第3話 我、向こうの世界を紹介する

《モナちゃんが自分の名前に満足したところで、次の質問行こーぜー》

《時間は有限だからな》

《時は金なり》

《それ、言いたかっただけだよね》

《ば、れ、た》

《んじゃひとつ。なんで自衛隊は警告もなしにいきなり銃を撃ったの?》

《なぜにそれ》

《もっと聞くべき事があるだろうに》

《設定の補強は大事》

《だから設定いうなし》

《そんなことなら知り合いニキに聞けばいいだろ》

《いるのか?》

《いるよ。一応今日連絡ついたけど、そこら辺は教えてくれなかったな》

《いたよ》

《当然の答えであった》

《こういう答え聞くとフェイクじゃないような気がしてくるよなー》

《んじゃまあ、なんでいきなり銃撃ったか聞くか》

《教えてモナちゃん》



 コメントに対しモナは首をかしげて悩む。


「そう言われてものぉ。自衛隊? のことなんぞ我知らんし。そやつらに聞いた方が早いんじゃないかのぉ」



《聞いてもわからなかったからモナモナに聞いてるんだが》

《とは言え、当然っちゃ当然だな》



「あ、でも確かあ奴らがダンジョンに侵入してきたのは二回目だった気がするの」


 思い出したかのように手元の資料をペラペラめくるモナ。

 程なくして目的のものを見つけたのか満足そうにうんうんと頷いた。


「これじゃこれじゃ。えっと……、あの動画の二時間前くらいに一度侵入してきておるな」



《それ早く言えよ!》

《マヨちゃんはぽんこつだなぁ》

《マヨマヨ、なんでその動画流さないのよ》

《なんか名前がマヨネーズみたいだな》

《マヨちゅっちゅしたいな》

《はいアウトー》

《私の娘にそんな不埒なまねは許さん》

《落ち着け、貧乳母上》



「そんなこと言われても……、あっちもこっちも被害無かったみたいだから配信するのをやめたのじゃ。みんなで見てもつまらんと思っての。後、マヨネーズってなんじゃ?」

 こてんと首をかしげる。



《被害なしなら配信しないのもやむなしか……》

《そこでなんかあったんだろうね。もしかしたら二回目には銃火器が効かないのを知っていたのかも》

《あらかじめ対処方法を決めてから再度侵入したのかな》

《モナちゃんは気遣いできる子。俺理解》

《俺は昨日から知ってたね》

《はぁ? 俺なんて10年前から知ってたつーの》

《お前の産まれる前から知ってた俺の勝ち。はい論破ー》

《その頃にはマヨちゃん生まれてないんだよなぁ》

《しっ。触れるな危険》

《あ、ちなみにマヨネーズっていうのは俺たちの世界にある万能調味料のことだ。全知万能たるマヨマヨにはぴったりだろ》



 そのコメントにモナは顔をほころばせる。


「ふぉおお、全知万能。我にふさわしいなんとも甘美な響きじゃな。そなたら、褒めてつかわすぞ」



《ほ、め、ら、れ、た》

《草生える》

《いいね》

《お前らわかってるな。このままで行くぞ》

《オッケー》

《もちのろんよ》

《んじゃ、マヨちゃんには次の質問しようか。時間はまだ大丈夫だよな》



「ん? うむ、まだ余裕はあるぞ」


 モナは頷いた。



《よし、それじゃあ次の質問何にする?》

《そりゃあもちろんスリーサイズ》

《それはもういい》

《さすがにしつこい》

《母上に殺されるぞ》

《――対処中》

《何を!?》

《ひっ》

《こわっ》

《一番気になるのは、やっぱ『なんでダンジョンなんかできたのか』ってことだろう》

《まあ、確かに》

《そうだけども、妥当すぎてつまらんな》

《完全に同意》

《何でだよ! 気になるだろ! それにダンジョン入った奴もすげー気にしてたし、やっぱこれは聞いとかなきゃだろ》

《なんだ、知り合いニキか》

《知り合いニキって個性無いよな》

《まぁ、普通?》

《普通君だな》

《せっかく動画に知り合いが映ったっていう他にはない利点があるのに、それを生かし切れてないな》

《ちゃんとした質問なのに酷評で草》

《ま、とりあえずつなぎにはいいか。んじゃマヨちゃん、なんで日本にダンジョンができたか教えて》



「ふむふむ、なんでダンジョンができたかじゃな。ちょっと待っておれ」


 そう言ってモナは虚空から百科事典のようなものを取り出した。

 そうしてそれをペラペラとめくりはじめる。


「ふむぅ。確かここら辺に書いてあった気がするのじゃが……」



《把握してないのかよ》

《大きな百科事典を読み込む少女……。文学少女味があってよい》

《眼鏡が足りない》

《ぽんこつ度が高すぎるんだよなぁ》

《難しい本読むと、おめめぐるぐるになりそうだよな。モナモナって》

