我、ダンジョンマスター。これより配信をはじめる。【 わりとポンコツなダンマスちゃんが、配信者となって視聴者にからかわれたりつっこまれたりしながら、ダンジョンを防衛する話 】
第4話 我、お酒が飲みたい(ダメって言われた……)
第4話 我、お酒が飲みたい(ダメって言われた……)
雑談で時間が消費されること十数分。視聴者はようやくモナの様子に気づいたようだ。
《おい、モナモナがさびそうにしてんぞ》
《そうだそうだ~》
《質問の時間は限られてるんだ、こんなところで無駄に浪費するなよ》
《そうだそうだ~》
《博雅んはそろそろお酒控えような》
《そうだそう……、かんぱ~~い ( ^_^)/□☆□\(^_^ )》
《ダメだこいつ》
「お酒っておいしいのかの」
モナは、なかなか話題が戻ってこないコメント欄を見つつ、物欲しそうにつぶやいた。
《マヨにはまだ早いからダメ》
《はい、母上様からダメが出ました》
《残念だけど仕方ないねー》
「なんでじゃっ!」
拳を振り上げ抗議をするモナだが、見た目はティーンだし残当である。
《まあ、モナモナは日本にいるんだろ? だったら日本の法律は守らないとな》
《お酒は二十歳からだぞ☆ミ》
《BBA無理すんな》
《( ‘ ^‘c彡☆))Д´) パーン》
《そんなことはどうでもいい。それよりモナ、なんか言いたいことがあるんじゃなかったのか》
《そんなこと言ってたか?》
《もうちょっと配信者に注目してやれよ!》
《それはさておき、なになに教えてモナー》
《はよはよ》
そんなコメント欄に、モナは「むっ?」と眉根を寄せた。
「……あれじゃあれ。……その、なんだったかのぉ」
こめかみに指を当てぐりぐりとしながら、一度閉じた本を再度めくりはじめるモナ。
《マヨは鳥頭だった!?》
《取説、開けたままにしておけばよかったのにな》
《おめめぐるぐるのモナ、かわいい》
《これだけで何杯でもいけるね》
《同意、いいアテになる》
《もうその辺で酒は控えとけって……》
《なにおー、俺たちのストレス解消のジャマはさせん!》
《そうだそうだ~》
《ダメだ。醸されてやがる。遅すぎたんだ》
そんな中、モナがあったあったと声を上げた。
「動画で倒されたゴブリンのような魔物から石コロみたいな結晶が取れるんじゃがな、それをつかってエネルギーとかも作り出せるらしいぞ。デンキ? とか言うのも大丈夫らしいな。それが地球側が承諾したメリットの一つらしいの」
《なるほど、魔石を使ってのクリーンエネルギーか……。ベタではあるけど有効だよな》
《エネルギー大国日本の可能性》
《胸熱》
《俺たちにはメタンハイドレードがあるだるおぉん》
《採掘すらまともに出来てないのはちょっと……》
《あーでもゴブリンの魔石って、めっちゃちっさかったよね》
《そういやそうだな。そもそも効率がいいのかもわからないし》
《温暖化に困ってる地球ちゃんが了承したんだから、実用レベルではあるんじゃない》
《マヨちゃん、その辺どんな感じかわかる?》
マヨはむぅと口をとがらせた。
「わからんよ。そこら辺を調べるのは我の仕事じゃないし。頑張って調査してとしか言えぬ。これにもそこまでは書いておらんし」
パタンと本を閉じながら言うモナ。そんなすぐに閉じたらまた……なんて悲哀のコメントが続くがそれにかまわずモナは続ける。
「それにの。その魔石というのはなんじゃ? もしかして日本ではあの結晶のことを魔石というのか?」
《まさかのリナポには魔石がなかった説》
《ダンジョンに魔物を配備するとき魔石をくっつけられたんかね》
《リナポでもあったけど、そう呼ばれてなかっただけかもしれないよ》
《利用法が確立してなかったのかもしれないからな》
《ファンタジー世界で魔石の利用法が確立してないなんてあるまいよ》
《つ このお話はフィクションです》
《フィクションと現実をごっちゃにしてはいけないと思う》
《この動画見てる人間に、フィクションどうこう言われてもなぁ》
《そこに説得力はないな》
《なんで俺が批判される流れ!》
《まあ、知り合いニキだし》
《ノーマルさんは黙っててどうぞ》
《なんでわかったんだよ!》
《本当にそうなのかよっ》
《まあ、普通の反応だったからなぁ》
《その一言で納得する自分がいた……》
《ノーマルさんという呼称、笑うしかない》
《ノーマルが蔑称という風潮よ》
