第28話 練習を経て

「う、う〜ん…はっ!!」


 此処は家か!?

 俺は起き上がると、周りを見る。


 …いつも通り、俺の部屋だ。


 まさかあんな事になるなんて…。ま、早く学校に行く準備をするか。


 俺は学校の物、部活の物を準備し、リビングへと下りる。


「おはよー」

「おはよ、あんた昨日遅くなるなら言いなさいよね!」

「あぁー、うん。次から気をつける」


 俺は椅子へと座る。


「おば様、このお味噌汁美味しいです」

「あ〜ら! おば様なんてやだよ! でもいつでも食べに来ていいからね!!」


 ん?


「この料理だと、恐らくプロテインにも合うと思いますよ」

「あら? 何だか分からないけど、ありがとう!」


 ま、待ってくれ…。


「何でいるんですか、叶野さん…」

「それはサッカー上手くなる為でしょ?」

「…は?」

「これから当分は此処に住まわせてもらうから、宜しくね?」

「……は?」


 何を言ってるんだ、この人は…。






 こうして叶野さんは、日常生活から夜の自主練まで俺の指導してくれる事になった。


 それは1ヶ月もの間続き、俺の技術は著しい成長を見せる事になる。






 〜〜〜


「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

「ほらほら、スピード落ちてきてるよー。もっとこのスピードを維持し続けるよー!」

「はい!」


 俺は山道を走る。地面はゴツゴツとしており、1歩間違えたら怪我をする様な山道を、叶野さんは自転車を巧みに操り、登って行く。


 毎回思うけど…この人の身体はどうなっているんだ? あの柔らかそうなから…ゲフンゲフンッ!! …筋肉が何処についているんだ?


「はい、ストップ」

 叶野さんがそう言うと、自転車から降りて俺の前に立つ。


「…うん。タイム、上がってるわね」

 笑顔で俺に微笑みかけてくる。


 よかった…これでタイムが上がってなければ絶望していた。なぜなら…




「うーん…あと3秒遅ければ私の料理を食べさせて、スタミナをつけさせようと思ったのだけど…」


 そう…叶野さんの特製プロテイン激マズ料理が出てきてしまうのだ。


 ハッキリ言おう。これは毎日脅迫されている様なものだった。タイムが遅くなったら食べさせられ、タイムが上がれば料理を食べなくて済む。


 俺には休憩という2文字が存在しなかった。アニメや漫画は叶野さんに、サッカーの試合、サッカーの技術書に変えられ…スマホに触れようとすると、筋トレよ!! と叫ばれた。


 …命懸けだった。


 俺が物思いにふけていると、


「今日は早めに上がるわ、確か部活の時間に取材が来るんだったわよね? 」

 叶野さんが聞いてくる。


 そう。今日は全国に向けての意気込みを新聞社の方から取材されるらしい。

 取材されるにあたって、疲れを残して不甲斐ない所を見られてはいけないと言う叶野さんからの配慮だった。


「はい、それではお先に失礼します!」

 俺は叶野さんに告げると、家へと戻って行った。




「…20分ジャスト」


 風裂君の最初のタイムは120分。普通の人なら90分で走る様な距離を、120分で走った彼を見た時はどうしようかと思ったけど…



「もしかしたら、私はとんでもない選手を育てたのかもしれないわね」

 私は山道を降りて行く。

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