《頭から蒸気吹き出そう》

《私は説明書みたいな物があるのに驚きだけどな》

《たしかに》

《説明書を読むのめんどくさい派としては、今のモナちゃんの態度には納得》

《俺は読み込む派。スマホの説明書も車の解説書も読むよ》

《まじかよ、あんなん読むなんてありえん。わからなくなってから調べればいいだろ》



 やがて、目当てのものが見つかったのかモナがぐっと両拳を握った。


「これじゃこれじゃ。えっと……、地球とリナポミンってところが交渉した結果らしいの」



《地球はともかくリナポミンってどこよ》

《栄養ドリンクでありそうな名前だな》

《タウリン1000mg入ってそう》

《タウリンってよく見るけど、あれってなんなんだろうな。身体にいいのかな》

《なんか肝臓にいいらしいぞ》

《あー、だから酒飲むときに飲んでおくといいんだな》

《俺はウコン派》

《いや、そんなもの飲まなくても大丈夫でしょ》

《年取るとなぁ。酒に弱くなったというか、次の日に残るんだよなぁ》

《それ系のドリンク飲むと、次の日楽な気がするよね》

《酒を飲まなきゃいいだろうに》

《酒を飲まなきゃやってられないんだよ》

《今まさに飲んでるし》

《私もー》

《俺も俺もー》

《ジュースだけど飲んではいる》

《お、いいね。かんぱーい》

《かんぱい》

《( ^_^)/□☆□\(^_^ )》

《そんなことより大事なのは、地球が交渉したって所だよな……》

《うん……》

《でも、あそこに水はさせない……》

《そうか……》

《なぜなら……》

《なぜなら?》

《私も飲んでるから。ひゃっほ~~い》

《ダメだこいつら……》



「なんだかみんなで楽しそうじゃのぉ」


 モナは口をとがらせ寂しそうにつぶやく。机に這わせた指もカリカリとその表をかいている。



《ほらーー。マヨちゃんが寂しがっちゃってるじゃん》

《あ、ごめんごめーん。じゃあリナポミンって何か聞いといてー》

《うん、とりあえずはそれが何かわからないと、話進まないしね》

《雑だなぁ。んじゃマヨちゃん、リナポミンが何か教えてちょうだいな》



「我、さみしくなんかないし……」


 そう言うモナの口はまだとがっている。


「まあ、教えてくれと言うなら教えてやろうかの。リナポミンって言うのは地球と同じように星の名前じゃな。むろん地球とは生態系が違うがの」



《他の星……。宇宙にはゴブリンみたいな生物もいるのか……》

《ゴブリンは宇宙人だった!?》

《あだむすきー型とかに乗って地球に来る可能性も微レ存》

《連れ去られる宇宙人、ならぬ連れ去られるゴブリン》

《ある意味違和感ないな》

《アダムスキーって何よ》

《今時の若いもんはそんなことも……》

《きたよ老害》

《葉巻型の可能性も……》

《そういや葉巻って最近テレビで見ないな》

《葉巻どころかたばこも見ないぞ》

《ちなみに宇宙人の乗る船の形の事ね》

《順当に考えて異世界の星じゃないかな。ダンジョンとかそれっぽいじゃん》

《なに普通のこと言ってるんだよ。もしかしてお前、知り合いニキか?》

《なんでわかるんだよ!》

《だって発言が普通だし》

《ひどい特定の仕方だったww》

《いうて、異世界って普通か?》

《ラノベに汚染されたおまいらの頭なら普通》

《その言葉、鏡見て言ってみ?》

《俺の脳は魔界な新宿に汚染されてるからな、大丈夫だ》

《それは大丈夫なのか……》

《是非モナちゃんのダンジョンにはそのエッセンスを取り入れて欲しい》

《やめろ、ダンジョンの難易度が段違いに上がる!》

《やめろ、マヨマヨにエロスとバイオレンスは似合わない》

《……バイオレンスが似合わないダンジョンマスターとはいったい……》

《そんなことよりリナポミンだろ。結局どっかべつの星なのか異世界なのか》

《それって重要かなぁ》

《重要だろうがよ!! どうなんだよう、モナちゃんよう》

《やからで草ァ》



「ん? 我、そんな事知らんよ」


 きょとんとした表情でコメントに答えるモナ。



《知らないことは知らないと言えるモナちゃん偉い》

《意外と難しいからな、それって》

《それはそうと、わからないのはモヤモヤする》

《あのでっかい辞書みたいな奴に書いてそうだけどな》

《マヨちゃん、それでちょっと調べてよー》



 そのコメントにモナは顔をしかめる。


「え~~。これ読んでると目がチカチカしてくるんじゃよ」



《そう言わずに。迷ノ宮モナ様だけが頼りなんだからさ》

《そうそう、それにダンジョンにつながる世界を知っておくことが、これからのダンジョン運営に役立つかもしれないしさ》