「ふ、ふむ。よくはわからんがあの結晶は魔石というのじゃな。我もこれからあれのことを魔石と呼ぶぞ」
モナはうむうむと頷いた。それに対しコメントも、「いいんじゃない?」と概ね好評の模様だ。まあこんなベタなネーミングに良いも悪いもないし、コメント欄のみんなは割とモナに友好的なので、否やはあろうはずがないのだが……。
そんなコメント欄を見ていたモナだが、何かに気づいたかのように唐突に顔を上げた。
「むっ。残り時間が大分減ってきたな。実は我の方からも皆に質問があるのだが、よいかの?」
《なになにー?》
《もちのろんよ》
《おっけー》
《おけおけ》
《オッケーだけど、その前に一個だけ聞きたいことがあるんだよなー》
《ちょっと空気読もう、な?》
《せやな》
《せやで》
「ふむ、少しだけならよいぞ」
いささか空気を読まない発言ではあったが、モナは快く了承した。
《マヨがそう言うなら仕方ないか》
《今回だけやで》
《で、何よ?》
《偉そうで草》
《いやね、ちょっと疑問に思ったんだけど。今って日本の動画、全部ジャックされてるんだよな。それにしてはコメントが少なすぎないか? なんか理由があるなら教えてもらおうかと思って》
《少ないかなぁ》
《視聴者数が出てるわけでもないし、コメントした人の名前が出てるわけでもないからなんとも言えないけど……。少ないのかな?》
《ハインリッヒの法則と言うのがあってだな。そもそもコメントする人って少ないものだよ》
《何それ? 教えて博雅さん》
《まかせろーい。いわゆる災害防止の法則だね。人によってはヒヤリハットって言った方がなじみ深いかも。一個の重大アクシデントの裏には数十倍の事故につながりかねないインシデントがあって、その裏には元の数百倍のヒヤリハットがあるよってお話。転じて世の中の物事はこれと同じような形で表せるんじゃないかって話だよ。ゼロってついてるから実質アルコールゼロ。ヨシッ》
《ヨシじゃねぇ》
《これが俗に言う現場ネコ案件である》
《動画で言うと、視聴する人の中で書き込むのは一割くらい、スパチャ投げるのはそれのさらに一割くらいって話だーな。まあホントの所の割合はわからんけど》
《なるほどー、それなら少ないと感じたのは気のせいなのかな?》
それに対しモナはふるふると首を横に振る。
「そこなめざとい奴が指摘したとおり、気のせいではないぞ。書かれたコメントからある程度取捨選択されておるらしいんじゃ。ぜーんぶ拾っておってもキリがないからの。これも我の授かった権能のうちの一つじゃな。ちなみに自動で行われるから、我も切り捨てられたコメントがどんなものかはわからん」
《そういうことは早く言えって言っただるぉ》
《ぽんこつぅ》
《パッシブ能力なわけね》
《ゲーム脳乙》
《能力自体はしょっぱいけど妥当》
《AIのうんたらでできそうだしな》
《ふむ、卑猥なコメントが流れないと思ったらそういうわけか》
《あ、ホントだ》
《うんこーー》
《あ、これは大丈夫なんだ》
《それならいったい何を書き込んだですかねぇ》
《……処す》
《ひえっ》
《なんでその書き込みはオッケーなんだろうな》
《何とは言ってないからな》
《何ってナニよ?》
《そら、ナニはナニよ》
《ここら辺はオッケーなのな》
またも脱線をはじめるコメントに、モナはパンパンと手を打って注意をした。
「そろそろ我の質問に入るぞ。よいかの?」
《ほーい》
《あいよー》
それらの反応にモナはよしよしと満足げに頷く。
「地球とリポナミンのためにダンジョンに来て魔物を討伐してもらいたいことは、皆も理解したであろう。じゃが実際は今日のように、我が一生懸命準備しても誰も来てくれんのじゃ。もっといっぱい来てもらうためには、いったいどうしたらいいんじゃろう」
そう問いかけてきたモナの目は画面をまっすぐに見つめている。真剣だった。
それを受けてコメント欄も今まで以上に活発に議論を始めた。
《おいおい、マヨマヨ困ってんじゃんよ。自衛隊ちゃんと仕事しろ》
《ほんそれ》
《まあまあ。彼らも命かかってるから仕方ないだろ》
《うっせえ普通君、いやドノーマル。正論言ってるんじゃねぇ》
《だからなんでわかるんだよ!》
《ノーマルさんの言い分はともかくとして、自衛隊が行かないんだったらどうするって話だよな》
《そりゃ俺たちが行くしかないだろ》
《ふふっ。実家の黒魔道書が火をふくぜ》
