第3話 我、ファンの鏡じゃし

《だ、誰だ貴様はー》

《いや、政府の中の人だろ》

《駄目だなあノマルンは。そこは乗ってあげないと》

《そうだぞ、じゃないといつまでたってもノーマルのままだ》

《いつかクラスチェンジして見返してやる》

《ハイノーマルだったりとかな、上位クラス》

《ソシャゲのレア度じゃん》

《ドノーマルっていうのはどう》

《それいいな!》

《よくねぇよ》


【ちょっとー、ノマルンで遊ぶのもいいけど私にも注目して!】


《あー、はいはいそうだったな》

《で、なにさ。中の人》

《ていうかこんなに気軽に書き込んでいいの? また上司に怒られるよ?》


【残念。山本は出張中なのだ】


《だめじゃん》

《おい、ストッパー役なしで野放しにしちゃ駄目な奴じゃん》

《いや、いいぞ。その調子で内部情報をもらすんだ》


【だーめーでーすー。こう見えてもコンプラ的なサムシングは守るぞ。初日のお馬鹿みたいに懲戒処分食らうの嫌だし】


《初日?》

《あー、何か初日に発言に伏せ字が入った人いたな、そういや》

《そういやいたねぇ。懲戒くらったのな。ざまあ》

《迷ちゃんを馬鹿にするからだ》

《母上に実力行使されなかっただけましじゃない?》

《残念……》

《残念ってなんだよ。こっわ》

《で、それじゃあ結局何しに出てきたのさ》

《最初に【その点は大丈夫】とか言ってたけど、なんの点が大丈夫ってばよ》


【そりゃあまあ、彼女たちルスキニアボックスの囲い込み?】

【さっき山本が出張中って書いたけど、実は安曇野のダンジョン支部に行ってるんだよねぇ】

【あの人仕事は早いからさあ。当然彼女たちに接触してると思うのさ】


《怒濤の連投である》

《早口でしゃべってそう》

《わかるー》

《オレ達もそうだもんな》

《だな》

《まあでもわかった。山本さん? なんかできる人っぽいオーラ出してたし、現地にいるなら接触してそう》

《ダンジョン出て真っ先に会うのは、職員さんだもんねぇ》

《バンドの彼女たちがそれをよしとするかどうかはわからんけどな》

《大手レーベルからのメジャーデビュー、ってな感じではないもんなぁ》

《ダンジョンに潜らなくなったら、モナもダンジョンライブ見れなくなって本末転倒だし》



「むむう。それは残念じゃ」


 モナは眉根をよせるが、


「じゃが、それならそれでテレビに出たり動画再生したりすれば、それ見て応援するだけじゃよ」


 そう言って何度もしたり顔で頷いた。



《モナちゃん。ダンジョン以外の動画とかも見れたんだ》

《前から、アニメとかで情報収集してたじゃないか。このにわかめ》

《アニメで情報収集とか……笑う》

《それがモナモナクオリティ》



「うっさいわ。ていうか、アニメやらなんやらで現代ダンジョンの勉強ができる日本の方がおかしいんじゃ」


 扇子をビシリと音を立てて画面にむけられた。



《はっ……、言われてみれば》

《いや、こういう国だからこそ、モナのようなダンジョンマスターが生まれたのではないか?》

《まさに鶏が先か卵が先か》

《いや、卵、つまりはモナモナが先だろう、常識的に考えて》

《で、話は戻すが、政府の人たちは彼女たちに接触できたのだろうか》

《ちょっと確認してみてよ、中の人》


【えー、いやだよ。今連絡とったらなんか小言まで言われそうじゃん。サボるなって】


《サボってる自覚はあったのか、この人》

《自覚あるの、たちわりーな》


【接触はできました。その旨こちらに流してもよいとのことですので、取り急ぎそれだけお伝えします】


《ん?》

《おや?》

《さっきまでの中の人とは違うよね》

《これって山本さんの発言?》

《安曇野ダンジョンにいるんじゃなかったの?》

《そっちの支部にだって端末はあるだろ》

《そりゃそうか》

《あれれ? となるとさっきまではっちゃけてた中の人、マズいんじゃ……》


【しーーーん。そんな人はいません】

【どうやら私は小言が多いと認識されていたようですね。それについても後日お話ししましょう。第三会議室を抑えておきます】


《うけるー》

《お叱り確定じゃーん》


【げ、マジで会議室、一時間抑えてんじゃん。仕事早過ぎんよ】


《お前は早く仕事に戻れww》

《うん、その方がいいぞ》

《え? 彼女たちと接触したって言ってたけど、彼女たちはどうする気なの? 言ってもいい範囲で教えて欲しいな》

《あ、それはちょっと気になる》

《インディーズでの活動も探せなかったし、今後どうするのか気になるよねぇ》

《また聞きたいし》

《なんかスキルで楽器を出してたぽいから、リアルだとまた別物かも知れないけどな》

《それはそれで面白いじゃん》

《まさに、ダンジョン系バンドって奴だよね》

《デスクブリミエント系バンドじゃなかったか》

《いやクールデレ系バンドだろ》

《そのくだりは一回見たからいい》

《あと、最後ちょっと違う》

《よく覚えてるなー》

《むしろ腹ぺこ系バンドだよな》

《それ、ボーカルの子だけじゃん》

《苦労人系バンド》

《ドラムの子だな》


【そうですね、彼女たちについて今多くは語れませんが、ひとまずダンジョンでの活動はやめないとのことですので、バックアップはしていきたく思います。むろん適正の範囲内ではありますが】

