第3話 俺の髪が

 隼人は試合が終わった後、家でプロサッカーの試合を見ていた。


「ふんふん。なるほど…このタイミングでこうか」

 隼人は部屋の中で立ちながら、足を動かしていた。サッカーボールは無い為、今は想像でボールがある様にしていた。しかしそれには限度があった。


「…やっぱりサッカーボールはあった方がいいか」

 サッカーは、足でボールを触る感覚も大事だって言うし。


「よし。明日は学校も休みだし、サッカーボールを買いに行こう。…あそこに行くのは気が引けるが」

 家のある此処はドが付くほどの田舎だ。スポーツ用品店がある所まで行くには、朝早くに電車に乗らなければここまで帰ってくる事はできない。


 その為隼人は、早々にベッドに入った。

 ベッドに入ると試合の疲れが有ったのか、数分で眠りについた。




「う…これだから来たくなかったんだよ」

 電車から降りた先は、大都会。ド田舎の陰キャからしたらこんな所には来たくなかった。何故なら…


「何あの人? 鬼〇〇みたいなのがいるんだけど!」

「バカッ! 聞こえるって!!」

「いや、でも実際にいるんだな、あーゆう奴」


 周りの人達からヒソヒソと陰口が聞こえてくる。


「…早くサッカーボール買って帰ろう」

 そうして、足早にスポーツ用品店に向かう。




「あ、あのこれ下さい」

「はーい」


 俺はサッカーボールを買うと、店から出る。


「よし、これで早く練習を…」

 練習をしようと、家に早く帰ろうとすると、


「あ、お兄さん」

 ん? なんだ? 振り返った先には全身オシャレの権化みたいな、チャラいお兄さんが立っていた。


「あ、え、えっと…」

 あまりのチャラさにどもる俺。そんな俺を見てもお兄さんは引かずに話しかけてくる。


「お兄さん、今暇だったりする? 暇だったらさちょっと俺に付き添ってよ。大丈夫! やばい事とかはしないからさ!」

 チャラいお兄さんは腕を掴み、ある所に強引に入らせた。




 チャキチャキチャキ


「え、えっと…」

「ふふっ。やっぱり俺の目に狂いはなかった」


 今、隼人は髪を切られていた。

 椅子に座らされ、どういう髪が良い? と突然聞かれ、咄嗟にサッカー選手みたいな髪型で…と答えたら、いつの間にかこうなっていた。


 前までは鬼〇〇と言われていた髪型から、今ではベリーショートの髪型へ。

 前髪はとても短くされ、横や後ろは刈り上げられた。そしてそれをガチガチにワックスで固める。


「て、店長凄くね…」

「まさかあの子があんなにカッコよくなるなんて…」

「最初はあんな奴、どうやってって思ってたけど…凄すぎるな」


「ふむ」

 チャラいお兄さんは、顎に手を当てて唸っている。


「あ、あの…」

「おし! 君! 名前は!?」

「か、風裂 隼人です…」

「そうか! 隼人くん! 良かったらここのサロンモデルにならないか!!」

「へ?」


 サロンモデル。それは1部のとてもカッコいい人間がスタイリストに認められ、なる事を許される。所謂、その店の広告モデルになる事を指し示す。


 隼人はいきなりの提案に困惑する。


「むっ! 悩むか! もちろんここでカットするなら無料でやるよ?」

 チャラいお兄さんが身振り手振りをしながら、色々良い提案をしてきてくれる。


「あ、あの! それは良いんですけど…毎月とかはちょっと…」

 毎月来るのはめんどくさい。何より練習時間が減ってしまう…。


「ふむ? 何か事情があるみたいだね! ほら! お兄さんに言ってみ!!」

 チャラいお兄さんのなんとも高いテンションに、陰キャの俺は断る事も出来ず、事情を話した。

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