第6話 我、政府と交渉する

「ほあ~……。へ~~……。ふむぅ……。なるほどのぉ」


 モナは政府の者かららしいお便りをためつすがめつ眺めながらうなっている。



《いったい何なんだよ!》

《気になる》

《何書かれてるの? 教えてよー》



 モナはそこでようやくコメント欄に気づいたようで顔を上げた。


「おお、すまんすまん。いやなにこのお便りにはダンジョンの管理は政府が行い探索は自衛隊や警察が主となって行いたいとあるんじゃ。後ダンジョンもむやみに増やさないようにともあるの」



《なんだと!?》

《それじゃ俺たちが入れないじゃないか》

《おーぼーだ。おーぼー》

《我々はー、政府の圧力にはー、屈しないぞー》

《革マルかよ》

《さすがにもう流行らんな》

《革マルって何ぞ》

《これがZZiとの間のジェネギャップ》

《かといってこの要望は納得できんぞ》



 モナもそのコメントにうむと大きく頷く。


「我もそうじゃ。そもそも地球やリナポミンのためにダンジョンに入ってくれる者を増やさねばならぬし、そのために今日のようなことがないよう間口を広げねばならん。それにダンジョンの数を増やす設定はもうやった後じゃからな。増えることは決定じゃ」



《どうしたモナちゃん、急に賢くなったか》

《なんか変なものでも食べた?》

《いや、元からこんなものだろ。ポンコツで常識ないけどそこそこ頭はよさげ》

《しんらつぅ!》


【迷ノ宮モナさん、あなたの言が真実ならば事はエネルギー安全保障の問題と言えるのです。できれば我々の指示に従っていただきたい】


 モナをいじるコメントの中に、急に色違いのコメントが混じってきた。


《なんだなんだ?》

《コメントの色変えれるの?》

《いや、そんな設定はないはず》

《もしかしてお便り送ってきた政府か?》


【そうです。ですのでできればあなた方も無責任な発言をなさらず、我々と迷ノ宮モナ氏の交渉を見守っていただきたい。これは国防国策の問題でもあるのです】


《おーぼーだー》

《そうだそうだー》

《それもそうだけど意外と反応早かったな》

《動画サイトジャックされてるし当然じゃね?》

《だからといって政府が出張ってくるもんか?》

《もしかしたら魔石関係で何か進展でもあったのかもな》

《それこそ昨日の今日じゃね》



 突然の政府の発言にコメント欄も若干のトーンダウンをする。とはいえそれでも批判の声はやまないが……。



《ぽっと出の政府に今更言われたくないな》

《どうせラノベよろしく、秘密裏に探索したいんだろうさ》

《マヨが動画公開とかしてなかったらマジでそうなってただろうし》

《残機制とかがわかった瞬間出てきたのも気にくわないな》

《確かにナー》

《まあでも、国防の問題って言うのはわからんでもないが》

《どういうことさ》

《魔石ってエネルギー資源なんだろ? それを外国の人間にがっぽがっぽ取っていかれても困るじゃんか。あと宝箱の中身の問題もある》

《それこそ自衛隊が管理すればいいんじゃね》

《他国のダンジョン探索よりも先に抜きん出たいって言うのはあるだろうけど……、それでもなぁ》

《え!? 他の国にもあるの》

