第24話 チェリー

「はぁ、昨日はえらい目にあったなぁ」

 俺は翌日、街に行く途中の電車でぼやいた。


 昨日、FWに転向して初のFW陣の練習に参加。その後疲れ過ぎて寝ていたらチア部の女子に俺のパンウサのパンツ一丁の所を見られた…。

 学校で変態という噂を流されたら…そう思った昨日の夜は、枕が自然と濡れていた。


 この話があの記者さんに聞こえでもしたら、泣ける。本当に泣ける。


 俺は電車の中で、某ボクシング漫画の有名ポーズを意識もせずにしてしまっていた。




「…うわ」

 電車から降りて、駅から出る。



「これだから都会は嫌なんだよ…」

 俺は約束の場所へと向かった。






「おっ! 来たなウチのエース!!」

 俺は街に来た時、髪を切ってくれた美容室"チェリー"に来ていた。


 チェリーの店長、チャラいお兄さんに元気よく迎えられた俺は、店の奥へと進む。



 エースって…僕なんかがエースなんて烏滸がましいよ。


「楽しみにしといてよ〜? きっと驚くからさ!」

 チャラいお兄さんがそう言うと、奥にある扉を開く。



「じゃん!! この人が君のサッカーのになる叶野かののぞみさんだ!!」


 そこソファに座っていたのは、切長の目と筋が通った鼻、座っていても分かるナイスボディな女性の方がいた。



 んー…どこかで見た事があるような…。

 それにしてもこの人の格好…凄いな。


 その人の格好は胸元が大きく入り、スリッドが入ったドレスを着ていた。


「あれ? この子って…」

 叶野さんも俺の顔を見て、何故か訝しげな顔をしている。


 俺ってこの人と会ったことあるっけ…?



「希さん! この子がウチのサロンモデルになった…あ、名前は?」

 チャラいお兄さんが笑いながら、俺に名前を聞いてくる。


 あ、そう言えばまだ言ってなかったんだっけ。


「お、俺の名前は風裂 隼人って言います! よろしくお願いします!」

 俺は綺麗なお辞儀を見せる。


 これはネットで見た知識だ。


 その人の印象は!!



「……あぁ。風裂君ね。よろしくね」

 叶野さんは何かに気づいた様な反応を見せると、笑顔で俺の方見ている。



 何かこの雰囲気、どこかで…



「隼人君か…カッコいい名前だ! ウチの店のサロンモデルになるからには名前もカッコ良くないとな!!」

 チャラいお兄さんはワハハと笑っている。


「そう言えば俺、お兄さんの名前知らないです」

「おぉ!? 忘れてたな! 俺は皆んなからチャラさんって言われてるぞ!!」


 名前を聞いたんだけど…まぁ、そのまんまで分かりやすいし、いいか。


「隼人君」

「は、はい」

 叶野さんが俺に話しかけてくる。


「今日は私達、お互いの事をよく知る為にも、私の部屋で少し親睦会でもしない?」

 叶野さんが足を組み換え、俺の事を誘う。


 親睦会…いや、でも部屋って…。

 2人きり…こんな綺麗な人と。


 …俺には記者さんがいる。そんな不純な事出来ないな!!


「すみません。とても嬉しいお誘いだとは思うんですけど、女性と2人きりというのは…」


 俺はあの記者さんと初めてがいいんだ!!


「あら、サッカーが上手くなりたいのではなかったの?」

 叶野さんがそんな事を聞いてくる。


「え? サッカーとその親睦会が何の関係が…」

 俺がそう言うと、叶野さんが大きく溜息を吐いた後、こちらを見つめる。


「私ってこう見えても実は忙しいの。だから少しでもサッカーを上手くなりたいなら、私から少しでもを盗まないと早く上手くはなれないわよ?」


 早く…


「チャラさんから聞いたの。貴方がサッカー早く上手くなりたいって。私から教わりたいって人は多い。ハッキリ言うわ。こんなチャンス2度とないわよ」

 叶野さんは俺の目を見つめて言う。


 2度と…


 叶野さんは腕時計を見る。


「…もう時間はないわ、早く決めてちょうだい」


 俺は…記者さんの為に…


「…行きます。俺にサッカーを教えてください」

「そう。分かったわ。じゃあ行きましょうか」


 叶野さんは部屋から出て行った。


 それにしても…叶野さんが出て行く時、チャラさんは叶野さんの顔を見た瞬間、ギョッとした顔をしていた。何があったのか気になったけど、早く上手くならないと!!


 俺は叶野さんの後を追った。




「ふふっ…」

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