幕間

幕間① 変身する少女


「なぁ、トラ。お前の『変身』スキルって何の役に立つんだ?」


「えー、色々と便利だよー」


 目の前の少女は、大量の魔法弾をゴーレム達に放ちながら答える。


「んー、でもこの程度の相手なら必要ないかも」


 絶え間ない砲撃の嵐の後に残ったのは、大量の土くれだけだった……。


 ……なんて雑に強い子なんだ。




 ――――ここは、Cランクダンジョン『蒼水晶の洞窟』。


 俺、『我丹豪人がたんこうと』が国家調査員になってから二か月が経過した。


 キュウさんとコウちゃんにダンジョンの報告書の書き方やら、調査の仕方を教えてもらってようやく独り立ちできた所だ。


 が、調査に力を入れすぎて攻略失敗したのでは本末転倒ということで、トラについてきてもらっている。



「ここら辺の敵、大体片付いたんじゃない? ゴート、調査しちゃえば?」


「そうするか」


 俺は、スマホでパシャパシャと辺りの風景を撮り始める。


「あっ! あたしもあたしもー!」


「こらこら、後で本部に送るんだから写らないの」


 ちょこちょことフレームインしてくるトラを避けながら、先程の戦闘を思い出す。



 しかし……『枯レヌ魔力』で無尽蔵に魔法弾を放つだけってのはシンプルだけど強力だな。


 だが、それだけに『変身』スキルが気になる。

 あれはどう使うんだろう……?


 スキル合成ばかりしてきたので、すっかりスキルマニアっぽくなってしまった。


「トラ、さっきの話だけど……」


 そう言いかけたところで、身体に悪寒が走る。


 俺の『運命』スキルが反応してる……! なにか危機が来るかもしれない。



「トラ、何かよくない予感がする。警戒しよう」


「オッケー、……なーんかあっちの岩場で足音しない?」


 言われてみれば……コツコツと靴が地面を叩く音……人間の足音? ダンジョンに? まさか黒服?


 俺たちの目の前に現れたのは……。



「トラーム! やっと会えた!」


「私達、とっても心配したのよ!?」



「え? パパ? ママ?」



 若い夫婦だった。二人とも綺麗な銀髪をしている。


 夫の方は背が高く、鼻がスっと通っていてイケメンって奴だ。

 奥さんの方も、モデルのような出で立ちで、ロングヘアーがしゃらりと揺れている。


 正に絵になる夫婦といった感じ。

 因果が逆だが、トラに二人ともよく似ている。



 と、ここまで『冒険者』スキルで観察したが、こんなおいしい話があるはずがない。


 これは、トラの動揺を誘う罠だ!



「トラっ! これは……」


「消え去りなさい」


 言おうとした瞬間、閃光が走った。




 洞窟が崩れるんじゃないかというくらいの衝撃が辺りを揺らす。


 トラがとてつもない密度の魔法弾を放ったのだ。


 直撃した若夫婦は、跡形もなく消え去った。



「大方、あたしの思考でも読み取って、粘土で作ったんでしょうね。ゴーレムの一種よ」


「トラ、お前」

 いくらそうだとしても、あんなにも躊躇いなく…。


「ゴート、これが『変身』スキルの強さよ。あたしが本気で願えば『甘っちょろいガキ』から『女兵士』に一瞬で思考そのものを変えられるの」


「なるほどな……」


 思考そのものから、正しく『変身』するのか。確かに強力なスキルだ。


 ん? でもそしたら……今トラが行けるのって最果て駅とダンジョンだけだよな。


 どっちともスキルが発動している場所だ。



「そうすると、トラって本当の性格はどれなんだ?」


 トラは一瞬キョトンとした後、少女とは思えないほどの妖艶な笑顔を見せた。

 そして手を伸ばして、俺の唇に指を当てる。


「ふふ、それは……ひ・み・つ」








「ゴート、後でアイスと漫画買ってきてよー! 今日手伝ったでしょー!」


「お前、今日はもう約束のゲーム買ってきただろ!? しかもわざわざポータブル電源まで持ってきたし!」


「えー! ヤダヤダー!!」


 ダンジョンクリア後、最果て駅で書類仕事をしてる俺に遠慮のないわがままが降りかかる。


 うん、間違いなくこれが『素』だ。




 少女の底知れなさと横暴さに、俺はこの先も悩まされるのだった。


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