第2話 我、名前をつけてもらう

評価ブクマ、ありがとうございます。

感謝の更新!


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 日本の動画サイトがジャックされた日の翌日、同時刻。前日と同じように動画サイトがジャックされた。

 ……そして三十分。少女は誰も侵入してこない洞窟の映像を、呆然と眺めていた。



《予想通りの結果だったな》

《残当》

《時間指定して待ち伏せされてるってわかってるのに、来るわけ無いんだよなぁ》

《予想できただろ》

《(ダンマスちゃんは)予想できなかった》

《ポンコツだから仕方ないね》



 そんなコメント欄に、少女は目に光をためながら反論する。


「我、ポンコツじゃないし! それに約束したらちゃんと守らなきゃならないじゃろ! 武士もののふは正々堂々と戦うって書いてたぞ」


 だが返答は冷ややかだった。



《約束(一方的に宣言)だからな。そりゃ守らんだろ》

《自衛隊は武士じゃないしな》

《せやな》

《罠を仕掛ける側が正々堂々を謳うっていうのが笑えるよな》

《まあまて、鎌倉武士は正々堂々と罠を仕掛け、正々堂々と族滅する蛮族だぞ?》

《ああ、なる。ダンジョンマスターが手本とするには適当とも言えるのか》

《正々堂々とはwww》

《ちょっと正々堂々の意味をちゃんと調べてきた方がいいんじゃないですかね》

《正々堂々=勝てば官軍》

《あながち間違いじゃないんだよなぁ……》

《言うて鎌倉武士は言うほど蛮族じゃない定期》

《え!? そうなの?》

《せやで。たぶん創作の影響が大きいんじゃないか》

《あとは、日本人が日本人をわらってけなす分には文句を言われないからな。扱いやすい》

《そこには愛があるから……》

《愛ゆえに》

《変につつくとマジギレする国多いからなー》

《正直フランク兵(十字軍)の方がスーパー蛮族だと思う》

《あと大航海時代あたりの話しもナー》

《殺害人数だけ見たら元、モンゴルだろ。同族殺しまくるし文明消滅させるし》

《やめろ! それ以上は危険が危ない》

《おーい、話がそれてきてないかー》

《おっとそうだな》

《危険が危ない話はこれくらいにしとくか》

《つーてもどうすんのよ。これがリアルだとして、もう自衛隊入ってこないでしょ》

《それじゃあ今日はもう解散か……》

《明日も同じ時間に待つノー?》

《ダンマスちゃーん、どーすんのー》

《電波ジャックのおかげで他の動画がみれねーんだよー。待っても無駄なんだから早くやめろよー》



「むむむぅ!?」


 少女はコメント欄の問いに眉根を寄せる。


「でも今日の放送時間、まだ余っとるし……。もうちょっと待てっててもらえんかのー」


 そう言って上目づかいに画面に視線を向けた。



《あ、待つ待つー》

《他の動画なんてどうでもいいね。いくらでも待つよー》

《手のひらドリル過ぎるww》

《あざとい、さすがダンマスちゃんあざとい》

《言うて、このままダンジョンの入り口見せられても暇だしなー》

《ふむ。それなら何か動きがあるまで質問コーナーとかしねぇ?》

《おっ。それいいね》



「質問こぉなぁ?」


 少女は首をかしげた。



《何で微妙に片言になるんだよ》

《でも、いい案だよな》

《ダンジョンの話が仮にリアルだとして、どういう物なのかダンマスちゃんに教えて欲しいしな》

《うむす。設定はきっちり知っておきたいな》

《設定言うなし》

《いいねいいね》

《よし、なーに聞こっかなー》

《スリーサイズかなー》

《はーいセクハラでーす。セクハラ警察来ますよー》



「む? む!? どういうことじゃ?」


 状況について行けず、少女はオロオロしはじめた。



《大丈夫大丈夫。ダンマスちゃんはどっしり構えてて》

《そうそう、これからコメント欄にダンマスちゃんに聞きたいことが流れるから、答えれる奴だけ応えてくれたらいいよー》

《変な質問は無視っていいからねー》

《気軽に気軽にー》



「む。そ、そうか」


 ならばと少女は一息吐いて画面を正面に見つめた。


「我、これより質問こぉなぁをはじめる!」



《88888888888888》

《888888888888888888888888》

《8888888888》

《だから何でそこだけ片言》

《8888888888888》

《やんややんや》

《888888888888888》



「なんじゃなんじゃー。8? 8ってなんじゃ」


 コメント欄を埋め尽くす『8』に少女はきょどる。



《あれだなー。ダンマスちゃん勉強したって言う割に、この辺の事疎いよな》

《そこがいい》

《それがイイ》

《88→パチパチ→拍手なんだよダンマスちゃん》

《これで一つ賢くなったね、ダンマスちゃん》

《もっとお勉強していこーねー》



