第16話 後悔しないで下さいよ?

「な、何ですか、幸田さん?」

 俺は、レギュラーの1人で決勝に出なかったDFの幸田さんから声をかけられる。


「お前、最近調子乗ってるだろ?」


 え? 何を言ってるんだこの人…?


「お前偶々試合で活躍して取材されて、髪型なんて変えやがって…サッカー上手くなってるって思ってんじゃねぇか?」


 いや、サッカーは上手くなりたいとは思ってますけど…。調子には乗ってないですよ。

 と言えたら良いんだけど…。


「おい! 何か言ったらどうなんだよ!!」


 言えたら良いんですけどね〜!

 俺は心の中で泣く。


「チッ! スカしやがって…」


 いや、スカしてる訳じゃないんです! ビビってるだけです!!


「お前の思い違いを此処で教えてやるよ。来いよ」


 な、何?

 幸田さんはグラウンドへと歩いていく。

 俺が黙って見ていると、後ろを振り返り俺の方を見ると呆然とする。そして俺の方にズンズンと音が鳴る様に此方へ向かってくる。


「こっちに来いっ!!」


 う、うわぁっ!!?

 幸田さんは俺の胸ぐらを掴んで、グラウンドの真ん中まで行く。


 そして幸田さんはサッカーボールをグラウンドの真ん中へと置くと、ゴールを背にし、俺と向かい合わせになる。


「…何をするんですか?」

 周りのサッカー部の先輩から注目され、とてつもない緊張をしながらも、話しかけた。


「あぁん? お前の得意のオフェンスで俺を抜いてみろよ? あの大会で結果残してんだろ?」


 幸田さんは挑発する様に言う。


 いや…偶々です。

 そんな事を言えたらどれだけ良いだろうか。俺にそんな度胸はない。


 だけど…


「後悔しないで下さいよ?」


「ッ!?」


 俺が言うと幸田さんは顔を強張らせる。



 ふふっ、俺が弱すぎて拍子抜けしちゃうと思いますよ?

 俺は自信満々に心の中で言った。

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