《そりゃあるだろ。モナちゃんも日本のダンジョンって限定してたし、自分のダンジョンっていう事もいってた。なら他もあるって考えられるだろ》

《まあ、日本だけにダンジョンがあるって考える方がおかしいわな》

《それも大事だが、ダンジョンが一般開放されない事の方が問題だろうが》

《政府の言いたい事もわかるが、さっきからマヨと話し合ってきた事がおじゃんになるのがいやだな》

《ほんそれ》

《急にしゃしゃり出てこないでいただきたい》


【ですから――】



 コメントが流れる中マヨは腕を組み目を落とし、じっと黙っていた。



《マヨちゃんどうしたー?》

《もしかして寝てる?》

《何か悪いものでも食べた》

《拾い食いはダメだぞ、マヨ》



 モナはカッと目を見開き――、


「ちがうわーー」


 ――叫んだ。


「なんじゃお前らはー。せっかくおぬしらの味方をしてやろうと思ってたのに! えーい、やめじゃやめじゃー」


 モナは両手をぶんぶんと振り不満をあらわにした。



《ほらー、お前らがからかうからマヨちゃん怒ったじゃんか》

《誰のせいだよもー》

《お、ま、え、ら》

《そ、う、だ、っ、た》

《しゃーねぇ。誰かご機嫌取れよ》

《うちはさっき言ったマヨネーズしかねぇぞ》

《仕方ない、うちの秘蔵の甘酒を出そう。これならモナちゃん飲めるよな?》

《……許す》

《よし、母上の許可も出たし。どうだ? モナちゃん》



 どうやらその言葉はモナの興味をそそったようだ。モナはチラチラとカメラの方を見ている。


「酒とな? それはさっき皆がハッピーになっておった品じゃな? しかも甘いのか。そうか……、ほほう」


 いや、興味をそそるどころか完全にモナは甘酒につられていた。だがそこに待ったを掛けるコメントが入る



【甘酒でしたらこちらもご用意します。こちらは創業400年の老舗、古くは宮内庁御用達のお店のものをご用意しますから】



「む!?」


 その言葉にモナは動きを止めた。それを見てコメント欄は騒ぎ出した。



《横入りするなよな》

《空気読めよ》

《御用達の甘酒っていうと神田のあそこかなぁ》

《確かにあそこのはおいしいな》

《ショウガいれてのむの好き》

《私はもう一方のお店かなー、そっちの方が濃厚で好みなんだよね》

《いや、うちのもおいしいぞ。ソースは俺》

《ソースが貧弱すぎるんだよなぁ》

《一般売りしてないから仕方ないんだよ。それにな、こちとら明治創業のでまだ創業100年くらいのペーペーだけどよ。それでも丹精込めてつくってるんだ。御用達かなんだか知らねーが負けねーよ》

《おおー》

《すげー、言い切ったな》

《かっこいい》

《創業100年でペーペーとは……》

《ほら、近畿のとある地域じゃ100年してようやく半人前らしいから……》

《ああ、なる》

《一般売りしてないのか、気になるなー》

《むしろ希少度は高いのかもしれないな》

《神田のお店からしたらとんだ飛び火だな》

《ほんまやで》



「いや、やはり我はこやつらの味方をする。政府とやらには悪いがの。そもそも我の相談に乗ってくれたのはこいつらじゃし名前もつけてくれた。政府に比べればあほうじゃろうが、こやつらの方が楽しそうじゃ」


