第35話 我、巻き戻した
《簡単に言うと、あの大砲って近代兵器なの? ってこと》
《そりゃまあ、近代兵器じゃねえの》
《うーん、言われてみれば、どうなんだろう……》
《ん? どういうこと?》
《……例えば最初に自衛隊が使っていた20式の銃。あれはゴブリンに効かなかったから近代兵器で間違いないよな》
《まあな》
《じゃあ、例えば火縄銃は近代兵器なのか?》
《う、うーん。近代兵器かって言われると難しいな……》
《なるほど! 大砲にたとえると、大和の大砲は近代兵器だけど、戦国時代の国崩しは近代兵器じゃないかもってことか》
《あー、まあうん。そういうこと》
《まあ確かに、自衛隊の使ってた大砲には駐退機もついてなかったし、機構としては古そうかな? 撃ったあとにレールで戻して照準つけなおしてたし。ライフリングはどうだったかな》
《ノノ 駐退機とは!》
《お手元の箱で調べてどうぞ》
《そう言わずに教えてよー》
《大砲とか撃ったときの反動を抑える装置だよ~。映画とかで大砲が撃たれると、砲身が一旦下がって元に戻るでしょ。あの機構のこと~。くぴ》
《昼だぞ、もう飲んでるのかよ。でもありがとう》
《イエーイ( ^_^)/□☆□\(^_^ )》
《なるほど、でもまあわかった。自衛隊の奴らは大砲を使うために、わざわざ骨董品を持ち出してきたわけか》
《割に扱い雑だけどな。さっきみたいに砲身を急に冷やしたら、すぐぶっ壊れるぞ》
《それを考えると割に合わない気もするなぁ》
《あ、でもでも、ダンジョンで使った装備品が強化されるって話もあるみたいよ》
《マジで!?》
《なるほど、それならありか》
《私は囮の人たちのことが心配なんだけど……》
《あ……》
《しっ……》
《ほら、残機あるし》
《非道! 自衛隊非道!!》
《さすがになーんか対策してるんじゃないかなぁ》
「そなたら、待たせたな」
雑談の続く中、画面に手を広げたモナが現れた。
「おお、ウスベニもよく間を持たせてくれた。礼を言うぞ」
広げた手でウスベニを抱き寄せ、こねくり回しながらモナはコメント欄に目を送る。
「……ふむ、そなたらの考えは正解に近いな。まあ、我の口から説明するのもアレじゃのお。準備を整えている自衛隊の風景でも一緒に眺めるか……。きゅるっと巻き戻してみることにしよう」
モナは指をくるくると回し始める。それに応じて一時停止していた画面も巻戻っていった。
《モナちゃん、たまーに言動が古くさいのなw》
「うっさいわ」
茶化すコメントに反応しつつも、モナは画面を巻き戻す。
「我が権能によると多分ここら辺ぽいのぉ。それでは見るとするか」
モナは手をつき足をぱたぱたさせながら、自衛隊の移る画面へと視線を向けた。
◆
映し出されている画面は、先程と同じ丘の上。
上空に気球が打ち上げられているのは一緒だが、ただ違うのは、大砲はまだ設置されておらず、何人かの隊員は天幕の前に広げられた設計図を前に集まっていること。
他にも、装甲で覆われた馬車、それには同じくバーディング――馬鎧・馬用ボディーアーマー――を施された馬が繋がれている。
そして何より、30人近くの隊員が丘の上に集結していた。
「付近のモンスターは一掃したようです」
観測気球からの通信――光を反射させたヘリオグラフによる物――を受けた副官の女が、指揮官へと話しかける。
「わかった。なら準備を急いでくれ」
「了解しました」
指示を受け、隊員は慌ただしく動き始める。
それを横目に指揮官は頭をかいた。
「しっかし、なんでまた俺がこんな旧態依然とした方法で指揮しなきゃいけないんだか……」
「それは小隊長がこのエリアを引き当てたからでしょう。風もなく太陽の位置も固定、モンスターも中・大型で飛行する物もいない。こんな好条件はそうそう無いです。指揮については……階級がちょうどいいからではないでしょうか。手当も出ますし、階層が変更されるまでの一週間程度です。諦めてください」
「たいした手当でも無いんだがな……」
ぼやく小隊長を副官はなだめる。
「まあ、手当が出るだけマシか。……それじゃあ一応今回の作戦の確認だ」
「はっ」
副官は敬礼し、資料をめくった。
「今作戦の目的はこの丘陵エリアを利用した、魔石の獲得及びレベリングになります
モンスターを倒したときの経験値は、モンスターが消えた際、そのモンスターを倒すことに貢献した者すべて――同エリアにいる必要がありますが――に割り振られます。
これを利用して、隊員すべてが経験値を得られるようにします。
まず一つ目に大砲の作成。
魔法により同型の大砲を作成します。この大砲は滑空砲、装薬は黒色火薬になります。これは魔法の精度及び強度を鑑みてのことです。
これをいくつかの点目標に対し射撃出来るよう砲列付置しておきます。
囮部隊によってモンスターの集団を目標地点に誘導、射撃。これを繰り返します。
ある程度ダメージを受けたモンスターを放置した場合、そのモンスターはリスポーンし、そして割合に応じて経験値も配分されるようなので、必ずしも倒しきる必要はありません。
また、囮部隊は馬車を使って移動していますが、《最小要塞》のスキルを使用出来る隊員が乗り込んでいますので、大砲の弾程度なら誤射しても大丈夫です。
そして、これらにより得られた経験値は、指揮、誘導、作成、観測、修正等、それらに関わった者すべてに配分される見込みです」
小隊長は副官の語るそれを、ふんふんと頷きながら聞いている。
それを確認しながら、副官は資料をめくる。
「それらに加えて今回は、間接的に倒した場合に装備品の強化がされるのかという実験も兼ねています」
「強化……。ああ、敵を倒した際に武装が強化される奴か。それはどうなんだろうな……」
「遠距離で倒して場合、複数人で倒した場合、どちらも強化はされています。細かく仕様を変更する意味もありませんし、おそらく強化される可能性は高いかと……」
副官は手元の資料を机に置いた。
「とりあえずは一日、隊員は自前の装備を携行しながら行動。その後強化の具合を別エリアで実験となります。その際小隊長には、代わりの隊員をこのエリアに誘導していただきます」
「うへぇ。また一パーティごとにこのエリアに案内して、しかもここの丘までたどり着かなきゃならんのか……」
小隊長は顔に手を当て天を見上げた。
「このエリアを引き当てた自身の幸運を恨んでください。あと、これはエリア固定の期限まで繰り返されますからね」
副官はにこりともせずにそう言うと、次の作業へと移っていった。
《情報過多、情報過多でござる》
《どんだけ調べてるんだよ、自衛隊!》
《これ、今の会話以外にも色々調べてそうだよなぁ》
《開示して!》
《あまりのことにモナちゃんも呆然としてるぞ》
「………………」
そのコメント通りだった。
モナはウスベニを抱きしめたまま、呆然と口を開けて画面を見つめていた。
《いうて、あの顔一回の放送で何度も見るで》
《…………確かに》
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最小要塞
馬車の防御力強化スキル(馬等も含む)
大砲直撃でも大丈夫。ただし効果は一分だけ。
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