第二層前編 増えたダンジョンと奇妙な探索者たち 一日目
第1話 我、ダンジョンを再始動させる
真っ黒な画面に『あとちょっとだけお待ちください』の文字が流れる。
この動画は政府が迷ノ宮モナのために開設した動画チャンネルだ。その名も『迷ノ宮モナのダンジョン動画チャンネル』である。
何のひねりもない名前ではあるが、これは既存の動画サービスではなく政府が独自にサーバー等を用意してつくったものだ。ネーミングセンス的にはある意味妥当とも言えよう。
この日の朝からアクセスは出来るようになっているが画面は暗いまま、ただコメントのみが流れている。
《待機》
《待機》
《大気》
《待機勢、結構増えてきたな》
《さすがにまだかねぇ》
《待機画面が殺風景すぎる》
《マヨだし仕方なし》
《前回の配信からちょうど二週間にはなるけどな》
《ダンジョンが解放されたのは今日だから、もしかしたらまだかもねー》
《いや、多分今日中に配信はあると思うんだ》
《ほほう、その心は》
《昼は画面に流れてる文字が『しばらくお待ちください』だったけど、いまは『あとちょっとお待ちください』に変わってるだろ?》
《あ、確かに》
《めざといなー》
《それじゃあ今モナちゃん、必死で編集してるのかな》
《頭ゆだりながら編集しているマヨを想像するだけでご飯三杯はいける》
《俺、それはないと思うな。前と同じでライブとか録画を一緒に見るだけだろ》
《ありうる》
《うーん、それだと初回ほどの面白さはないかもな》
《ただ歩いてる姿見てもねー》
《そんなこと言いつつ結構集まってきてる奴っw》
《そんなことよりお前ら、ダンジョンいった?》
《講習の抽選で外れたわ》
《年齢ではじかれた。何で二十歳以上なんだよ!!》
《残念だったな。確か猟銃の免許にあわせたっていってたか? まあ、ダンジョンでやること考えると妥当ではある》
《外に出てきてヒャッハーされても困るわ》
《ちなみに誰かダンジョン入った奴おるの?》
《遠い……、距離日数的に無理。離島なめんな》
《離島ニキか残念だったな》
《免許は取ったけど行ってはないな。ダンジョンには土日に行くつもりではあるけど……》
《免許代が意外と高くて断念》
《ちょっと高いよな、とりあえず様子見だわ》
《元が取れるのかねぇ、免許の更新にも金がかかるだろうし》
《ちなみに講習と免許はどんな感じだった?》
《俺、狩猟免許を持ってるんだけど、法令に関しての試験はそれが役に立った感じかな。あとは適性試験も同じ感じだった。技能試験もやりたいみたいだけど、そこら辺は追いついてない感じだね。まあ講習を寝ずにしっかり受けていれば受かるんじゃない?》
《だな。あ、でも技能試験はないけど、ある程度動けるかどうかは見られるぞ。何かしらの免状を持ってたりすると免除されるみたいだけど》
《あ、なるほど。俺は狩猟免許持ってたからそこら辺免除されたのかね》
《だろうね。あと免許には関係ないけど、中に持ち込む武器は事前に申請しなきゃならなくて、それがすげー面倒》
《あーわかるわ。事前に申請かつ持っていくむねを伝えて、一回預けにいかなくちゃならない。これがめちゃくちゃ面倒なんだわ》
《ま、装備は公式で買うことも出来るけどな。それだと持っていったりとかの面倒は省ける。ただカタログ見た限りだとすげー高い》
《いや、刃物類は妥当な値段だろ? 安値で買うなら六尺金棒とかスレッジハンマーを密林とかモモタロとかで買う方がいいんでないかい?》
《そこら辺の手軽に買える武器系は軒並み売り切れてるんだ、残念ながらな》
《すでにフリマアプリで高額転売されてるぞ》
《転売ヤー死すべし、慈悲はない》
《よく転売なんて出来るよな。俺は怖くてできんぞ》
《ん? 怖いって何で? いや、転売ヤー死すべしなのは同感だけど……》
《だって、モナは政府にダンジョンの悪用は許さないとか言ってたじゃん。それってようはダンジョンにいっぱい人が来て欲しい、そのジャマはするなっていう事だよね。転売で暴利をむさぼるっていうの、明らかにダンジョン探索の妨げになると思うんだよな》