 モナはむふーと鼻息をつく。そうしておいて、あっと気づいたように言葉を継ぎ足した。


「えっと……、別にそのきしょーな甘酒につられたからじゃないんだからの」



《最後の言葉で台無しぃ》

《わざわざ言わなかったら少しは見直してたのになー》

《心配しなくてもダンジョン入れるようになったらちゃんと送るよ、秘蔵の奴をな。そばにダンジョンできれば直接持っていってもいいし》

《あ、神田のやつも店売りのやつなら買っていってあげるー。一緒にお酒飲もーね~》

《この発言は多分博雅姉さんか……。まあ甘酒ならいいか》

《それにしても政府、ぷーくすくす》

《ざまあ》

《これはいいざまあ案件ですね》


【なぜですか! あなたも日本のダンジョンマスターなら日■■――】


《ん?》

《おやおや~~?》

《なーんかお漏らししてるねー》

《なんか黒塗りで見えなかったけど意味深だよね》

《システム側のチェックが入ったのかな》


【失礼、先ほどまで窓口におりました彼は興奮しているようですので、ここからは私、山本が代わって窓口につかせていただきます。よろしくお願いします】


《名無しのやつはクビか》

《妥当》

《多分さっきのお漏らしがマズかったのかな》

《そもそも交渉するような態度じゃなかったもんな》

《たまーに官庁の偉い手にああいうのいるよな》

《あれはあれで扱いやすいから俺は好き、ちょっとおだてるとすーぐお漏らしするし》



「さっきからお漏らしお漏らし、なんじゃ汚いのぉ。政府の者とやらも我慢せずにトイレに行けばよかろうに」


 呆れたようにモナはつぶやいた。


「して山本とやら、担当が代わるのはいいんじゃがもう結論は変わらんぞ。ダンジョンを増やすのは決定しておるし、皆をダンジョンにはいれるよう措置をとってもらわねばならん。それはわかるな?」


【もちろんです。ですが諸々の準備を整えるのに時間がかかります。二月ふたつき、いえせめて一月ひとつきは取っていただかないと】


 モナは首を横に振った。


「ならん。あっても二週間が限度じゃ」


 ……

【わかりました。二週間でなんとか整備を整えます。ですがその代わりダンジョンの場所については事前に教えていただくか、もしくはご相談させていただきたいのですが……】


 モナはふむと考え込んだ。


「それに関しては考慮しよう」



《なんか話に割ってはいれない雰囲気》

《しっ黙ってろ》

《ああいう手合いは横から茶々入れたら余計に不利になる》

《対面で話してるならまだしも、文書とかだとめっちゃやりづらい相手》



【加えて、もしよろしければいくつか機材をお貸しいただけないかと。例えば魔石を判定する装置などありましたら】


「ふむ、しばし待て」


 モナは手元の辞書をめくりはじめた。程なくして手を止める。


「貸し出しはできそうじゃな。よかろう。ただし解体解析も含めこれの悪用は許さぬ。セーフティも掛けておいたぞ。あとはそうじゃな、皆が金に困っておったから魔石や宝箱の物の買取をするように。貸し出した装置があれば大丈夫じゃろ」


【もちろんです。ただし先程の者が申しましたとおり、魔石やリナポミンの品は国防国策の問題と言えます。新しくできたダンジョンにおきましては、そちらはすべて政府で買い取らせていただきます】


「それはダメじゃな。ダンジョン内で魔石を使うアイテムが出る事もあるかもしれんし、宝箱の品は武器や防具かもしれん。それをすべて強制買取は無体じゃろう」



《よく言ったモナモナ》

《だから黙ってろって》


【それでしたら、買取もしくはこちらで保管という形でどうでしょうか。銃刀法の問題もありますし外への持ち出しは許可しかねます。ただ保管も限界がありますので、その限界を超えるようであれば本人に選んでもらってこちらで買取という形で……】


「まあその辺が妥当じゃろうな。細かい事は追々決めておけばいいとして……。ふむ、件の装置をダンジョンに入ってすぐの所に置いておいた。回収するといい」



《モナがモナじゃないみたい》

《わかるー》

《さすがマヨ、我が娘》

《モナモナはポンコツかわいい方がよかったな》



 程なくして政府からのコメントが入った。


【機材確認しました。ダンジョンの設置場所の確認もできました。ありがとうございます】


 その言葉を受けてモナはニヤリと笑った。


「せいぜいがんばるといい。じゃが先ほど言ったように悪用は許さぬぞ。我が悪いと思ったらそれすなわち悪用じゃからな、気をつけておくといい。例えば魔石などを買いたたいて暴利をむさぼるのも悪用と見なす。覚えておけ」


 ………………

【わかりました】


「ま、その代わり今あるダンジョンに関しては占有する事を許そう。先ほど新しきダンジョンと限定しておったからな。もちろん適度に入って探索するように」


【ありがとうございます。助かります】


「ちなみにペナルティにも色々あるが、1番大きな物はスタンピートじゃな。それも秘密裏に新たなダンジョンを開いてそこからスタンピートをさせる。そのような事態にならぬよう、しっかり意思を統一しておけ」