「むう……、子供扱いするでない。我は立派な大人だ」


 少女は大きく胸を張った。



《ハイハイソウデスネー》

《子供ほど子供扱いするなと言う定期》

《まあ、子供だよなー(一部をじっと見ながら)》

《大人と言うには足りんよなー(胸部装甲ををみながら)》

《すとーんだしなー》

《ぺたんこだしな(成長性がある)》

《是非このままでいて欲しい》

《知ってるか? 物の本によると胸の成長って十四才くらいで止まるらしいんだ》

《なん……、だと……!?》

《素晴らしい》

《嘘だ!! 私はまだ成長するはず!》

《ん?》

《おや?》

《私?》

《なんか妙なところにヒットしたぞ》

《諦めろ、スレンダーネキ。キミに未来はない》

《幻想を抱いて眠れ、貧乳ネキ》



 その後貧乳ネキをいじるコメントが流れ、そして胸の大小についての論争がひとしきり行われるも、一人が《そろそろ本題に入ろう》と言ったところで流れは落ち着いた。

 ちなみに少女は顔を赤く染めている。それが怒りなのか羞恥なのかは定かではないが……。



《ダンマスちゃんの顔がまっ赤な件について》

《そこには触れないでいてやろうぜ。いじってたら時間がいくら合っても足りないし》

《つまり、時間が足りなくなったらダンマスちゃんのせいだと》

《せやな》

《後は貧乳ネキのせいだな》

《なんでだよっ!!!》

《はいはーい。その話はもういいから質問事項まとめような》

《やっぱパーソナルデータだな》

《はいセクハラセクハラ》

《おれ、無乳には興味ないんで……》

《胸の大小に貴賤はない》

《大丈夫、私は少しある》

《少ししかないとも言う》

《おう。表、出ろや》

《いや、そこも大事だがもっと大事な話だ。俺たちダンマスちゃんの名前知らないんじゃね?》

《おっと、そういえばそうだな》

《クリティカルにパーソナルな部分を知らないな》

《ダンマスちゃんはダンマスちゃんだるぉ!》

《いや、ダンマスちゃんはダンジョンマスターなんだろ。つまりは役職的な物だ》

《課長にかっちょさーんって言ってるみたいなものか》

《お、おう。まあそんな感じだな》

《場末のスナックでも聞かねぇぞ?》

《なら、とりあえずそれ教えてもらおうぜ》

《ダンマスちゃん、お名前なんてーの?》

《教えて教えてー》



「だから我はダンマスちゃんじゃないというに」


 少女はむくれるが、視聴者はむろんそんなことを気にしない。



《ダンジョンマスター。略してダンマスちゃんだから仕方ないね》

《それがいやなら名前を教えるんだ》

《はよはよ》


「そうは言ってものぉ。我、名前なんてないんじゃが……」


 少女はぼそぼそとつぶやく。



《なん……、だと……!?》

《我が輩はダンジョンマスターである。名前はまだ無い》

《それはやめろ。溺れて死ぬぞ》

《ダンジョンマスターが死んで太平の世になるんだから、展開的にはオッケーなんじゃないか?》

《ダンマスちゃんを殺すな》

《名前がないとか、親は何してたんだ》

《ダンジョンマスターの親ってなんだ? 神?》

《ラノベだと邪神だったりするよな》

《名前がないならつけてあげればいいじゃない》

《名前をつける……、名付け親になる……。ひらめいた!》

《それだ!》

《おれ、のじゃっ子に父上って読んでもらうのが夢だったんだ》

《ああん? 父様だるぉ》

《ととさま。異論は認めない》

《ほほう。ならば誰が選ばれるか勝負だ!》

《よし、ダンマスちゃん。どの名前がいいか選んでくれ》



「う、うむ。親がどうとかはわからんが、おぬしらが名付けをしてくれるのじゃな」


 少女は気圧されるように頷いた。


《ダン・マスコ、略してダンマスちゃん。これなら今までと変わらないしわかりやすいだろ?》



「それはちょっと嫌じゃのぉ」


 少女は首を横に振る。



《俺もさすがにそれはちょっと無いかなって思う》

《そうだぞ。もっとシンプルにいこうぜ》

《なら、弾・ジョン子ってのはどうだ》



「やっ」



《お前らのネーミングセンスのなさに呆れを通り越して、ある意味感心するわ》

《さすがにもうちょっとましな奴無いのかよ》

《ならこれはどうだ。ホワイト・ロリータ》



「なんかいやな予感がするから嫌じゃ」


 少女はぶるりと身体を震わせた。



《こやつ、ロリに反応しおった……》

《危険を察知したな》

《いや、それって菓子がそばに有っただけだよな》

《こんな時間に菓子食ってると太るぞ》

《もはや手遅れ》

《残当》

《俺はルマン・ド派》

《バーム・ロールは食べ応えがあって好き》

《ダンマスちゃんは黒髪赤目ロリだからな。しいていうならブラック・ロリータだろ》

《でも肌は白いぞ》

《むむ、確かに……》



「なんじゃ……、菓子の名前か」


 少女はほっと胸をなで下ろす。