【そういえば、迷ノ宮さんも彼女たちを応援したいとのことですが、何かお伝えしたいことはありますか?】



「ふむ、伝えることとな?」


 モナは顎に指を当てひとしきり悩み、そして首を横に振った。


「いや、特にないな。ダンジョンでの活動をやめないとのことで、それはもちろんありがたいのじゃが、今後どこを活躍の舞台に選ぼうが、それは彼女たちの自由じゃ。別に行動を縛りはせんよ。……そうじゃな、応援しているとでも言っておいてくれ」



【わかりました、伝えておきます】



《モナちゃんの権力なら、行動を縛ることもできただろうに……》

《迷ちゃんエライ》

《ファンの鏡!》



「そうじゃろう、そうじゃろう。我学んだからな。推しは応援するものであって、口出ししてはいかんのじゃ」


 自慢げにはっはっはと高笑いをするモナ。

 当然の如くいつものように後ろにのけぞってしまい、椅子がくるんとなって倒れそうになるのを、七色に発光するウスベニが抱きとめた。


「お、おう。すまんのぉ、ウスベニ」



《いい加減勉強したら、モナモナー》

《高笑い注意》

《ま、まあウスベニが代わりに成長してるから》

《モナは成長しないのがいい》

《うん(一部を見ながら)》

《せやせや(一部を……)》

《そうだな(母上を思い出しながら……)》

《さいごーー!》

《妹ちゃんに怒られるぞ!》

《…………ギリセーフ》

《はいセーフ頂きました》

《さすが、ギリギリを攻める職人やな》

《まあ、ぺたんこ談義はともかく、今日はあと一回くらい動画再生して終わりかな》

《そこまでは言ってないのに……》

《アウトかな?》

《なんでさ! 大して変わんないじゃん》

《ノマルンにしては頑張ったな。それはともかく、確かにあと一回ぐらいの時間だわな》



「そ、それもそうじゃな」


 モナは何事もなかったかのように椅子に座り直しコメントにそう返す。

 髪が所々跳ねてるのはご愛敬と言ったところだろうか。まあ、どこからか櫛を持ってきたウスベニが整えたりもしているのだが……。


「あと一回、おぬしらが見たいと思うものの動画を見て今日は終わりとするかの。あ、最後に我からちょっとしたお知らせがあるからの。最後までちゃんと見るのじゃぞ」


 そう言ってモナは小さくワイプし、画面には今まで動画に登場した人たちが選択肢として現れた。



《お知らせ……、気になるな》

《まあ、今日の最後にはわかるんだし、とりあえず選ぼうぜ》

《やっぱ、最近ニュースになってるアレ関連かねぇ》

《ここまでみんなダンジョンに入って無事なんだから、眉唾もんなんだけどなぁ》

《そんなことはどうでもいい、俺はシュノーバンを選ぶぜ》

《ほほう、その心は》

《さっきのバンドの戦いはオープニングの歌っぽかったから、その流れでな》

《いうて、あの歌ヒーローもの系じゃないじゃん》

《それはそうだけど、他にそれっぽい探索者いないしなあ》

《異能使う系やロボットものな探索者いればピッタシなんだけどな》

《あと魔法少女ものとか》

《たしかにいないかな?》

《悪魔使い、もといフェアリーテイマーなお姉さんいるじゃん》

《あの人の動画、なんかほのぼのするから……、ちょっと違う感》

《それはまあ確かに》



 そんなこんなで雑談しつつも、どうやら皆の投票が終わったようで、モナが再び画面に顔を出した。


「ふむ、選ばれたのは奥州罰魂シュノーバンか。さて、こやつの動画は……」


 モナが傍らに呼び出した時点をパラパラとめくる。


「おお、今まさに戦っているようじゃな。どうせじゃからそれを見るとするか」


 パシンと扇子が音を立てると画面が切り替わった。



 画面一杯に広がる神社の前の大舞台。

 迫る崖にせり出した舞台のすみで、シュノーバンは倒れ伏していた。

 そのスーツは切り刻まれ無残な姿となっている。


「ぐ、ぬ……」


 なんとか息はあるようで、腕に力を込め立ち上がろうとするが、それもままならない。

 そこに、ひたりひたりと近づく小柄な人影があった。



《うそ、負けてるじゃん》

《クライマックスどころか終わってる》

《モナモナ、どうなってるん?》


 モナも呆然と口を開け、その画面を見いっていた。

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