「お……お前……いつの間に……」
倒れ伏した黒ジャンパーが呻く。
俺も、もう限界だ…。すぐ横に座り込んだ。
「はぁ……はぁ……悪いな。『気配遮断』のスキルだ。全く気づけなかっただろう」
「なるほど……。それで、か」
「お前の継戦能力はいくらなんでもおかしい。そういうスキルだったんだろ?」
俺は黒い定期券を定期入れから引き抜く。黒フードも鎌もその瞬間消え去った。
期限は……残り0-4-15……。
「ふふ……よく分かったな。俺は試合中のダメージでは絶対に倒れないんだ」
やはりそうか。
だから身体が壊れていても、動きは変わらなかった。
そして、俺の『気配遮断』で放った認識外からの攻撃ではスキルが発動しなかった。
「ふー……。負けたか。まったく身体中が痛いぜ。タイマンで負けたんだから、もう悔いはない」
「おい、ラウンド全てが終わるまでは俺が消えることはない。俺がこの痛みに耐えられる限りは、知ってることを教えてやるぞ」
「え?」
「チャンピオンベルトはあげられないが……お前の勝利と、俺の敗北を讃えてやりたいんだ」
男はニヤリと笑って拳を突き出す。続いて突き出した俺の拳とコツンとぶつかる。
寄せては返す波の音が響く。
それはまるで、俺とこいつへの、歓声のように聞こえた。
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