《あ……》
《察し……》
《現状、法的には大丈夫かもしんないけど、それがダンジョンマスター的に許されるかどうか不透明な状況でそれをやるのはなぁ。命がけでやる価値があるのかどうか……》
《文字通り死すべし、慈悲はないの状況っw》
そんなこんなで皆がコメント欄で雑談しているうちにメインの画面に変化があった。
そう、ついにモナによる動画の配信が始まったのだ。
画面に映し出されたモナは左手を腰に、右手を画面に向けて広げ胸を張っている。
そうして彼女は大きく宣言した。
「我、ダンジョンマスター迷ノ宮モナ。これより配信をはじめる!」
………………沈黙が訪れた。
コメント欄も申し合わせたかのように動きがない。
その反応を見てモナはうろたえはじめる。
「あ、あれ? 配信されておるよな? どっか設定間違えたか?」
《はいはーい、大丈夫よモナちゃん。映ってるよー》
《うろたえるモナモナ、かわいい》
《コメント民の暗黙のうちに団結した瞬間を見た》
《書き込んでる途中だったけど、即座にバックスペース押したね》
《我々の団結は世界一ィィィイイィィ》
「な、なんじゃ? おぬしらもしかしてだましおったな!」
怒りか恥ずかしさか、モナは顔をまっ赤にして腕を振る。
《ごめんねー、モナちゃん。これも愛故に、なんだよ》
《そうそう、好きな子にちょっと意地悪したくなる、アレだよ》
《マヨマヨはかわいいからなぁ》
「む? そうなのか……。ならば今回は許そう」
口調は不承不承だが、モナの口元はほころんでいる。
……相変わらずチョロい。
《アレだなー、モナモナがいつか変な奴にだまされないか、とと様心配になっちゃうなー》
《とと様って誰だよっw》
《つ 名付け親》
《ああ、名字じゃなくて名前の方をつけた奴か。いたね、そんな奴》
《貧乳母上のインパクトの方が大きいから、すっかり忘れてたや》
《そんなことより待ちに待ったダンジョン動画の配信しようぜー》
《平日とは言え初日だからな。それなりにダンジョン行った奴いるだろ。楽しみだな》
「ふむ、いや思ったほど多くはなかったぞ」
モナは首を横に振った。
「まあ政府の者も明日からの週末が本番じゃと言っておったからの」
事前に説明を受けていたのか、モナは特に落胆もしていないようだ。
《そりゃそうか、土日が本番だよな》
《土日はダンジョン空いてるけど、講習はないんだよな。俺も早く休み取って免許取らないと》
《どうせなら土日も講習やってくれりゃあいいのにな》
《まあ、もうちょっと落ち着くまでは無理だろ。忙しいだろうし》
《そういや話は変わるけど、モナはこの二週間何してたの?》
《いや、ダンジョン造ってたに決まってるだろ》
モナはその通りと言わんばかりに頷いた。
「うむ。むろんダンジョンを造っておったぞ。まあ設定終わったあとは自衛隊用のダンジョンしか動きがないから暇での、勉強のために色々アニメを見とったよ」
《アニメかよ!》
《ファンタジーものなら参考になるだろうけど》
《主人公無双ものベースでダンジョンを造られると、入る俺たちが死ぬ。やめとくれ》
《どちらかというとこちらの世情を勉強して、こっちにあわせてくれた方がよかった》
「いや、最初はそうしようと思ってニュースとか見ておったんじゃぞ。じゃけどなぁ……」
モナは首をかしげて言いよどんだ。
「あんな公平性を欠いた偏ったもの見ても何にもならんのじゃもの。ダンジョンに関してもつい1日前の自分たちの発言忘れて手のひらくるくるじゃし。メディアって法律で事実をねじ曲げちゃいかんって決まっておるのじゃろ? なのにアレはひどい。明らかに誤解曲解をさせようとしておる。何がメディアの公平性じゃ。どの口が言っておる。あんなもん見る価値もないわい」
しゃべってる内に何やら思い出して興奮したのか、モナは早口になりバンバンと机をたたく。
《台パンw》
《おおう、おこだわ》
《激おこプンプン丸やね》
《誰だよ地雷ふんだ奴》