《解語の花にて沈魚落雁の君たる迷ノ宮モナ。あなただけが頼りなのです》



「ほ、ほう。そうまでして頼まれたら否やとは言えんのぉ」


 コメントに応じて分厚い取説をめくりはじめるモナ。だがその口の端はゆるみ、ピクピクと震えている。



《ちょ、ろ、い》

《貧乳母上、親としてちゃんと教育をした方が……》

《これがいいんだろうが》

《チョロいのがいい》

《ダメだ。名付け親は二人ともあてにならなかった》

《わかってた》

《それはともかく解語の花とか沈魚落雁とかどういう意味なのよ。教えて詳しいニキorネキ》

《貴様の手に持った端末で調べればよかろうに……》

《この動画を最小化しないと調べれないからいやだなぁ》

《仕方ないなぁの○太君は。解語の花も沈魚落雁もきれいだって意味だよ。つまりマヨマヨはチョーかわいいってこと~》

《なるほど。ありがとう詳しいニキ。また一つ賢くなった気がする》

《気がするだけなんだよなぁ。多分明日になったら忘れてる》

《うむうむ。あ、ちなみに私はニキじゃないからねー》

《あ、詳しいネキだったのか……》

《その二つがかわいいって意味だと、かわいいから頼りにしてるって言ったのか……。微妙に意味が通らんな。マヨちゃんがかわいい事に関しては異論がないが》

《さあ、四字熟語を使いたかっただけじゃないー?》

《ちなみに詳しいネキがモナのことを四字熟語で表現するとどんな感じ?》

《そうねー。かわいいのは周知としてあとは右顧左眄かなー。お酒回って頭回んないや~》

《するりと出てくるとはさすがだな、これからは博識ネキ、いや博士、いやいや博雅と呼ぼうか》

《博雅って何よ》

《知識人のこと?》

《知識があって道理をわきまえている人のこと。道理をわきまえてる人が右顧左眄と評するとか、皮肉》

《あんまりいい意味じゃないって事はわかった》

《ちなみにここのコメントのようなものを蛙鳴蝉噪と言うんだよー》

《確かにそうだけどさぁ》

《もはや何を言ってるかわからない》

《大丈夫、俺もだ》

《俺も俺もー》



 そんな雑談をしているうちに、モナの調べ物が終わったようだ。

 モナは顎に指を当てながらうんうん言っている。


「うむぅ。向こうが異世界かどうかとかよくわからんのお」



《のってないのかー》

《わからないことがわかった》

《まあ、よしんば向こうが別の星だとして、地球とは異なる世界であることに違いはないからな》

《こことは違う世界と言うことなのが重要なのであって、それがどこにあるかはさほど重要じゃないって事か》

《多分そんなところじゃね?》



「あ、でもでもわかったこともあるんじゃよ」


 モナはページをめくって、指でなぞりながら本を読んでいく。


「ああ、ここじゃここじゃ。えっと……。リナポミンでは魔物が増えて困っているから地球にそれらを送ることを提案。その際、回廊としてダンジョンを地球側にも設置することをあわせて提案。地球は体温上昇に困っていたことからそれらを了承した、とあるの」



《まさかの展開》

《リナポミンが提案、かーらーの、地球が了承》

《地球に意思があるとでも言うのか》

《ガイア理論ってやつかね》

《なにそれ、教えて博雅ちゃん》

《私そこら辺専門じゃないんだけどな~。でもたしか、地球を一個の生命体と見なす理論じゃなかったかな。まあここでの生命体の定義は意思がどうこうじゃなくて自己調整システムがあるかどうかなんだけど》

《専門じゃないといいつつ詳しい》

《俺が中二の頃に履修した範囲だと、地球=生命ってイメージだった》

《履修? 罹患のまちがいだろ》

《そもそも生命の定義に、意思のあるなしは関係ないからねー。植物性プランクトンの意思とかどうなのよって話~》

《ただまあ、ここでは意思があるっぽいんだよな。リナポと地球が相談したってあるし》

《リナポは魔物が減って万歳かもしれんけど、地球ちゃんの方はなんの利点があるんだろうな》

《体温上昇ってアレだろ? 地球温暖化って奴? ダンジョンができたからって、それがどうにかなるとは思えないんだけどなぁ》

《困ってたから了承したってわざわざ書いてるんだから、それがおさまる何かがあるって事だろ》



 コメント欄では侃々諤々と議論が続く。

 まぁ、建設的な議論かと言われるとアレだが……。だって、モナがそれに加わりたそうにしているのに、それが無視されているのだから。


「それっぽいのもここに書いとるんじゃがのぉ。聞いてくれんかのぉ」


 小さな声は虚空へと消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る