第29話 我、ゴブリンをアピールする

《何でも何も、その弱点を攻めたからだよ》

《トップ探索者を馬鹿にしてはいけない》

《俺たち、割と小馬鹿にしてたけどな。特に水鉄砲を》

《迷ノ宮さん、ものを投げつけてはいけません》



「う……、あ……、ぅむ……。ごめんなさいなのじゃ」


 顔を紅潮させ、だが思うところもあったのか、モナはストンと椅子に腰を下ろし、謝罪の言葉を口にした。



《やーいやーい》

《ロッテンさんに怒られてやんのー》

《あなた方も調子に乗らないように》

《――ハイ》

《――スン》

《そして迷ノ宮さん。うん、ちゃんと謝れましたね。いい子です。次からは気をつけて下さいね》



「う、うむ。わかったのじゃ」


 小さく頷くモナの頬は少し緩んでいた。



《モナちゃん、褒められてちょっと嬉しそう》

《褒められ慣れてないのか》

《だって俺たち……、からかってますから!!》

《反応が楽しくて……》

《わっかるぅ》

《ロッテンさんの方が、母上よりよっぽど母親してる件について》

《しっ。みんなわかってるんだから口にしちゃダメだ》

《ふぅ、今日は母上いなくてよかったぜぇ》

《でも後で見るんじゃない?》

《ていうか、もしダンジョン行ってるんだったら、普通に見てるかもしれないよ》

《そういや、そんなクラスだったな》

《あ、私に母上さん達に対する敵対意思はありませんよ》

《ずりぃ。ロッテンさん、ずりぃわ》

《いうて、ある意味母上の自業自得じゃけぇ》

《まあな》

《にしても、初ボスから弱点つかないと倒せないとか……。やっぱ凶悪じゃないかなぁ》

《んだんだ。鑑定できないと厳しいし。もしできても弱点用意できなきゃ意味ないし》

《しかも、見た感じ、まわり暗闇で逃げれそうにないよな》



「ふむ、そうは言ってものう……」


 モナはウスベニが拾ってきた扇子を手にしながら言う。


「一応救済措置はあるのじゃぞ……。ほれ、見てみよ」


 モナは扇子でもって画面を差す。



 画面では半壊したゴブリン戦車が、なおも突撃を繰り返していた。

 先程までと同じように、盾を構えた四方山に向かっていき――、


 ――ギッと音を立てて、寸前で急停車した。


「ゴッブッブ」


 車上の騎手ゴブリンが取り出したのは、陶器でできた小瓶。

 火をつけたそれを、ひとつふたつと大ぶりに投げつけてくる。


「――なっ」


 とっさに盾で防いだ小瓶は、床に落ちた小瓶は割れて、四方山の足下に炎をまき散らす。


「ちっ、火炎瓶かよ」


 逆巻く炎から逃れるように一歩下がった四方山に対し、ゴブリン戦車が再度突撃する。


「「ゴッブッブ、ゴッブッブ」」

「離れろ!」


 四方山は後ろに庇った風花を押し退けるようにして盾を構える。

 が、万全の体制とは言えなかったのか、片膝をついてしまった。


 ――ギャリリィリリィィ。


 四方山を挽きつぶすかのような勢いで、ゴブリン戦車は過ぎ去っていく。


「無事っ!?」

「大、丈夫だ。それよりも火を!」


 顔をしかめつつも四方山は立ち上がり、声を上げる。


「駄目だっ、消えねぇ。水を掛けても無駄だ」

 消火に当たった野火が首を横に振る。

「こいつを使っての消火は……」

 手の内の水鉄砲に視線を向けるも、それに対し今度は風花が首を横に振る。


「無理。『燃焼』の反対は『消火』じゃない」

「ちっ、そうだったな。しっかしそれじゃあ、俺たちのいられる場所がどんどん無くなっていくぜ」


 野火はゴブリンに投げられた火炎瓶のおかげで燃える床を見ながら言う。

 燃え広がりはしないものの、何か魔法的な効果もあるのか、炎の勢いは一向に衰える気配がない。

 一度、二度ならいいだろう。だがそれ以上繰り返されると、野火の言うとおり彼らの立ち回りが難しくなるに違いない。


「はん」

 鼻で笑う。林音だ。

「アイツが火炎瓶を投げてくるなら好都合だ。アイツは火が弱点なんだろ? さっきはミスったが次は打ち落とす。自分の火炎瓶で燃やしてやるよ」


 林音は感触を確かめるように弓を軽く引いた。



《ふむふむ、ギミックボスという奴か》

《どういうことだってばよ》

《このままだとダメージ床が広がる。でもうまいこと立ち回ったら、ボスに炎で大ダメージが与えられるってことじゃない?》

《そういう事やね》

《なるほど……、これがモナちゃんのいう救済措置か……》

《ちなみにうまくいかないと?》

《焼け死ぬ。もしくはフィールドの外縁に押しつけられて死亡ってとこかと……》

《こいつらは盾役がいるからいいけど、回避優先のパーティなら逃げ場がなくなって戦車にひかれるってオチもあるんじゃないかな》

《ううむ、それを考えると難易度高いな》

《攻略法はわかっても、実行に移すの難しそう》

《まあさっきモナちゃんも、ハズレのボスって言ってたし》

《他にはどんなボスがいるんだろうな》



「おお、なかなかにさとい奴がおるではないか。攻略法としてはそなたらの言うとおりじゃな。概ねあっておる」


 モナはコメントを見てうむと頷く。


「なお、他のボスに関しては秘密じゃ。ただ、ヒントとしては三層のボスは、1から3層の敵に関連したものになるとだけ言っておこう」



《ここ、ゴブリンダンジョンじゃーーん》

《出てくる敵って、全部ゴブリンなんでしょう?》

《じゃあボスも結局ゴブリンじゃん》



「ばかもの!!」


 モナは一喝する。


「ただのゴブリンではない。レッサーゴブリンにゴブリンパピー、ゴブリンパペット等、多種多様なゴブリンを用意してある」


 ふふんとモナは胸を張る。


「我、そなたらがゴブリン好きと知って、色々と勉強したんじゃからな。褒めてもよいのじゃぞ?」



《お、おう》

《え、えらいぞ?》

《だから別にゴブリン好きじゃないんだって》

《頑張る方向性を間違えてるんだよなあ》

《でも、いろんな種類のゴブリンってちょっと見たい? 見たくない?》

《それは、まあ》

《ちょっと気になるかな~》



 そんな雑談が続く間にゴブリン戦車戦は終わったようで……。

 画面上では、焼け焦げたゴブリン戦車が焦げ付き、朽ちていっていた。



《あ、見逃した……》

《まあ、消化戦だから》

《うん、突っ込んできたら去り際に燃やす。止まって火炎瓶を投げようとしたら弓で機先を制するの繰り返し》

《それ何回か繰り返して終了だから、本当に消化戦だよな》

《はまるとあんなにうまくいくもんなんだな》

《俺には難しい》

《俺なら楽勝だぜ》

《ま、お前らはまずダンジョンに行かないとな》

《ぐっ、痛いところを突いて来やがるぜ》

《だって、抽選外れるし》

《クジ運無いのに抽選とか、ホントくそだわ》



 画面の中では、ゴブリン戦車の姿は完全に消え、部屋が隅々まで明るく照らされる。

 そうして見えた部屋の隅には、魔方陣のようなものが光り輝いていた。

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