《俺だけど……、でもそもそも悪いのはメディアだろ》
《まあなー、法案の強行採決したあたりではさんざんっぱら批判しといて、今は手のひら返してるからな。気持ちはわからんでもない》
《今は魔石を海外に無償提供するべきとか、わけのわからん論調のコメンテーターもいるぞ》
《まあ、どっかの国に鼻薬でも嗅がされてるんだろ》
そのコメントを見てモナはフンと鼻を鳴らす。
「魔石が欲しけりゃ自国のダンジョンでなんとかするといいじゃろうに。いちいちこっちにたかってくるな。我は日本担当のダンジョンマスターじゃぞ。他の国の面倒までみんわ!」
《あー、そこもおこポイントなのね》
《ま、あんまりひどけりゃモナ的制裁を加えればいいんじゃね》
《いや、それは悪手だろ。下手したらモナが悪者にされかねん。それにまかり間違ってモナにすり寄ってこられても問題だろう》
「おおう、いやじゃいやじゃ」
モナは寒気でも感じたかブルブルと肩をふるわせる。メディアも嫌われたものである……。
《つーかそんなことより、やっぱり他の国にもダンジョンはあるんだな》
《まあな、明らかに世界の反応おかしいし》
《こちらをあしざまに嘘つき扱いしてきたのは一国。他は沈黙を守るか、緊急の電話会談か……》
《あからさまだよなぁ》
《個人的には産油国の反応が気になるところ》
《ああ、魔石は化石燃料の代わりになるかもって話があるもんな》
《てっきりジャマしてくるって思ってたけどそうでもないのな》
《まあ、まだ実用段階でもないだろうし、様子見してるのかな》
《いや、ジャマするよりもむしろ協力してくるんじゃないかな~》
《ん? なんでさ。石油使われなくなったら困るだろ?》
《まあ、それはそうなんだけどー。どうやってもその流れは変えられないと思うしね~。それだったら積極的に介入して魔石の利権も手に入れた方がいいじゃん。幸いたっぷりお金はあるんだしね~》
《あーね》
《なるほど、そりゃそうか》
《実際核融合発電研究の1番のスポンサーはそこら辺らしいよ~》
《ほうほう》
《また一つ賢くなってしまった》
《どうせ明日起きたら忘れてるだろ、意味ないな》
《なめんな、一時間後には忘れてるわ。アルコールと一緒に蒸発してる》
《だめじゃん》
《ちゃんと~、アルコールと一緒に吸収しなきゃ~》
《もう飲んでんのかよ!》
「はいはい、話題は尽きぬだろうがそろそろいいかの」
モナが手をたたいて皆の注意を集める。
「さっきはすまんかったの。ちょっと興奮してしもうた。そろそろ動画を見ようと思うんじゃが、ええかの?」
《いいよいいよー》
《こっちこそごめんね》
《待ってました》
モナはふむと頷き言葉を続ける。
「とりあえず今日は新しく造った八つのダンジョンから三つピックアップしようと思うが……。どれにしようかのぉ」
モナは目の前に八つのボードを出し「どれにしようかな……」と数え歌を歌い始めた。
《懐かしいな、どれにしようかな天の神様の言うとおりってな》
《いや、裏の神様の言うとおりだろ》
《そうそう、そのあとはあっぷっぷーのぷーだよ》
《いや、それはおかしい。ちっちぱっぱちーぱっぱだろ》
《いやいや裏の神様じゃなくって天の神様だって言ってるだるぉ》
《むしろEeny, meeny, miny, moeがジャスティス》
《さすがにそれは違う》
そんなどうでもいいコメントが流れる中、モナはようやく一つのボードを選び取った。表に返されたそのボードには『つくば』とある。
「よし、これじゃな。ふむ、関東地方つくばにあるダンジョンか。よし映すぞ」
画面が切り替わった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
というわけで二章開始。
今章から、モブも含めて(コメント民以外の)登場人物が増える予定です。
あ、面白いと思っていただけたら、評価ブクマ等まだの方、いただけると嬉しいです。
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