【はい、肝に銘じます】



《おおーーー》

《さすモナ》

《はじめはどうなる事かと思ったが、なかなかどうして》

《マヨちゃん圧勝》

《どうかな、政府もしっかり2週間時間を奪ったし機材ももらえる事になったしなあ》

《基本モナが圧倒的有利な立場だからな、せいぜい辛勝かな》

《そんな事どうでもいい、モナのおかげでダンジョンにはいれそうだし一攫千金の夢も持てる》

《そうだな、モナモナのおかげで買いたたかれる事はないだろうし》

《見直したぞモナー》

《俺は知ってたね、モナができるやつだって》

《はいはい嘘松》

《どうでもいいよ、結果がすべてだ。マヨはすごい!》



「そうじゃろう、そうじゃろう」


 モナは大きく胸を張る。ああ……でも、そんなに胸を張っていると――。


 ――どがっしゃん。

 座っていた椅子がくるんと回ってバランスを崩し、モナは床に倒れ込んだ。


「い、いたいのじゃ」


 モナは赤くした鼻をさすりながら机に寄りかかる。



《だめだ、やっぱりポンコツだ》

《すーぐ調子に乗るから》

《そこがいい》

《むしろそれがいい》



 そんなコメントを見てモナの頬が赤らむ。


「えーいうるさいわい。もう放送も終わりじゃ終わり。切るぞ!」



《あー、待ってマヨマヨー。その前にちょーっと政府の人にお願いがあるんだ~》


【ふむ、なんでしょうか】



「なんじゃ? 手短にせいよ」


 モナは先を促す。


《いや、政府にはさー、マヨマヨ用の動画サイトを作って欲しいんだよねー。ほら、今回みたいに毎回ジャックするのもめんどくさいし、みんなにも迷惑かかるじゃない~》

《いいたい事わかるけど、政府に運営させるのはちょっと》

《いいたい事言えなくなるじゃん》

《そんなの今更でしょー。それにコメント監視して追跡するなんてそれこそ“悪用”でしょ~?》

《ほむほむ》

《モナの所在がばれるって事は?》

《それこそ無理じゃないかな》

《だな、なにげに海外からは今の時間でも日本の動画サイトにアクセスできるみたいだし、だけど日本から串通してもこの配信しか見れない。その辺から考えても謎技術で配信されてるんだ、所在を探るのは無理だろう》

《難しい話は置いておいてー。サイトの運営は政府としてもメリットあるし、私らとしても必要な機能の追加を頼みやすくなるからいいんだよね~》


【なるほど、わかりました。こちらにもうまみはありますし、動いてみます】


《よろしくね~》



「ふむ、ではこんなところかの。それじゃあ次の配信はおそらく二週間後じゃ。皆楽しみに待っているとよい」


 モナがそう宣言すると画面は暗転した。


 この日の深夜には政府からの緊急発表があり、日本は否応もなく動いていく。

 内閣により法案が提出、与党の強行採決により衆参両院を通過し、異例の早さで天皇より公布、即日施行された。

 むろんそれには政治、メディア等様々な面からたくさんの疑義がぶつけられた。だがそれも事実が周知される事により少しずつ収束していく。

 そして、政府からのあらためての正式発表、そしてロードマップの公開により世論は一気に逆方向に舵を取り白熱していく事となる。


 対して世界の反応は様々だった。

 エイプリルフールには早いと笑い飛ばす国、日本総理に電話会談を申し込む国、黙して語らない国……。

 だが、一国の首相を通しての公式発表。これにはただの動画にはない重みがあった。これ以降日本は、そして世界はダンジョンを中心として動いていく事となる。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


これにて一章終了です。

次章でダンジョン増えます。

ノリは同じ感じでユルユル続いていきますので、よろしくお願いします。


気に入っていただけましたら、評価ブクマ等よろしくお願いします。

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