《いや、でも意外といい名前だと思うんだがな》

《言われてみると確かに》

《比較対象がひどいとも言う》

《それな》

《なら迷ノ宮って書いて“まよいのみや”って読むのはどうだ?》

《お!?》

《はじめてまともな案が来た》

《ダンジョンともかけてるし、結構良いかもな》

《ダンマスちゃん、どうよ》



 まよいのみや、まよいのみやと口の中で転がすようにつぶやいていた少女は、微笑んで頷いた。


「うむ。なんかかっこよいし、それにするのじゃ」



《よっし。ダンマスちゃんの母上様ゲット!》

《母?》

《女か?》

《もしかして貧乳ネキ?》

《だから少しはあるって言ってるだろうが》

《少ししかないとも言う》

《それが貧乳》

《一種のステータスだ。胸を張って誇れよ》

《張ってもわからないかもしれんがな》

《無いから仕方ないね》

《うるさいうるさい! そんなこと言ってると迷ノ宮ちゃんと話すの禁止にするぞ》

《毒親きたよこれ》



「うむ? それではこれからそなたのことを貧乳母上と呼べばよいのか?」

 ダンジョンマスターが小首をかしげる。



《それは……、いや、だが……。う……あう……、よろしくお願いし申す》

《貧乳ネキ、バグった?》

《貧乳と母上呼びを天秤に掛け、母上を選んだか》

《気持ちはわかる》

《天然さの勝利である》



 戸惑うコメント欄。それを見てダンジョンマスターも戸惑いはじめる。

「む? もしかしてダメじゃったかの?」



《いや、大丈夫だよー。な? 母上サマー》

《貧乳母上もそれでいいってよー》

《がーー。お前らみたいな奴の母親になった覚えはないわー》

《母上が暴れ出したぞ》

《だれぞ、貧乳母上を取り押さえろ!》



 だがそれを見て唇をとがらせるダンジョンマスター。


「そうか……、母上呼びはダメじゃったか……」



《そ、そんなことない。アタシはあなたの母上。なんとでも呼んで》



 一転、ダンジョンマスターは顔をほころばせる。


「そ、そうか。な、なら貧乳母上……」



《……うん。よく出来ました》

《尊い》

《尊い》

《いや、むしろチョロい》

《どっちもチョロすぎるんだよなぁ》

《それはともかくとしてどうする? ダンマスちゃん、もとい迷ノ宮ちゃんの親の権利をとられてしまったぞ》

《くっ、くやちぃ》

《いや待て、迷ノ宮って名字だよな。つまり……》

《ああ、俺たちにはまだ名前の命名権がある》

《つまりダンマスちゃんは迷ノ宮なにがしになるわけか》



「迷ノ宮某……。なんか響きがいやじゃのぉ」


 少女はぼそりとつぶやく。



《相変わらずぽんこつだなぁ》

《某の部分を決めようって言ってるんだよ、ダンマスちゃん。もといぽんこつちゃん》



「な、な、な。わかっておるわ、そんなことはー」


 顔をまっ赤にする少女、もといぽんこつちゃんは華麗にスルーされコメントは続く。



《名字も迷ノ宮だし、やっぱ迷宮に絡めた名前がいいと思うんだよな》

《迷宮……。ダンジョン……》

《つまりジョン子》

《いや、それはもういいって》

《迷宮を英語にするとラビリンスか……》

《あれ? それじゃあダンジョンは?》

《地下牢って意味だったはず》

《ダンマスちゃんは牢名主だった!?》

《いや牢番の方じゃないかな》

《アラビア語でマターハ、中国語でミゴン》

《なかなかしっくりこないな》

《視点を変えてダンジョンの支配者だから、コントローラーとかヘルシャフトとか》

《うーん》

《じゃあエンプレス、クイーン、モナーク》

《モナークってなに?》

《君主だったかな》

《ならモナークからとってモナで》

《迷ノ宮モナか……》

《いいんじゃない》

《じゃあそれで》

《雑ぅ》

《かるぅい》



 めんどくさくなったのか雑に流れるコメントの一方で、少女はふむとうなずく。


「ふむ、迷ノ宮モナか……。悪くはないの」


 鷹揚に構える少女だが、その唇の先はによによと震えている。



《どうやら満足なようだな》

《感情を隠しきれないダンマスちゃん、かわいい》

《ダンマスちゃんじゃない。迷ノ宮モナちゃんだぞ》

《マヨちゃんかわいい》

《同感である》

《これでモナモナのととさま認定だぜー》

《ぐっ、仕方ない。許そう》

《だが、母上様が許すかな》

《そっちはどうでもいいかなー by母上》

《寛容である》

《いい夫婦になりそうだ》

《あっ俺、ロリ以外の貧乳は認めないんで、生まれ変わってどうぞ》

《無慈悲》

《わらう》

《草生えるわ》

《マジふざけんな!》



 そんなコメントが流れる中、少女はというと自分の名前を上の空でブツブツとつぶやいていた。


「モナ……。迷ノ宮モナかー。ふふ」

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