第13話:刺客現る


 Dランクダンジョン『荒野の決闘場』クリアから一週間が立った。


 俺たちは黒服達の襲撃を警戒して、慎重にダンジョンを選んでいた。高ランクのダンジョンで襲撃されたら、仮に撃退したとしてもその後のクリアが難しいのだ。


 そこでもう一度Dランクダンジョンで対策と戦力強化を行うことにして、今日もダンジョン電車に乗り込むのだった。


「土曜日で学校休み……今日は朝から探せるね」


「まあ中々出ないだろうがな。ゴート、暇つぶしは持ってきたな?」


「はい。一応大学のテキストを。復学したとき何も出来ないんじゃ困りますからね……」




 思い思いに過ごすうちに……「次はー……悪鬼の島ー。次はー……悪鬼の島ー。お降りのお客様はー……」


 電光掲示板を確認すると、『Dランク 悪鬼の島』。


「思ったよりも、早く出たな」


「今日は……良いこと……ありそう……」


「コウちゃん、それはフラグってやつじゃ……」


 そうして電車を降りた俺たち。


 無限ロッカーで準備を済ませてダンジョンに足を踏み入れた瞬間だった。


「ああ、もう先にいかなくてもいいぞ」


「あたし達がエリアボス、殺したから。で、あんた達もここで死ぬから。」


 目の前に現れたのは、黒いジャンパーの青年と黒いワンピースの少女。


 もう来たか……!


「でか男とゴニョゴニョ女、今日は間違いなく殺してやるわ。」


 黒ワンピースの少女が明らかに殺気を放っている。


「もしかして前に言ってた痛み分けした黒服って」


「うん……あの口が悪い女の子……」


「ああ見えてめちゃくちゃつえーぞ。しかも後知らないもう一人か……。なかなかハードだな」




 一瞬の静寂。しかしすぐさまそれは破られた。


「早速、死になさい!!」


 少女が手をかざすと杖のようなものが現れる。そして瞬く間に巨大な魔法弾を作り出した。


「やーーー!!!」


 そのままこっちにそれを振るってきた!


「ゴート!手伝え!」


「はいっ!」


 キュウさんが大盾を構えると、同時に俺は左手を地面に当てる。


「『魔法壁マジックシールド』!!」


 とてつもない轟音が鳴り響き、二重の魔法壁と魔法弾がぶつかり合い、お互いに消滅する。


「……遅い」


 そう思ったのも束の間、黒ジャンパーが懐に入ってきていた。


 なっ! いつの間に! まずっ……! 『超反応』スキルが発動し、ギリギリで身を捩って躱す。だが間髪入れずに二撃目が迫る!


「ゴートくんっ!」


 一瞬で俺の身体は上空に放り出された。これは……コウちゃんの転送魔法か! いつでも逃げれるように準備してくれてたのだ。


「ちっ」


 拳で空を切り裂いた黒ジャンパーがその場から消える。あいつ……俺の『超反応』よりも速かった……!




「エリアボスでウォームアップしてきたんだが……お前らも中々やるようだな」


 元の位置に戻った黒ジャンパーがフットワークを刻み始めた。俺は『冒険者』スキルで観察をする。


 拳には鉄っぽいナックルが嵌めてある。そして先程のスピード……。


 あれを相手取るには『占星術士』と『第六感』を併せ持つ『運命』スキルで動きを予測。その上で『超反応』で対応するしかない……!




「……キュウさん」


「分かってる。俺とコウではあいつの速さに物理的についていけん。このままやれば俺らが狙われて勝ちの目が無くなる」


 キュウさんも『傭兵』スキルで戦局を即座に分析していたらしい。


「あの黒ジャンパー……任せてもいいか?」


「……はいっ! お二人も気を付けてください」


「なんとかあの子を倒して……助けに行くね……!」


 そうと決まれば……右手に嵌めていたレアアイテム『決闘の白手袋』に定期券をタッチする。


 そして、それを外し、そのまま地面に落とす。


「解放! 『決闘の白手袋』!」


 俺は黒ジャンパーを指さした。


「なにやってんのかしら、あの『それなり男』」


「いや……奴の反応速度はかなりの物だった……。『それなり』ではないと思うぞ」


「そういうことじゃないのよ!この根暗おと……えっ!……消えた!? あれ? それなり男もいない!?」




『決闘の白手袋』の解放はシンプルだ。


 絶対にタイマンに持ち込む。ただそれだけ。


 景色から察するに……この島のどこか浜辺に転移したようだ。


「ほう……俺と一対一か……見所あるよお前」


 一緒に転移されてきた黒ジャンパーが早速拳を構えてフットワークを刻み始める。


「それはどうも」


 俺は腰の剣を右手で抜き放ち、背負っていた槍を左手で構えた。『決闘者』と『武芸百般』のコラボレーションだ。


 寄せては返す波の音が響く。何度目かの波の音がした瞬間、俺と黒ジャンパーは激突した。






 ゴートの奴……無茶だけはしないでくれよ……!


 俺はゴートの身を案じながら左手の大盾を構えなおす。そして無数に飛んでくる魔法弾を全て弾く。


「くっ! あの子、やっぱ火力がえげつねえな!」


「お兄ちゃん……任せて……!」


 後ろにいたコウがパっと消えて黒ワンピの背後に出現した。俺たち兄妹のいつもの連携。いけるか!?


「馬鹿ね!」


 黒ワンピがニヤリと笑う。奴の魔法杖からふよふよと魔法弾が飛んでいた。


 そしてそのままコウに向けて魔法弾が突撃する!


「きゃあっ!」


「コウっ!」


 咄嗟に魔力を解放!その瞬間、コウに背負わせていた小盾が魔法壁を発生させ、攻撃を受け止めた。


『守護者』スキルの遠隔防御だ。保険をかけといて良かったぜ。


「ありがとう……お兄ちゃん……。あの子……この前より……」


 戻ってきたコウに怪我はなさそうだ。良かった……。だが……!


「ああ。こっちの手口を知られてるからな。なんとかしなきゃな」


 そう言ってる間にも黒ワンピは大量の魔法弾を空中に浮かべている。


「さあ、デカ男はどこまで耐えられるかしら? あんた達も-∞に沈ませてあげるわっ!!」




 ちっ! いざとなればを使うしかねえか……! しんどい戦いになりそうだ。




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