《黒歴史本の間違いだろ》
《草》
《どうやってダンジョンまで行くんだよ。場所わからんし、わかったとしてもどうせ自衛隊の駐屯してる場所だろ? 侵入できんわ》
《まあ、そうだな》
《いや、そこ以外にもダンジョンがある可能性もなきにしもあらずんば虎児を得ず》
《どっちだよw》
《つまり、今発見されている場所以外にもダンジョンがある可能性と、そこに行けば宝を得られることを掛けて言ったんだな》
《なる……ほどな……》
《すまん……。正直そこまで考えてなかった》
《唐突にはしご外されてるの、笑う》
《それ以前に死ぬ危険があるのに行きたくはないかなぁ》
《自衛隊はさっくり倒していましたけどぉ?》
《そりゃ訓練してるからな。運動不足のはげぇデブゥじゃ、ああも簡単にはいかんだろ》
《ずっとゴブリン一匹だけって訳じゃないだろうしな》
《金が入るなら行くけど死にたくはないなぁ》
《魔法が使えるようになるなら行くな》
《ああ、ラノベみたいにファンタジー職につけてスキルとか使えるようになるなら行くかも》
《無職からの脱却》
《もう子供部屋おじさんとは言わせない》
《子供部屋おじさん……、いたのか》
《20年後、親を介護するお金を貯蓄するための子供部屋おじさんだがな》
《仕事してるやんw》
《物事は切り取り方次第だと知った一件であった、まる》
《まあでも、お金にならないとダンジョンに行く意味ないよなー》
《ロマンがあるだろ!》
《ロマンじゃおまんまは食べれません》
《まんまー》
《魔石を手に入れたとして、ちゃんと買い取ってもらう手段が確立してないとなぁ》
《そこら辺はマヨちゃんじゃなくて政府の問題だな》
《それを言うならダンジョンにはいれるかどうかも政府の対応の問題だろ》
《ダンジョンモノだとこんな時はどうしてるんだ?》
《うーん。最初は自衛隊とか警察が押さえてるんだけど、抑えきれなくなってスタンピード。つまりは魔物がダンジョンの外にあふれるわけだ。その後なし崩し的に民間人にも開放がパターンかな》
《後はお隣の国とかがしくってスタンピードを起こす。それを見て解放とかかな》
《スタンピードはやめろ。被害が甚大だ》
《いうて今のダンジョン、自衛隊のいる場所なんだからなんとでもなりそう》
《これ以上増えなければな》
《そういや話変わるけど他の国にもダンジョンってあるのかね》
《少なくともモナちゃんみたいにダンジョンマスターが広報してないよね》
《この辺はマヨちゃんに余裕があるときに聞くとするかね》
《せやな》
多少脱線しつつも視聴者の議論は白熱する。
いまだ真偽の定まらないことに対して真剣に討論されていく。
基本、皆暇なのだ。だけど面白そうなことには真剣に取り組む人たちなのだ。そしてそういった議論の中でダンジョンが徐々に認知されていっていることに気づいた者は少なかった。
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なろうの方での感想に、地球規模で感じる地球温暖化なんて……、という質問があったのでそれへのお返しをここにも張っておきます。確かに違和感感じますよね。
地球ちゃんは敏感肌で、寒冷期~温暖期以外の変化を敏感に感じ取っちゃったのかもしれません。
ほら、人間でも熱っぽいわーとか思っても、体温測ったら6度8分だったりとかするときもあるじゃないですか。
まあ、そんな感じでふわっと考えていただければと思います。
後補足として、地球ちゃんは体温上昇に困ってたけど、それが=地球温暖化かどうかは……。
そこはあくまでコメント民の類推ですので……
あとあと、ついでに今話の補足ですが
魔石はもちろんエネルギー活用以外にも使える設定です。むしろそれ以外の活用の方が地球ちゃんにとってはメインの可能性もごにょごにょ。
作者は設定厨なので、地味に裏設定を考えたり付け加えたりしてますが、その辺を深読みするもよし、ふわっとした感じで呼んでいただいてもよしです。
質問いただければこんな感じで返させていただくこともありますし、後出しでこねくり回したりもしまする。
(矛盾点?……、まあ、それは、その……ね?)
それでは今後とも、モナとコメント民の掛け合いを楽しんでいただければと思います。
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