第6話:決着、そして
黒フードから一旦距離を取って、頭を整理する。
まずは相手の強みを考えるんだ。手に持ってる鎌、おそらく、あれで高速の斬撃を繰り出してる。黒い炎も凄まじい火力だった。
だが、鎌による不意打ちも広範囲の斬撃も黒い炎も全て防げた。それは何故? そう俺の合成スキルのお蔭だ。
俺の強みはこの合成スキルに他ならない。あいつも俺の引き出しが、どこまであるかまだ掴み切れてないんだ。
「ふぅー……はっ!」
頭を整理したと同時に、俺は一気に間合いを詰めて連続突きを繰り出す。地力では完全に負けてるんだ。こっちのネタが尽きる前に勝負を決める!
黒フードは鎌を回し、突きを正確に受け止める。そのまま身体をゆらりと回すと一気に俺の首を狙って鎌を振りぬく!
「う、おっ」
間一髪、上体を反って躱せた。その勢いのまま後ろに転がり込んで間髪入れずに再び突っ込む。
「小癪なっ!」
黒フードが地面に手を当てると黒い炎の壁がせりあがる! だったらっ! 俺は槍を地面に突き刺して、棒高跳びの要領で勢いのまま飛び越えた。
「なにっ!」
予想外だったようだ。奴の防御が遅れてる! そのまま俺は膝蹴りを空から放った、が……ギリギリ躱されて、地面を砕く。
だが、この距離なら……『武芸百般』の出番だ!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
鋭い足払いを起点に、怒涛の連撃を放つ! 鎌の柄だけでは守れまい! 拳を脚を、咆哮と共に奴の身体に確かに叩きこむ。
「がはっ……」
最後に渾身の寸鉄を入れて奴の身体が吹っ飛ぶ。殴った感じではあいつも生身の身体だ。今のは相当な痛手だったはず。
……が、煙の中で奴の立つ姿が見えた。槍と盾を拾い、構える。
「はぁ……はぁ……体術まで修めてるとはな……。やはりその力、末恐ろしいな」
「ああ、もういいだろう。何が目的かは知らないが、俺の定期券の力を知ってるんだろ? これ以上は対応できないはずだ! 諦めろ!」
「いいや……お前も限界のはずだ。もう使えるものは全部使ったんだろう? だからそうしてわざわざ吠えてるんだ。」
黒フードの口元がニヤリと笑う。ぐっ……! こいつ……!
そう、俺自身の体力がもう限界に近い。それに言う通り、スキルもほとんど見せてしまった。期限も槍の解放でそれなりに……。
と、定期券を確認したとき異常に気付いた。
「な、何故……!?」
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武芸百般ノ癒シノ聖騎士⇔第六感ヲ持ツ手練レノ冒険者
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ガタン ゴウト様
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期限が……期限があと4ヵ月!? そんなはずはない! まだ2年以上あったはずだ!
「ふふふ、気付いたか?」
鎌を振り上げる姿が見えて……そのまま打ち下ろされる! 咄嗟に盾でガードしたが、尋常じゃない衝撃が手と腕に加わる。
「ぐっううう!」
しまった! 油断した。ひしゃげた盾を持つ左手に激痛が走る。
「ほら、お前の定期券をもう一度見てみろ、どうなってる?」
こちらの動揺を誘う罠とは分かっていながら、確認せざるを得なかった。
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また減っている! ま、まさか……こいつの攻撃は……!
「気付いたようだな。本来お前が受け止められるような攻撃ではない。お前の『可能性』に感謝するんだな。」
可能性……? 期限のことか? じゃあ、俺はあいつの攻撃で期限を消費してたのか……!? いや、それよりも態勢を立て直さなくては……!
「終わりだ」
黒フードがこちらに手をかざす。何かを呟く。間も無く、黒い炎の波が迫ってきた。
逃げ場はない。辺り一面を薙ぎ払うように炎が迫ってくる。
「俺は……ここで死ぬのか?」
妙にスローモーションに見える炎を前に呟いた。
俺が死んだら……家族は悲しむだろうな。妙に冷静になった頭でそんなことを考える。
父さんは多分号泣だろうな……。元々酒に弱い人だ。ショックで飲んだくれになってしまいそうだ。最近やたら老けて見えるからなぁ……。そのまま病気でもしちゃうんじゃないか?
母さんは強い人だからきっと気丈に振舞うだろうな……。でもあの虚勢は長くは持たないって俺は良く知ってる。きっといつか何かの糸が切れてしまいそうだな……。
兄ちゃんはどうだろうな。妹はどうだろう。
思考は加速して止まらない。
ユートはきっと後悔をして自分を責めるだろう。なんでダンジョン電車に誘ったんだって。あいつは優しい奴だから。
ああ、あと……止まらない。俺の好きな人達の悲しい顔ばかりが思い浮かぶ。
「やっぱ駄目だよなぁ。俺は生き延びなきゃ……絶対に」
迫りくる炎の波を前に俺は、定期券を取り出した。
「絶対に! 俺は! 生き延びる!!」
『信義の槍』に定期券を差し込む。身体に防護膜が張り巡らされる。そしてそのまま、槍を前方に構えた。
盾を構えるイメージで激痛迸る左手を前に突き出し、マジックシールドを張る。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
そしてそのまま炎に向かって突撃!
気が狂いそうな灼熱の中を突き進む。
炎を『聖騎士』の突撃で切り裂いて、痛みは『癒シ手』で誤魔化して、がたつく脚は『武芸者』の意地で支えて、奴の位置は『第六感』でなんとなく分かる!
「おおおおおおおおおお!!!」
抜けた!抜けたぞ!!きっと小さな『幸運』が味方してくれたのだろう。
「なにっ! 貴様、何故! 生き残れるはずがっ!」
「俺にはっ!生き延びるっていう『鋼の意思』があるっ!!!」
槍が、男の身体を貫く。
「ぐっおおお……お……お……」
黒フードはそのまま倒れるとゆっくりとゆっくりと砂になっていく。
終わった。勝った。勝ったんだ。
俺は槍から定期券を引き抜いた。
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ガタン ゴウト様
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ははは……思った通り、良いスキルだったな。『鋼ノ意思』は……。
そのまま俺も倒れ伏す。消えゆく黒フードの男が何か言っている。俺は……。
「お兄ちゃん! あの人……倒れてる……! しかも消えかけ……これは……まずいかも……?」
「いやいやこれはまずいだろ! どう見ても!! ちゃっちゃとクリアして『最果て駅』に連れてくぞ! おい死ぬなよ! まじで! 気張れー!!」
人の声が……聞こえる……。生き……延びなきゃ……俺は……皆を悲しませたく……な……。
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